ダイヤモンドダスト2

kohinoor 5



 有賀は軽く会釈すると滑り込むように部屋に入ってきた。

 「先輩、突然すいません。先程は僕も舞い上がっていましたので、 連絡先くらい教えて頂こうと思いまして」

 口の端に軽く笑みを浮かべながら、有賀はじっと森川を見つめた。

 「……どうやって……この部屋を?」

 森川は酷く狼狽していた。いつもシニカルで自信たっぷりの森川のこんな姿は 元木にとって痛々しすぎた。

 「フロントで教えてくれるわけないですからね。実は後をつけさせてもらったんです」

 森川は不愉快さを隠さずに吐き捨てる。

 「何を考えてるんだ。まるでストーカーじゃないか」

 「確かに……ストーカーですよ。今まではこっそりやっていたけど、先輩に恋人同伴で 旅行までされたらね。話だけでも聞いてもらえないか?」

 有賀は少し俯き加減で肩ごしに元木に視線を送った。

 元木はドキッとしてまるで自分の方が二人のじゃまをしているような気分になってしまう。

 「僕、席を外した方がよさそうですね?」

 「悪いな……」

 有賀がそういうと、森川は「外す必要なんかない」と再び有賀を睨み付けたが、

 「僕、ちょっと外の空気を吸ってきます」

 元木はそういって慌てて部屋の外に飛び出した。

 予想に反して森川は元木を追って来なかった。 自分の手前、森川はあぁ言ってくれたが、結局は有賀といる事を選んだ。

 間違いなくあの二人はお互いに未練があるのだ。

 じゃあ、僕は……僕はただの当て馬じゃないか。

 そう思うと悔しくて唇を強く噛んだ。口の中に微かな鉄の味が拡がるのを感じたが そのまま飲み込む。

 携帯は置いてきたが財布は持って出た。元木は小さくため息をつくと、今日はあのホテルに 戻りたくないと考えだしていた。ふと左手を見ると全国チェーンの大手ホテルが見える。 こんな惨めな気分で小さなホテルになどもっと惨めになりそうで泊まりたくもない。

 ホテルのフロントに行くとちょうど7周年キャンペーン中でシングルが素泊まり8000円で泊れるというパンフレットが目に付いた。食欲なんか湧かないからこれで充分だ。

 「今日これ、まだ泊れます?」

 「ええ、このタイプですと、空室がまだ御用意できます」

 ホテルのフロントはにこやかに微笑む。なかなかのハンサムだ。その笑顔がなぜか森川と重なって見えた。

 「じゃあ、お願いします。それとこの辺りで有名な場所があるかな?」

 「どういう場所がお好みですか?博物館が有名ですが」

 「じゃあ、そこを教えて」

 「今、市内でスタンプラリーもやってるんですよ。こちらに博物館の地図や説明も載ってますので どうぞお持ち下さい」

 冊子になったパンフを貰うとそのまま、タクシーに乗る。荷物は森川との部屋に置いてきたから、何も持っていなかった。

 「携帯くらい持ってくればよかった……」

 部屋を飛び出してしまってからは、こちらから森川に連絡しずらかった。

 少しでも僕を心配してくれているだろうか?

 今頃あの二人が甘い時間を過ごしているような気がして こちらから連絡なんかできそうになかった。

 「僕を少しでも思ってくれるなら、捜しにきて……」

 自分でも考えてる事はむちゃくちゃだと思ったが、それほど元木の心は深く傷付いていた。

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