ダイヤモンドダスト

diamond dust 8



森川から、2週続けて連絡はなかった。
勿論、元木も森川の携帯を名刺で知っていたがかけようとしなかった。 いや、それは間違いだ。何度もかけようとはしたのだが かけられなかったというのが本当だ。

(電話してどうなる?会いたいって事?
あったら当然やることはひとつだ、
お子さまじゃないんだから、他に何がある?
したいって電話するわけ?僕の方から?)

でも、このイライラを元木はどうしようもない。
頭を森川の声がこだまする。
(・・・・・男は刹那的だから・・・・・)
そう、それが嫌なのだ。多分身体だけなんて嫌なのだ。
でも、男女では無い関係に他に何があるのか想像もつかない。
なぜ、こんなに胸が痛いのだ。何も考えたくない
(仕事で認められて本社にいこう、もし森川と今後何もなくてもじっとしてるよりはずっといい)
それからの元木はまわりが驚く程、仕事一筋で頑張りだした。
仕事をしてるときだけが、森川の事を忘れられたから。
他人の分の残業も引き受け、営業でもないのに友人達にメールしたりして 細かい仕事をとってきたりした。
周りの印象は『無理しないで』とか『失恋したんじゃないの』
などというはなはだ消極的なものではあったが元木は気にしなかった。 そうして、1ヶ月が過ぎていった。
仕事でどんなに疲れていても眠れない夜はある。
そんな夜にふと、元木は思い付いた。
(考えてばかりだからいけないんだ。明日の土曜日は身体でも動かそうか)
そうしてつい足がむいたのがなぜかあの日の 市民スケートリンクだった。
さすがに土曜日のリンクはカップルで溢れ、ただ身体を動かす目的で来た元木に適してる場所とはいいがたかった。
すでに元木は後悔していた。 (誰か誘ってくればよかった)
よほどスケートが上手ければ別として 多くのカップルが行き交う中、こんなところに一人でやってくる物好きは元木くらいである。 もう帰ろうと決心した時、なぜか元木はリンク中央の一際眼をひく者に気が付いた。
その男はテレビで前にみたことがあるアイスダンスのように華麗にステップを踏み、他の群集とは明らかに違っていた。
後ろ向きに交互にステップを踏みながら優雅に滑る姿に思わず見とれた。

(すごいプロなのか?)

背中から何かが突き抜けていく。
元木は何に感動しているのか解らなかったがこんな手首から粟立つ気持ち になったのは始めてだった。
ふと、眼を離してる内にその人陰は消え、捜すように元木があちこち視線を送っていると すごいスピードで腰を捕まれ、元木は滑り出していた。

「森川...........」
「やっとあえたね」
「さっきの滑っていたのは君?」
「まぁね。実はきっとここで会えると思って毎週待っていたんだ」
「毎週?」
「うん」
「どうして.....」
「もし、君が本当に僕に関心を持ってくれたら、きっとここに辿り着くと思ったから」
よくそんな恥ずかしい台詞を衆人の前で言えたものだ。
「スケート教えてあげるよ。」
「スケート?」
「スケートなら男同士で手を繋いだってそんなに不自然じゃないし」
「そうかな」多分不自然だと思ったけれどそれは言わなかった。
「そして君ならきっとすぐにうまくなる」
「うん、教えて欲しい」なんだか素直に言えた。
森川は夢見るようにその綺麗な大きな瞳を細めてささやいた。
「冬に北海道へ行かないか?屋外でスケートする開放感がたまらないんだ。 君さえよかったら、ダイヤモンドダストを見に行こう。」
どこまでこの男の言ってる事はジョークなのか本気なのか解らない。 でも、元木は現実味のないふわふわした気持ちになった。
(このまま、こいつに流されていくのか?...というより自分から流されていってるのかも)
元木は自分の知らない嵐の中に流されていくように森川の手を強く握り返した。



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