元木祐也が勤めているのは、運送会社の事務所である。
会社自体は小さくもなかったが、元木の通ってる事務所は少し都心から離れていたため、
ビルの1フロアーも他の会社の事務所と共同で使っている。
でも、それだけにどこかほんわかした雰囲気のある職場だった。
先輩達も普段は仕事には厳しいが、親切で優しかった。
女の子も顔で採用されたんじゃ?と思うような美人ばかり。
祐也は本当に歓迎会以外は満足していたのだ。
「今年も元木の女装でいいんじゃないの?本社の連中も楽しみにしていてさ。
コリス女学院の制服を妹から借りてくるって桜場なんかすっかりその気だぜ」
三島がきりだした。この男は仕事もできて、女にももて、大きな発言権をもっている。
「いやです。それだけは....。絶対、そんなの決まったら、僕、当日年休もらいますから」
元木は首筋まで真っ赤にして叫んだ。
「当日は年休なんか取らせないぞ。女装が嫌なら、お前が責任持ってなんか案出せよ。
はずしたら承知しないぞ」
三島はにやりと笑った。
彼は元木が他の案なんて出せないのを知ってからかっているのである。
いやだ、それだけは。虚弱な自分が女装したっておかしくもなんともない。
元木はそれじゃなくても、筋肉のない貧弱な身体や166しかない身長にコンプレックスを
もっていたのだ。
女の子達に人気がないわけではなかったが、いつもいわれる形容詞は『可愛い』とか
『きれい』......やめてほしい。
一度でいいから『かっっこいい〜。』とかCoolとかいってほしいのだ。
歓迎会の日時は迫って来たが、元木は何も代案を出せないでいた。
もう、こうなったら仕事にも影響がでそうだ。だからって女装だけはやりたくない。
堂々回りのまま、ついに当日を迎えてしまった。
三島が嬉しそうにスキップでもしそうな勢いでやってくる。
「これね、桜場の妹の制服。汚すなよ。ウィグも入ってるから、
女の子達がお前に化粧するためにいっぱい化粧道具を家からもってきたみたいだぞ」
いやだ〜〜。 もう覚悟を決めなければいけないがそんな覚悟なんてしたくない。
「男らしく覚悟を決めろよ」 三島の決め台詞で仕方なく更衣室に向かう元木だった。
しかしそこには先客がいた。 本社のバッチをつけているが見た事がない体格。
振り返ったその顔をみて元木は服を落としそうになった。
どうみても女性にしかみえない、まつげの長い色白の美少年がたっていたからだ。
少年は爽やかな笑顔を元木に向けると、
「東支所の元木さんですか?僕、北海道から今年転勤してきた森川です。」
といいながらさっと綺麗な名刺を差し出した。
「今年僕、はじめてこっちに来たので、僕が元木さんの代わりに女装の隠し芸を
やってもかまいませんか?」
夢ではないのか?元木は声も出ない程喜んだ。 目から涙がこぼれそうな気持ちだ。
「よろしいんですか?僕、去年やったから、
正直これから毎年やらされるんじゃと思って困っていたんです。
すごく助かりますけど、森川さんは、あの.....」
森川は、エクボも零れんばかりの笑顔を元木に向けて言った。
「僕、女顔だから、こういうの慣れてるんですよ。宴会で受けるの嫌いじゃないしね」
自分が嫌だからって森川に押し付けるのも気が引けた元木はそういう森川に心底ほっとした。
「僕ね自分で化粧もしちゃうんです。もう、開き直りってやつですよ。」
そういってくすっと笑うと本当に女の子の様な愛くるしい笑顔を元木に向けてきた。
男だとわかっているのに、元木はどきどきしてしまった。
いままで女の子だってこんなに綺麗な子に会った事がなかった。
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