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僕の頬を熱い涙が滑り落ちてゆく。 「辛い?」 彼はそう甘く聞きながら、僕の唇をなぞる。濡れた唇の端からそっと指を差し込んで 唾液を絡めとった。 「今日はもう、いいよ。上手にできたね」 僕はそのまま彼の腕からソファに倒れ混んだ。 「さぁ、これが約束のカードだ」 透明のカバーに包まれたトレーディングカード。僕は頷きながらそっと受け取る。 彼の視線を痛いほど感じる。僕は気が付かない振りをしてそのままカードをみつめた。 このカードは超レアなカードだ。同級生もびっくりするに違いない。 いったいこの人はどうやってこれを手に入れるんだろう。 「いいの?こんなすごいのもらっても……」 僕が遠慮がちに斜上に彼を見つめる。 「あぁ、もっとすごいのもある」 彼、明石薫(あかしかおる)は厚いファイルに入ったカードコレクションを見せてくれた。僕は大きくため息をつく。カード専門店で見た事もないようなカードまでずらっと揃っている。 「何年か前に夢中になって集めたんだけど、今はもっと違うモノに興味があってね。 欲しかったらみんな隼汰(しゅんた)にやってもいい」 欲しかったカードがすべてといっていいほど揃っている。 今はもう手に入らない、レアものばかりだ。どれも高額で取り引きされていてとても 僕のような高校生になど手に入らない物ばかりだ。インターネットのオークションで手に入れても100万はくだらないだろう。 でも、僕は力無く首を振る。それを受け取ると言う事が 何を意味しているのか良く知っているからだ。 明石と僕とはカードの専門店で出会った。僕が何時間も飽きずにカードを見つめていたら、 「そのカード持ってるよ。よかったらトレードしない?」 そう声をかけてきたのが彼だった。 甘いマスクと優しそうな顔だち、そして紳士的な態度に僕は安心してついていってしまった。 大きなマンションの最上階で僕は彼にキスされた。 激しく抵抗した僕に明石はそっと囁く。 「このカードはキスの分で君にあげる。身体に触れさせてくれたら、こっちのカードもやろう」 彼が示したカードはレア中のレアと呼ばれるパラレルカードでカードで全面がキラキラと虹色に輝いている。 「どうする?」 彼は優しく聞いた。 触らせるだけならどうってことない……心の中の僕が叫ぶ。だってそのカードはどうしても欲しかったのだ。そして僕は小さく頷いた。 その日から僕は彼のマンションにやってきては、裸になって身体を触らせ、キスをさせた。 僕には罪の意識など全く無かった。これだってトレードだ。 僕はカードを貰い、彼はキスして僕に触る。立派な取引じゃないか。 彼の部屋には様々な物がカードだけでなくゲームやマンガや僕らが欲しくてもなかなか手に入らない物が いっぱいあった。ときどき、僕が彼の愛撫に素直だった時、明石は御褒美と称して 僕にそれらをくれる事があった。 彼の腕の中で抱かれながら、ゲームをしたり時には食事をする。 まるでカードが介在さえしなければ、僕らは恋人同志のようだった。 彼の甘い指先や官能的なキスにも僕はすっかり慣れ、男同士で背徳的な事をしているという意識は殆ど無かった。 ただ、別れる時に、彼が言う「またメールするね」という一言にもし、メールが来なくなったら僕らの関係は終わるのだろうなと漠然と感じていた。 |