ダイヤモンドダスト2

kohinoor



 元木祐也の恋人森川卓巳は社内1の美人と評判の人である。

 それなのに、元木はどうも素直に喜べない。 それは、彼が男であることと、そして何より自分がなぜか受け身であることなのだ。 たとえ男であってもこんな美人が恋人なんて、自分は果報者と思わなければいけないのかもしれない。 そこは100歩譲るとして、なぜ、ごく普通の自分がこんな美人に組み敷かれなければいけないのか? 正直いって納得できない。

 しかし、恋人達の夜は更けていく。

 今夜も優しく甘く組み敷かれながら身体は激しく快感にむせび泣き、 心は激しく疑問にむせび泣く。

 そう、無理強いされたことは一度だってなかった。

 なぜか、色っぽい森川にうっとりしてる間にあれよあれよと行為はすすみ いつも泣かされてるのは自分の方なのだ。

「可愛い祐也.....」
そんな甘い言葉にだまされて週末は朝まで腰が立たなくなる程 熱く愛されてしまう。

『違う、絶対どこかが間違ってる』

火照る下半身をなだめるように撫でながら、ついついため息も出てしまうと言うものだ。

「祐也、ゴールデンウィークはどこもいけなかったから、今度の週末に摩周湖にいかない?」

「行かないか?って摩周湖って北海道じゃなかった?」

「うん、チケットはもう予約したんだ。週末祐也も休みじゃない」

「どうして事前に相談してくれないのさ」

「だって、今月のバースディ割り引きの締めきりが迫っていたんだもん」

 優しく頬を撫でチュっとキスされてそれ以上いえなくなってしまう。 あぁ、僕は女の子じゃ無いんだけどな。こんな生活に慣れちゃったら絶対更正できないよな。

 そんなこんなで5月のある週末、2人はk空港に降り立った。

「さ、寒い」

 東京は蒸すほどだったのに、北海道ときたら5月だというのに10度も無いのだ。 信じられない。涼しいを通り越して寒いじゃないか。ダウンジャケットを持ってくるんだった。 すると森川がふわりと自分のジャケットを元木にかけた。

「寒い?もっとこっちに来て。僕が温めてあげるからさ」

 東京じゃ誰かに会う不安でそんなことをされたら、烈火のごとく怒る祐也だったが こんな田舎じゃ知り合いもいないだろう。 お互いに大胆になる。ぴったり寄り添いながらタクシーに乗ると森川が声をひそめて聞いた。

「お腹空いたね。何が食べたい?」

「卓巳が食べたい」

 こんな大胆な事をいえるのも知り合いに出会う訳もないという気持ちから。 二人は運転手に気後れすることもなく、熱くキスしてから森川がもう一度聞いた。

「せっかく北海道に来たんだからさ、お寿司でもどう?」

 空港から大分タクシーに乗っているはずだが民家が殆ど無い。 今日中にホテルにつけるのか不安になる。

「どのくらいでホテル?」

「今夜はK市に泊まってから明日、摩周湖だから後、20分くらいかな?」

 タクシー代も嵩みそうである。 旅行代金は森川が奢ってくれるというのでタクシー代と夕食代は元木が払おうと決めていた。

「北海道は回転寿司も美味しいって聞いたけど」

「うん、じゃあ僕の知ってる有名店に行こう」

 さっそく、二人は寿司やの暖簾をくぐる。 お互いの腰に手を廻し、まさにハネムーンのカップル気取りでカウンターに座った。

 ところが、カウンターに座ったとたん、森川が元木の腰に廻していた腕を唐突に外した。 え?と思って卓巳の顔を見つめると先程の甘い顔とはうってかわり無表情で一点を見つめていた。

 その視線の先にカップルがいる。 淡いスーツに身を包んだ優しげな女性と高級オーダースーツを着込んだ目つきのきついガタイのいい男。

胸騒ぎがする。

「出ようか?」

元木は思わず森川に声をかけた。

「別にいい」

 表情はいつもの森川に戻っていたが、先程の甘やかな空気はもう、どこにもなかった。

BACK TOP NEXT