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教室から出ようとした僕にすっと影がさすように澁澤が行く手を阻む。
その脇をするりと抜けるように避けようとすると、追い縋るような声がする。
「レイ……」
「なんだよ」
「何か僕がレイに嫌われるようなことをしたんだね」
「まぁ、そうだね」
僕は振り向きもしないで背中で答えた。
「謝るよ」
「罪の意識のない君に謝ってなんか欲しくない」
「何をしたのか聞いちゃいけないか?」 このまま無視して教室を出たかったが、きっと彼は追って来るだろう。人気のないところになんか行ったら、僕の自制心が押さえられる自信なんかなかった。
「聞かない方がお互いの為だ。謝ってなんか欲しくないけど、澁澤が僕の命を助けてくれた事に変わりはない。その恩義もあるから澁澤が慣れるまでは僕が君の面倒を見る事を厭うわけじゃない」
澁澤は大きくため息をつく。
「それでもいいよ。レイの近くにいられるなら」
そんな殊勝な言葉も今は僕の心の産毛を逆立てながら上滑って行くだけだ。聞こえない振りをしてそのまま慇懃無礼ともいえる態度で自分の鞄からノートを出して乱暴に押し付けた。
「これは今までの休んだ分のノート。コピーしてあるから返さなくていい。だけど記憶なくして高校の授業についてこられるのか?」
こうして身構えて武装してないと僕は倒れてしまいそうだった。受け取るのを一瞬躊躇しながら、澁澤は照れくさそうに僕を見つめる。 そんな態度が逆に僕をいらつかせるなんて想像もできないんだろうけど。
「うん、不思議な事に、人の名前とか僕の思い出とかの記憶はどうしても中1から思い出せないんだけど、知識の方は損傷がないみたいだ。だからすごく助かる。ありがたく貰っておくよ。レイって中学の時からこういう優等生のところはかわんないのな?なんかレイをみるとほっとする」
そういって嬉しそうに鞄にしまった。
実際、悪友達とつるまなくなったせいか、澁澤の成績はめきめきとクラスの中でも頭角を現し、僕の順位をも脅かすほどだった。
舞い散る枯れ葉も足下でかさかさとその音を立たせ、木々には必死にしがみついてる数枚の枯れ葉を残す数週間たったテストの終わった放課後、澁澤は人気も疎らな生徒玄関で僕を待ち構えていた。
「いっしょに帰らないか?」
「悪いけど」
「今日は用事がないって他の友だちにいっていたじゃないか?」
「僕が用事がないからって君と帰る義務もない」
「ちょっとだけ話したいんだ」
「断る。ちゃんとするべき事はやってるはずだ」
「レイ……頼むよ」
そういって澁澤が僕の腕を離すまいとでもいうように強く掴んだ。
そのとたん、僕は自分を支えている事すらできなくなる。
何度も吐き気が襲ってきて、嘔吐く自分を押さえられない。そのくせ食欲がなくて、昨夜から何も口にしてない僕はただ、苦しく胃液をわずかにもどしただけだったが。
どちらかというと華奢な僕が、大きな身体の澁澤に軽々と米俵のように肩に担がれるのは、簡単だっただろう。 しかもあまりの苦しさに僕は抵抗するどころか、抗議する気力さえ持ち合わせていなかった。
足元はぐるぐる回り、視界が急速に狭まっていたし、しかも世界が黄色のフィルターにかけられたように歪んで変色してみえる。
自分でも今の状態は相当にやばい……そう思って意識を閉じた。
見慣れた澁澤のベッドに寝かされていると気がついた時、僕は再びパニックになったようにまた
嘔吐きはじめる。
「レイ……病院にいった方がよかったか?」
唇を噛み締めて首を振る。
また、こいつにやられるなら、それはそれで僕がこんなにも澁澤を警戒する説明する手間が省けいいのかもしれない。 そうだ、いいじゃないか? もうこれ以上汚れるものなんて何もない……それで澁澤も結局僕のところまで落ちてくるのだ。
それならそれでいい。そんな自暴自棄な気持ちで瞼を閉じた。
「聞かない方がいいって、僕が何かレイにしたのか?」
「……」
「教えてくれないか?例え驚くようなことでも」
「だから聞かない方が…いいっていったろ…」
「でも、レイのそんな態度を見てると、そっちの方がたまらない」
「事故で……トラックにはねられそうになったのは、わざとではないけれど、死んだ方がましかもしれないと思うような事をお前にされたって事は間違いない」
「死んだ方がまし?僕が?レイに?」
