そいつをぶち殺せ 8



 「いったいお前はなんなんだ?」

 「すいません……」

 「すいませんじゃねーよ」

 彼と目を合わせないようにしていた俺だったが、長い沈黙が重苦しくて葛西さんの表情を盗見るように 瞳を移すと射るような鋭い視線で俺を睨んでいた。

 「俺、俺なんていっていいのか……顔向けできなくて……」

 しどろもどろの俺の言い訳に言葉をかぶせるように葛西さんが言い放つ。

 「てめーは顔向けで出来ないような、どんなとんでもない事をやりやがったんだ?」

 だけどそれは予想していたよりずっと優しい物言いで……逆に俺を戸惑わせた。

 「それはその……」

 「顔向けできないことなんかしてねーだろうよ?」

 「あ……」

 「お前がしたのは惚けていた俺に喝を入れただけだろう?」

 「で、でも……」

 「でもなんだよ?」

 かちっと煙草に火をつける……葛西さんはそんな姿もサマになるタイプだ

 「俺、あなたを無理に……その……すいません」

 俺は思わず両手をついて土下座の体勢に入った。

 「後悔……してるのか?」

 「そりゃもう!俺なんでもします」

 「俺は……後悔してねーぞ」

 彼はまっすぐに俺の方を向いて俺に煙草の煙りを吹きかける。

 「はぁ?」

 俺は彼の台詞が頭に真直ぐに入ってこなかった。彼の意図が解らない。

 「俺ってチビだし……昔から色が白くてさ。日焼けしても黒くならずに赤くなって終わるタイプ 解るか?」

 「俺は黒くなります」

 「人の話の腰を折りやがって……自分の自慢なんかするんじゃねーよ」

 「あ、はい、すいません」

 「体格に恵まれたお前にはわかんないだろうけど、学生の頃から男にケツ狙われてさ」

 「……え?ええ〜〜っ!!?」

 「初体験は男だった……」

 「そんな……」

 「でも、俺は女がよかったんだ。……ん?……違うか……男に女にされたからだからこそ女がよかったのかもな」

 葛西さんが作ってくれた水割りを飲みながら彼は自分の学生時代の事を話してくれた。

 相手は体格のいい上級生だったらしい。どこにいくのも葛西さんを連れ歩きまさに自分の女扱いだったらしい。彼の事は嫌いじゃなかったが自分自身が嫌いになった。 女みたいな中途半端な男だと……。

 そして由利さんに出会って恋に落ちた。やっとその時、男としての自信を取り戻したのだという。

 「でも、俺、無理していたんだ……だから由利にも優しくしてやれなかった。こんなに頑張ってるんだからって自分の事しか考えてなかった。由利が死ぬまで由利も頑張っていた事を忘れていたんだ」

 「葛西さん……」

 何も言えなかった。何を言えばいいというんだろう?

 「お前に好きだって言われて俺……あの時由利と一緒に死んじまった俺の心が生き返った気がしたよ」

 彼はそっと俺に微笑んだ。

 「俺が好きって本気かよ?」

 「本気です……」

 間髪入れずに答える。

 「そうか……また、時々飯を作りに来てくれよ」

 口から出てくるのかと思うくらい俺の心臓が、ばくばくと鼓動を打鳴らす。

 「……いいんですか?」

 「あぁ駿策も帰ってきたしな」

 体全体が燃え上がってるみたいに興奮し、思わず彼に抱きついて唇を押し付ける。

 「お、こら、調子に乗るんじゃねーよ」

 「好きです、好きです、大好きです」

 俺の腕の中に小さく納まる彼に愛おしさが吹き出すように沸き上がる。

 「照れくさい事いうんじゃねー!」

 思いきりぐーで殴られた。

 「いいから、さっさと晩飯作れ!」

 「い、今からですか?」

 もう、夜も9時をとっくにまわってる。ホッケーやって帰って来たから本当は シャワーを浴びたらすぐに寝たいくらいに疲れているのに。

 「俺はもうまともに、何日も夕飯食ってないんだよ」

 きつい言葉を使いながらどこか甘えを含んだ彼の声に俺の心は歓喜の歌を歌い上げる。

 葛西さん、本当に許してくれるんですね?

 「つ、作ります。作らせていただきます」

 いそいそと俺が台所に向ったのは言うまでもない。


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