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kohinoor 8 |
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いったいどこから捜したらいいのだろう。名所と呼ばれる橋や公園はホテルから すぐ近かったが、北海道の寒さを知らない元木がたとえそこに見物に行っても、寒さに耐えられずすぐに帰ってくるだろう。森川が心配のあまり眉間に皺をよせていると、 有賀はそんな森川を見つめてから遥か彼方を見つめるように目を眇める。 「そういえば卓巳が高校時代に気に入ってた奴もユウだったな」 「え?」 「ほら、女の子みたいな小顔の睫の長いやつさ。羽生雄斗って覚えてないか?」 「あぁ、いたね?可愛い奴だったな。そうかあいつもユウか……祐也と字は違うけどね」 懐かしそうに森川も彼方を見るような瞳をする。 「あいつも、今はなかなかイケメンの彼氏と同棲中さ。あいつが教師やってるんだぜ」 「へぇ〜」 一瞬、森川は懐かしそうな顔をしたが、祐也の事を思うとそれどころでは ないのだろう。 必死にイエローページをめくってそれ以上関心を示そうとしなかった。 そんな森川の後ろ姿を有賀は暫くじっと見つめていたが 決心したように声をかけた。 「やっぱり……俺は一緒には捜しに行かないことにするよ」 「え?どうして?」 森川が怪訝そうに振り向いた。 「やっぱり彼女をひとりにしておくのは不味いし、でもホテルに戻ったら俺は俺で電話であちこち捜してやるから」 「そりゃそうだね。彼女によろしく」 ふっと森川が有賀に微笑みかけた。その有賀が見た事もない穏やかな優しい笑顔は有賀の胸を詰まらせる。 本当の事を言えば、彼女の事なんか殆ど考えていなかった。 必死に恋人の様子を心配する森川の姿がたまらなかったのだ。 どんなに苦しくても二度と卓巳は自分の手許には戻らない。そう実感してしまった。 本当の意味でやっと失恋できたのだろう。自分は今後は性癖を隠しながらも 自分はきっと彼女を大切にして共同生活をしていくに違いない。 真一文字に固く口を引き締めた。有賀は胸の奥から何か熱いものが込み上げてきたが 瞳をしばたくと必死にこらえて笑顔を作った。 失恋はどんな場合でも辛いものだ。相手が手に届く場所にいて自分以外の人間と恋に落ちていれば尚の事。 有賀は夢中で電話帳と格闘してる森川に声をかけずにそのまま部屋を出る。 ホテルを出ると有賀の心とは逆に空は抜けるように青かった。 その頃、元木はホテルのフロントに勧められた博物館を見ていた。 高名な建築家が設計したというそこは、外観の割にそれ程広くなく、ある程度見るともう時間を潰す事も できない。もともとそれ程郷土史や地理などに関心がある方ではなかった。 ぼうっと土器を見つめているとつい森川の事ばかり考えてしまうのもなんだか癪にさわる。 そろそろ引き上げようかと戻りかけた時だった。 こちらににこにこと笑いかけながら近付いてくる 人物がいる。 この街に知り合いはいないはずだが?と思って訝しんでいると、それは先程のフロントに いた男だった。 「あれ?ここに来られる予定だったんですか?」 人懐っこい性格の元木はつい話し掛けてしまう。 「えぇ、郷土史に興味がありまして、暇な時は時々来るんです。ここって妙に落ちつくでしょう?」 落ちつくでしょう?と言われて違うともいえず、 「そうですね」と相槌を打ってしまった。 「この近くに遺跡があるんですよ。アイヌの砦跡です。歩いていける場所なのでよかったらご一緒にいかがです?」 普段の元木ならこんな場面を警戒しないわけはないのだが、相手はオフとはいえ、自分の泊まるホテルのフロントなのだ。つい気が弛んでいたに違いない。 「はぁ」 一応曖昧に返事をした。今頃森川が有賀とよろしくやっているような気がして半分は自暴自棄になっていた。 |