ダイヤモンドダスト2

kohinoor 6



 一方、ホテルの部屋に残った森川は出ていった元木をもちろん、すぐに追いかけようとした。 だが、入り口近くで有賀が腕を掴む。

 「放せ……」

 「行くな」

 「出ていけ!お前を呼んだつもりはない」

 「そうか?なぜ、あの時、お前は恋人ではなく俺をじっとみつめていたのか俺にも解るように説明してくれないか?」

 「どこかで見た顔だと思っただけだ」

 有賀の顔がすっと曇る。

 「本当に忘れていたのか?そんな訳はないだろう?たとえ顔は忘れていても身体やその唇は覚えているだろう?」

 そういって掴んだ腕を捻りあげそのまま顔を寄せる。森川は思わず顔を背けたが有賀は今度は森川の 髪を乱暴に掴み上を向かせると強引に唇を奪う。

 「いっ!」

 森川が有賀の唇を噛んで血が滲んでいた。

 「警察を呼ぶぞ」

 「卓巳……」

 「ふ……高校時代のままの私だと思ってもらっては困るな」

 「……?……」

 「もう、お前の身体になんか興味はないんだ」

 森川の唇にも有賀の血が残っていて壮絶に色っぽかった。

 「今は、あの坊やがいいのかい?」

 片頬だけで笑いながら有賀が揶揄する。

 「あぁ」

 そういって森川はポケットを探ると携帯を取り出して元木を呼び出そうとした。 久保田利伸の着うたが、ベッドサイドから流れてきた。森川の顔が青くなる。

 「祐也……」

 有賀も少し困った顔をしてみせる。

 「携帯……置いていったのか……この辺りに土地勘は?」

 「祐也は初めて来たんだ、土地勘なんかあるわけがない……お前のせいだ……有賀」

 「悪い……こんなところでお前に会えると思っていなかったんだ。会えると良いとは思っていたけれど 冷静じゃなかった……せめて先に電話をすべきだったな……」

 森川は冷たい顔で言い放つ。

 「お前の喜ぶ話をしてやるよ。確かに僕はお前を忘れた事なんかない。そして今日、あそこで お前にあって目が離せなかったのは確かだ」

 「卓巳……」

 「だが、それは、高校時代の思い出したくもないトラウマのようなものだ。 あの時の恐怖で目が離せなかった。だけど、僕はもう、あの時の僕じゃない…… 苦しいのに何も感じてないような顔をしていた僕はもういない」

 「それは……?」

 「二度とお前に抱かれるのは真っ平だと思いながら、セックスなんかたいしたことじゃないと 自分をごまかしていたことだ。はっきり言おう、お前に二度と触れられたくない」

 眉間に皺を寄せながら苦しそうに有賀は下唇を噛んだ。

 「そこまでいうか?」

 しかし、有賀は森川の挑発に乗らなかった。

 「どうした……腹を立てて俺を強姦するのがお前のやり方だったろ?」

 「俺も大人になったのかな……」

 有賀は少しうつむいて続けた

 「俺、さっきの娘と結婚するんだ。あいつの親が大きな病院の院長でね。俺は真性のゲイだと思ったけど目を瞑ってお前を思い出すと女とでもできるんだ……何年もたっているのにな……やりきれなくて……お前の故郷にお前の匂いを捜してやってきた……独りになりたかったのについてきたんだ。だから俺があいつをなんとも思っていない事を解らせてやろうとあんな回転寿司屋に連れていった。きっといいところのお嬢さんだからばかにされたと怒り出すと思ってね」

 森川は緊張を解いて小さくため息を漏らす。

 「僕も祐也のおごりじゃなかったら、あそこにいってなかったよ」

 「それなのにあいつ、素直にすごく喜んでいたんだ。自分の不誠実さがいたたまれなかった……そんな場所であんなタイミングでお前に会ってしまって……」

 森川は少し悲しそうにふっと笑みを浮かべた。

 「お互い最悪のタイミングだったね」

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