魔境の裏側 12 


 

「私がお前を利用したというのか?」  

 「しなかったとでも?私に取り入って王の象徴である剣と首飾りと鏡を手に入れようとしたのはあなたの方じゃないか?もっとも鏡以外は貴重な文化遺産という以外なんの価値もないがな」

 「それはカムイが頑だったからだ。お前が戦いを止める気がなかったからだろう。私はどうしてもこの無意味な戦いをお終いにしたかった」

 「あなたにとって無意味でも私達にとっては意味があったんだ。戦いが嫌だったら、リョウガの方が我等の軍門に下るという選択肢もあったじゃないか?それをしないで一方的に私を騙して王の宝を手に入れようとして戦いを終わらせようなどと片腹痛い」

 「実質的に我等が国の殆どを掌握していたじゃないか?お前達が気にしてるのは歴史の名を語った体面だけだ」

 「リョウガ……だから先程も言ったろう?我等がユーリーを味方につけ彼等を利用すれば勝利など造作もない事だった。なぜそれをしなかったか?少し考えればユーリーの管理も出来ない状態で彼等の手を借りる事がどれほど危険かリョウガほどの男なら分かると思っていたよ」

 「私を好きなどと言って俺の気を持たせて結局は侮辱しにきたのだな」

 「侮辱などできる訳もない……私は本気でお前が好きだった。リョウガ……苦しくて生きているのも嫌だったけれど、結局彼が助けてくれたんだ。私を何の見返りもなく愛してくれた。私があなたの所作で自暴自棄になりあなたを忘れたくてあなたの代わりに彼に抱かれている時も無償の愛で私を満たしてくれた。だからこうしてあなたと向き合う勇気ができたんだ」

 「ふざけるな……誰に抱かれていたんだって?私がそれを許すと思うのか?」

 カムイはさも可笑しそうにくすりと笑った。

 「何が可笑しい」

 「誰に抱かれていたかそんなに知りたいか?私はもうひとつの世界で涼夏に抱かれていたんだ。あなたそっくりのね」

 リョウガの顔から血の気が引いていく。

 「嘘だ……そんなことは信じられない」

 しかしその顔色から動揺しているのは明らかだ。リョウガだって神威に出会ってカムイと 全くの別人の神威が瓜二つの顔と名前を持っているのを誰よりも知っていた。

 もう一つの世界で同じ事がないと誰が言い切れるのか?と。

 そうだ、リョウガだってカムイだと信じて神威を抱いていたのだ。

 ユーリーが嫉妬し神威が誤解してしまうほど優しく……ありったけの愛を込めて……。

 だけど嫌だ、嫌だ、嫌だった。

 カムイが例え自分そっくりであったにしても自分ではない別の男の腕に抱かれていたなんて、絶対認めたくなかった。

 「お前は私ではない別の男に抱かれていたと言うが、それは私だと思って抱かれていたのだろう?それならそのもう一人の涼夏にお前は不誠実ではないのか?お前はやはり私だからこそ抱かれていたのだ」

 「神威を抱いたあなたがそれを言うのか?あなたも深層心理では彼が私ではないと気がついていたのだろう?ましてユーリーが私と神威の違いに気がつかないはずがない。 彼はあなたに忠告したはずだ、私と彼が全く別人だと。 それを敢えて無視したからユーリーは、自分の感情を押さえ切れなくなったのではないのか?」

 リョウガはぐっと深く唇を噛み締めるとカムイから目を逸らすように俯いた。

 「お前だと思っていた。本当だ……お前だと信じていたんだ」

 「都合のよい理屈……都合のよい言い訳、あなたとあなたの家臣だけしかこの世界にいないならば、 それもいいでしょう。そして私も閉息した関係からあなたのその強引さが私を救ってくれる気がして あなたに惹かれていった……でも」

 リョウガの縋るような瞳……同じ言葉を私は自分に対して戻ってくる。自分勝手なのは私も同じだと。

 「カムイ……お前が愛おしいと思った事は本当だ。だからこそ天の塔にお前を助けにいったのだ。 そこであのお前そっくりの青年にあってこの城に連れ帰った。どうして私が彼がカムイではないと分かるというのだ?」

 そう気持ちがすれ違ったのはリョウガの所為だけではないはずだ。

 私も涼夏をリョウガだと思おうとして彼を結果として騙したことになる。

 「そうですね。結局あなたと私はあまりに似ているという事だ。途中までは惹かれあっても同じマイナス極で反発しあっているようなもの。あなたの事が好きだったというのはすでに過去の話、有り体にいえば今はあちらの世界の涼夏のことしか考えられない。だからユーリーの事は不安だがあなたを信じて私は元の世界に帰る事にする」

 「なんだって?!私を置いていくというのか?勝手すぎる」

 「リョウガ……あなたには神威がいる。あの子は自分の気持ちや立場よりあなたの事を誰よりも心配していたよ。そして可哀想にあなたに嫌われたとぼろぼろに傷ついていた。私に必要なのは涼夏であなたではない」

 「あの神威はお前ではない……それなのに私を置いてもう一人の男を選ぶというのか?お前の思惑どうりに物事が進むと思ったら大間違いだ!ユーリーはどうするお前こそ無責任すぎるぞ!」

 「神威に伝説の光の壁がなんの訓練もなく作れたのだとしたら、私よりもあなたのお役にたつでしょう。彼を生かすも殺すもあなた次第、あの子が命を落とせば私も生きてはいられない。どうかあの子を大切にしてあげてください。そして最後に……あなたに惹かれ、あなたを愛した事を今は後悔していない。 あなたが好きだった。こうやって生きているうちにあなたに自分の気持ちを言えた事に私は感謝しています」

 「どこにいくつもりだ!カムイ!カムイ!帰ってきてくれ!お前がいないこの世界なんて 信じられない……」

 鏡の中に入っていく私にリョウガが手を伸ばす。なぜ、今になってそんな事をいうのか?私だってあなたが好きだった。どうか、どうか神威を愛してやってくれ!


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