デルフィニウム揺れる園 4 

delphinium blue



  朝、目覚めるといつの間にか窓の外は明るくなり、しかもタオルケットをかけてそのままの姿で二人で 抱き合うように眠っていた。
 昨夜、僕が見ず知らずの年下の中学生に、今まで決して人に言えないと思われた経験を話してしまったのはなぜなんだろう?
 空が可愛いタイプの子だからというだけじゃないような気がした。
 「目が覚めた?まだ、早いよ」
 思い出せば、母と添い寝をしなくなった幼い頃からこんな風に誰かと抱き合って目覚めるなんて初めてだった。澁澤とは数えられないほど身体は重ねたけど、行為が終わるとすぐに帰り支度をしたし、そんな僕を 澁澤は一度だって止めなかった。
 「レイさんさえ、よかったら僕、抱いて欲しいな……なんかどきどきしちゃった」
 そういっていたずらっぽく笑う空から僕はすっと目を背ける。だってこれじゃあ恋人同士みたいだ。
 「無理だよ……」
 第一、ずっと僕のあれは機能してない…男になんて立つもんか女だって…いや、違う本当は。
 「僕じゃその気にならない?」
 「今は誰でもダメなんだと思う」
 慌てて僕が付け加えると空の瞳が真剣なものに変わった。
 「抱かれていた時も?」
 澁澤に抱かれていた時…多分萎えていた。だけど、だけど女の服を着せられていた時……僕は、僕は……認めたくはないけれど、酷く興奮していたような気がする。 そんな事、思い出したくないけれど。
 「僕が女装した方がいい?それとも…」
 そういってその固い表情のままで蒼いワンピースをクローゼットから取り出して僕に振り返った。
 僕は無言で服を脱ぐと黙ってそれを被り、乱暴に空の後頭部を後ろから押さえ込むとキスをした。
 なすがままの空。
 その瞳は濡れたように潤んでいる。
 ちっとも興奮できなかったはずなのに、僕は異常に興奮し出した。
 「いいよ、レイさんが思うように……きて……抱いて」
 耳許に吐息だけで囁きながら空は自分から下半身につけていたものを全て取ると、ワンピースをきたままの僕にすがりついてくる。
 「いいの?」
 「うん、なんか逆に僕もいつもより興奮してるかも」
 そういってスカートの下から手を伸ばし、僕の滾ったモノを握りしめてた。
 
 
 自分でも変だと思う。
 女の格好をしてるのにその事でさらに興奮度が増し、僕は空に導かれるまま、空の愛らしい蕾めがけて突き進んだ。
 「あ、……すごい…レイさん、あ、あ、あぁ」
 今思うと彼のそこは他の男達を何人も受け入れ慣れ、しかも僕を待ち構えていたから、彼を傷つけなくて済んだ…。
 でももし彼が経験の少ない普通の少年だったならば、そんな性急なやり方では怪我をさせていたところだった。
 「すごい…すごいよ…れいさん、こんなに激しいのは……ぁあん、久しぶりで…あ……、ついていけない…で、でもお願い……やめないで」
 自らも腰を回して僕を快楽の坩堝の中に引きずり込んでいく。セックスがこんなに気持ちのいいものだなんて知らなかった。今まで澁澤に無理矢理男の華を吹き上げて何度も絶頂を迎えさせられても、後には後悔と屈辱しかのこらなかったのに。
 一ラウンドが終わった後、すっかり満足した彼に、他の人には絶対こんなふうに乱暴にしてはいけないとがっちり釘をさされて、僕は荒い息のまま何度も頷いた。
 「可愛い!レイさん……こんどはもっとゆっくりと時間をかけるやり方でやらない?」
 彼の甘い言葉に僕はまた、頷く。
 すっかり空のリードで僕達はじゃれじゃれのいちゃいちゃモードに突入してした。
 「そう、乳首は最初は触れるか触れないかって感じで……あ、そう、……電気が通るみたいに感じちゃうよ。 そして円を描くように周りを……あ、レイさん、すご〜く上手。いい、いい感じ」
 再び欲望が兆してくる。
 「気持ちいいの?僕でも気持ちいい?」
 「うん、ほらレイさんも…」
 「あ、やめてよ」
 敏感になったところを、さらに高めるように指で弄ぶ。
 「くすぐったいでしょ?それとももう感じてる?」
 「やだ、やめろったら、それならこうしちゃうぞ」
 「あ、レイさんこそ、やだ、やめてってば……あ、あ、あぁ…でもやめないで……」
 僕らは無我夢中で第2ラウンドも終わって気がついたら、もう11時も過ぎていた。
 「もう、いかなくちゃ……」
  狂おしい時が過ぎるとあんなに熱く貪りあったはずなのに、いざ、冷静になると妙に照れくさくて僕は慌ててワンピースを脱ぎ捨てる。  
 こんなパステルカラーのワンピースを着るなんて男としては相当情けない格好をしていても空が僕を受け入れてくれた事がすごく嬉しくて。
 粉々に砕け散ったプライドの欠片をふたりで掻き集めてつなぎ合わせやっと曲がりなりにも新しい僕が産声をあげることができたのだ。
  空に出会えた奇跡のような時間……長く熱く狂おしく悶え……緩やかに溶け合い互いに無くしかけていたものを補った喜び。それは間違いなく僕が掴んだ真実だったのに。
 そんなものさえ、妙に照れくさくて。
 「本当にこのままいっちゃうの?」
 「あぁ、じゃあ……ね」
 そんな言葉を残して慌てて立ち去ろうとする僕の声に重なるように
 「また会える?」
 空の声がすがりつく。
 「縁があればね……」
 努めて感情の隠らない低い声を出して、空を牽制した。  
 僕は臆病で卑怯者だ……空の瞳が真摯すぎて……反ってこのまま空の気持ちを受け入れるのが怖かった。
 だって僕達互いの欠落したピースがぴったりとはまり過ぎて、このまま転がり落ちれば地の果てまでだって辿り着きかねない。
 心地良過ぎる関係は逆に僕を不安にさせる。 こんな穏やかな幸福が永遠に続くわけがない。
 だから、空との貴重な出会いがまるで、忍び寄る不幸の前兆のような…そんな気がして。
 