「ここまで言ってもこの後の事を具体的に聞く勇気が君にはあるか?」
「……聞くよ…聞きたくないけど」
「やられたんだ……お前に、一度だけじゃない、何度も何度もだ。最初にお前ら3人にまわされて
それをネタに脅されたから」
澁澤の顔から血の気が引いて行くのがわかる。それでも僕はとめられなかった。
「しまいには女の格好をさせられて、僕の事を好きだってまでいっていたぜ」
澁澤の拳が強く握られふるふると震えている。
「ごめん……思い出せない…でもそれが事実なら…」
「事実だよ。君が信じなくてもね」
「どんな償いでもする。レイの気持ちが済むなら死んだっていい」
死んだってだって?結局澁澤……お前はそうやって過去から逃げ出すつもりなんじゃないか。
「じゃあ、僕が経験した死んだ方がましだっていう事をしてやろうか?」
どうしてこんなに残酷になれるんだろう?自分でいってる言葉に僕の心のどこかが悲鳴をあげる。
それなのに止まらない……。
彼の覚悟を確認するようにクローゼットの前に無言で歩む。見慣て使い勝手の分り過ぎるクローゼットを全開にしてから、徐に彼の方に振り返った。
「ほら、ここにワンピースや女子高生の制服が……ちゃんと証拠が、まだ残っているじゃないか」
そういってその中のひとつを取り出した。淡い水色のワンピースだった。 どこか空のマンションにあった
ワンピースに似た……ふわふわした本来男にかかわりあいのないはずのもの。
それを僕は躊躇なく取り出し、自分から彼に見せつけて挑発するようにすべて衣類を剥ぎ取って全裸になるとそのまま、慣れた手付きでそれを身につける。
「レイ、レイ……待てよ、まってくれ」
「脱げよ、お前も!覚悟を決めろ。お前から仕組んできたんだろうが」
荒い息を発しながら澁澤は信じられないというように首を振った。
それでも僕が真剣だと知るときつく唇を真一文字に結ぶと決心したようにのろのろと服を脱ぎ出した。
そのまま彼が全てを取り去ると僕は思いっきり澁澤をベッドに突き飛ばしてから、彼の男が兆すようにそろそろと自らのスカートを捲って挑発した。
澁澤の息はさらに荒くなり肩で息をしだした。不安そうに頭を左右に振って目はあちこちへと泳ぎ。
彼が自分をなくすればなくするほど、僕は悪魔のように残酷な意識に支配されようとしていた。
「レイ……おれ、おれ…」
彼の欲望が限界までいきりたったのを確認すると、僕はそのまま彼にのしかかり彼の太い左足を思いっきりよく肩に担ぎ上げた。
「何を?」
不安そうに澁澤が荒い息を紡ぐ。
彼が何度も僕に使った潤滑油を勝手知ったる枕元の小箱から取り出すと思いきり良く
彼の中心に指を差し込んだ。
「う、うぁ〜」
苦しむ彼を後目にニ本目を入れて中をこじあける。 澁澤は脂汗をかきながら苦しそうに呻いたが抵抗はしなかった。 まだ、狭いのは解っていたが、そのまま躊躇することなく彼のカオスめがけて欲望のまま押し進んだ。
痛いぐらいに澁澤の中はきつい。 澁澤は涙を浮かべながら声を出すまいと必死に耐えている。
痛いとかやめろとか、そんなことは全く口にせずになんとか受け入れようとしてる彼を見て急に胸に痛みが襲ってくる。
「ごめん」
そんなことをいうくらいならしなければいいのだ。
「レイ……大丈夫だ……動けよ」
澁澤の覚悟に僕は逆に澁澤にたまらない切なさと愛しさを覚え、欲望のままに高みに向って腰を激しくうごかした。
「レ、レイ……レイ、レイ、レイ……」
息だけで何度も僕の名前を吐き出す。
こんな姿の僕に澁澤が征服されているのだと思ったとたん、僕の身体の中で何かが弾けた。
そのまま昇りつめて吐き出された僕の爆発をそのまま澁澤は身体で受け止めてくれた。
二人の結合部分は燃えるように熱かった。 澁澤はおずおずとそのまま両腕で僕をそっと抱き締める。
「レイ…俺、思い出せなかったとはいえ、無神経な事を言って、ごめんな。もう、お前に許してくれなんていえない……レイはその小さな身体で俺を受け止めたんだろう?許してくれなんて言えないけど、忘れないで欲しい。いつでも俺、レイのために何でもするから……どんなことだってする。それだけは忘れないで」
澁澤じゃないみたいに脱力して気弱そうに囁くのを聞いて、澁澤が本当に僕に惚れていたのかもしれないと支度をゆっくり整えながら考えていた。
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