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kohinoor2 |
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カウンター越しにちらちらと森川はそのカップルを盗み見ていた。 どうやら今の森川には恋人の元木に気を使うだけの余裕は無さそうだ。 元木もあきらめて寿司をつまみながらそのカップルを観察することにした。 女性はどこにでもいるタイプで綺麗な人なのだろうが、個性的なタイプではなく、たぶん街で会ったら 他の女性と区別なんかつかないだろう。 もともと、元木は人の顔や名前など覚えるのは大の苦手なのだ。 一方、男の方はといえば、どちらかと言えば美青年なのだが、その猛禽類のような きつい目つきがおそろしく、夢にでも出てきそうなタイプである。 たぶん、人の顔を覚えるのが苦手な元木でさえ、2度と忘れる事は出来ないタイプだ。 二人があんまり熱心に見つめるものだから、そのカップルが森川達に気がつかない訳がなかった。 女の方は知り合いかとにこやかに会釈し、男の方は不審そうに流し目を送ってきてから、はたと気がついてこちらに向ってくる。 森川の瞳が泳いだ。 元木は急に不安にかられる。 「森川先輩、こんなところで奇遇ですね。出張か何かですか?」 男は、そっと肩に手を置いた。 「友達と休暇を楽しんでいるんだ。誰かと思ったら君か……たしか」 「忘れられてしまいましたか?高校時代寮で同室にもなったことのある有賀です」 誰が見てもあきらかに森川の方が動揺しているようにみえ、有賀と名乗るガタイのよい男は 余裕の笑みさえ浮かべている。 「僕は先輩を忘れた事なんかなかったですよ。今、ここに勤めてます」 そういってスマートに名刺を出した。 しかし、森川は名刺を交換しようとはしない。 「悪いがプライベートで来てるので持ち合わせがなくてね」 元木はそれが嘘だと知っていたが、無論少しだけ森川を盗み見ると黙って俯く。 有賀はそっと元木の方に目を向けると少しだけ淋しそうな顔をした。 |