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多分涙も枯れると言うのはこういうことなのだろう。 あの日傷付いた身体を引きずって僕は枕が涙でしぼれるくらい泣き続けた。 なぜ、こんなに悲しいのだろう。なぜこんなに涙が出てくるのだろう? あんなに酷い目にあった僕なのに、明石の事で思い出すのはなぜか、優しく甘いキスだけだった。 あぐらの中に僕を乗せ、明石は背後から僕の顎を掴んで優しくキスをする。 彼に包まれていると僕は母の子宮の中がこんなかんじだったのではないか?と思えるほど 安心できたのだ。 もう、彼がいない。それなのにカードは完璧に近いほど揃っていた。 僕らの接点はもうない。 なぜ、僕はあの日突然、彼からつきはなされたのだろう?彼にとって カードがもうすでにいらなくなったものだとしたら、単に僕をからかうためだったのだろうか? それとも、僕が彼に対して物欲しそうな態度をしたのでうっとうしかったのだろうか? そうだ、僕は彼が好きになりかけていた。カードなんてもう、口実でしかなかったのだ。 苦しくて何も考えられなくて夢遊病者のように僕は学校を休んで彼のマンションに出かけた。彼の部屋番号を知っていたから、部屋の前まで キー無しで行く事はできたけど、部屋に入るのは不可能だ。 第一部屋に入って何をしようというのか? 僕は今までもらったすべてのカードとホルダーに挟まれた現金を持ってとにかく部屋の前に佇んでいた。 そんな僕を何人かの人が不審そうな顔でみつめていたけれど、誰も声をかける者はいなかった。 彼を除いて。 「どうしたの?」 顔を上げるとそこには、先日カード専門店で出会った大学生が不思議そうな顔で立っている。 「明石に用なの?」 僕は無言で頷く事もできない。だって何も用なんてないからだ。 「彼は今夜は遅くなるかもしれないよ。僕の部屋隣だから奴が帰ったらすぐ解るよ。僕の部屋で待ってない?お茶くらい入れるから」 そういってそっと僕の手首を掴んだ。 僕が掴まれた腕を振り解くようにすると「いいです」と微かに聞こえる息だけで返事をする。 「こんなところに夜までいると良くて管理人、下手すると警察に通報されるよ」 警察と聞いてしかたなく、僕は凭れていた玄関から離れてと彼の後をついていった。 部屋に入ると徐に彼は僕にカードホルダーを差し出す。 「ほらカード揃ってるぜ。カードをやれば、やらせるんだろう?誰にでもさ。好きなのを取れよ」 まさか、明石が僕の事をそういったのだろうか? 僕は大急ぎで部屋をでようとするといきなり髪を掴まれて固い床に投げ出され、嫌と言うほど頭を打った。 「痛いじゃないか、バカ!」 僕がにらみつけると、嫌な笑い方で大学生は近付いてくる。僕は恐怖で背筋が凍りついた。 「やだ、明石!たすけて!明石!」 僕が叫ぶと「うるせー」といって大学生が思いきり顔を殴ってくる。 僕は無意識にだんご虫みたいに丸くなって身を守っていた。 すると唐突にドアがあき、突然明石が入ってきた。 「うるせーのはそっちだろう、何を騒いでいる」 「あ、明石……」 僕は思わず明石の後ろに廻って隠れた。 大学生は諦めたのか、踵を返すと奥の部屋に入っていった。 何事もなかったかのように明石は部屋から出ていこうとする、僕には一言も声をかけずに。 「待って、待ってよ」 「なんだ、痴話げんかなら他でやれ」 「あの、これ、返そうと思って」 僕があの日もらったカードホルダーを差し出すと明石はしばらく無言でそれを見つめていたが、それでも 冷たい瞳のまま、それでも明石は自分の部屋に僕を招き入れてくれた。 「どうして?カードが欲しかったんだろう?もう何も持ってないし、新しいカードなんてやれないぞ」 先程はあんなに冷たかったのに明石の声は今は予想よりずっと優しい。 「いらない、もうカードなんかいらない」 僕の声は最後の方は情けない事に涙声だった。僕に関心がなくなったというのに同情でも引こうと言うのか。 「時々、前みたいに来ちゃいけないかな?め、迷惑じゃなかったら」 明石は冷たく言った。 「もう何もお前にやるものなんかないし、今までみたいに何もしないで触るだけで家に帰してやれないよ」 「いいんだ、本当にカードなんてもういらない」 「俺が怖くないのか?あんなことしたのに」 「正直言うと少しだけ怖い。でも、でも明石と一緒にいたいんだ」 「一緒にいたら、いつもあんな事されることになるぞ」 明石が優しくぼくの頬を撫でる。 「いい、明石ならいいんだ」 明石は僕が大好きなキスをした。 「負けたよ」 明石が僕の服をゆっくり脱がしながら囁く。 「もう俺には何も欲しいモノがない。お前以外は」 僕はなすがままになりながら、囁き返す。 「時々、カードで遊んでくれる?この前みたいな事をしてもいいから」 明石は苦笑しながらすっぱだかの僕を大きなベッドに放り投げた。 |