 そのまま実家に帰ると母は蒼い顔をしたまま澁澤の話をしだしたのだ。
 「渋沢君、全く記憶が戻る徴候がないのよ」
 僕はまた胸の奥がきりきりと痛む。
 「だから?」
 「だって、渋沢君があなたを庇ったっていうんでしょう? ねぇ、鈴。時々でいいのよ。渋沢君の話し相手になってあげてくれないかしら?」
 母は何も知らない。知らないからこそ、こんな残酷な事が言えるのは自分でもよく解っていた。
 母に責任なんかなかった。
 だけど追い詰められれば母しか、当たる場所はなくて。
 「いやだ、いきたくない。嫌いなんだ、澁澤が」
 「れ、レイちゃん、頼むわ、お願いよ。行ってあげて」
 「嫌だっていってるだろ?」
 そう言いながら、僕の心の奥の混沌から這い上がる魑魅魍魎を僕はもう自力で制御できないところまで 追い詰められていた。
 結局、母の顔を立てるような素振りで澁澤の病室に向った。
 覚悟さえできてしまえばもう、何も怖くなかった。
 「レイ……元気になったんだね?なんか僕周りが余りに変わったから浦島太郎みたいな気持ちだよ」
 そういって無邪気に澁澤が笑う。そんな屈託のない笑顔を見たのはいつ以来だろう?
 僕達、受験戦争に巻き込まれたあたりから、殆ど笑わなくなった気がする。
 「思い出さない方がいいこともある」
 そんな残酷な台詞で突き放す僕の顔を不思議そうな顔で見上げる。  
 今さらだ……例え、澁澤が記憶を取り戻していても、僕はすでに少年というさなぎの薄皮が すでに食い破られて飲み込み、全く別の僕を形成していたからだ。
 もし、澁澤が記憶を取り戻して反撃に出たら、強姦した事をネタに逆に脅してやってもいい……そんな事まで素で考える自分の変貌が心底恐ろしかった。  
 数週間もすれば、擦り傷と捻挫と打撲の他は特に大きな外傷もなかった為か 澁澤はちゃっかり退院してきた。
 「レイ!」
 僕を見つけると嬉しそうな顔をして話しかけてくる。例え冷たくされても彼には僕しか頼る者がいないんだろう。
 「誰も知らない顔で不安だったけど、レイがいるとほっとする」
 僕はお前の顔を見るとぞっとするけどね。
 心の中で僕は冷たく呟く。
 そんな自分を心の中で軽蔑しながらも
 『当たり前だ、お前は忘れても俺の身体はお前に蹂躙された日々を覚えているだが、それより 僕を傷つけるのは、お前が親友だった僕を蹂躙し、女代わりにし、なおかつ、その全てを忘却の彼方に押しやって自分だけ無垢の衣を纏った事だ』
 そういって自分を正当化しなければ、とても自力でたっていられそうになかった。
 

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