宴席に向った元木は誰かが女装してない彼を見咎めるのでは?と多少不安があったが
誰も元木をかまうものはいなかった。拍子抜けするほどだ。
「あんなに無理強いしようとしてたのに、まぁ、いいんだけどね」
つい独り言も出ようと言うものである。
宴もたけなわ、森川がスポットライトを浴びて舞台のそでに立つ。
流れるようなさらさらした髪がきらきら光り、
まさに天使のようだ。
誰一人からかうものもいない。まさに息を潜めて見とれていた。
その直後、うぉ〜〜〜という地割れのような盛り上がり。
「一緒に出なくて良かった」思わず元木は深くため息をついた。
いつの間にか元木の近くにやってきたお局の佐伯女史がにっこりと笑って元木に話し掛ける。
「元木ちゃんだって充分可愛いわよ。でもあれはプロの世界みたい。
あれじゃあ、からかう人も出なくて逆に不満がたまるんじゃないかしらね」
ふふふと不思議な笑いを浮かべながら席を立った。
たしかに際物じゃないよな...。元木はひとりごちながら、すっかり毒気を抜かれたような
気持ちになって、こっそりと1次会で帰る事にした。
もともとお酒なんか強くない。 去年は先輩達がついてきて大変だっのだ。
こっそり帰ろうとすると、階段のところで演目の終わったらしい
森川にぶつかりそうになった。
元木が「先ほどはどうも。」 と軽く会釈して帰ろうとすると森川は
「僕、北海道から出てきたばかりでこの辺り詳しくなくって.....」
「えっ?」
「元木さんよかったら、この衣装を預けられる近くのロッカー教えてもらえないでしょうか?」
そうだった、それは自分が三島に渡されたものである。
「もちろんですよ。今日はお世話になったし、その後よかったら僕の知ってる店にいきませんか?」
半分儀礼で言ったのだが、森川は嬉しそうについてきた。
『僕が連れて来てよかったのかな?彼こそ本部のアイドルだろうに』
そうは思ったが、もう、乗りかかった船である。あまり考えるのが得意ではない元木は
どうにでもなれという気持ちで、夜の深いネオンの海に身を投げ出した。
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