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翌日からはまさに地獄だった。自己嫌悪で自分の方が死にたくなる。 何を考えて取引先の部長なんか抱いちゃったんだろう。いくら彼があんなに、あんなにも愛しく魅力的だったからって……。 仕事も手につかず、時々ぎゃっと叫んでその辺りを走り回りたいような欲求に囚われる。 『もう、だめだ……俺……最低だ……』 そんな堂々回りが頭を駆け巡り泣きたくなってくる。 もう、あれから何日も葛西の会社を訪ねていなかった。何も無かったような顔をしていけしゃーしゃーと訪ねられる程面の皮は厚くない。 他の者に変わってもらったり、電話でも居留守をつかったりして、極力葛西を避けていた。 「佐野、今日リーグ戦だぞ!サボるなよ」 鈴木さんが俺の肩をがっちり掴んで揺さぶるようにした。 職場のホッケーチームは半分お遊びのようだが、やってる本人達は結構真剣だ。 日頃の鬱憤をぶつけるにはこれほど適した競技はないかもしれない。 「さぼりませんよ」 「しっかりしろよ!お前、最近変だからな。身体を使って余計なことは忘れることだ」 まさに望むところだった。しかも今日の相手チームはなかなか気の荒い上手なやつが揃っている。 実際のところ、この地元でホッケーをそこそこやってるといえば、実業団の連中にも持久力を除いては引けをとらない者も少なくない。 目にも止まらぬようなスケーティングと忍者の分身の術かと思われるようなフェイント。 リンクの上に乗ればそこはもうくよくよなんかしてる間もない戦場だ。 いつもにも増して俺は相手に後一歩でチャージングやボーディングを取られるぎりぎりの 熱いプレイをしていた。汗だくで下着はしぼれる程に濡れている。 自分と相手以外の廻りの景色ががクルクルまわり肩で荒い息をつなげる。 これだ、これこそ男の世界、俺が求めていた世界だ。 恍惚としかけた時、殆ど人影も無い客席になぜか、小柄な男の姿が目に入る。 心臓が止まるかと思った…… なぜならそれは俺が今、最も出会いたく無い相手葛西さんだったからだ。 俺を見る瞳が冷たい……まぁ当然か……説教なんかした上気が弱くなって酔ってる相手を押し倒すなんて 最低の男だと思われても仕方ない。 自分でもその自覚があるからこそ会いに行けるわけもないのだ。 それなのにこんな場所で会うなんて……今日は確か葛西さんの会社の試合はないはずだった。 ちゃっかりチェックしてる自分がなんとも情けないが……。
ガツッ!!
一瞬何が起こったのか解らなかった。俺は相手のチャージングぎりぎりのプレイで吹っ飛ばされたのだった。 少しの間、頭が真っ白になった。ベンチに入れの指示が飛ぶ。 ふらふらしながらベンチに辿り着くと鈴木さんにスティックで小突かれた。 「余計な事考えていたら、怪我の元だ」 全くだ……解ってる……でもまさか葛西さんにここで会うなんて思わなかったから 自分でも信じられない程動揺している。瞳を移すとやっぱり俺を睨み付けてる葛西さんの顔が怖い。 怖じけづきそうになる自分を必死に鼓舞しながらなんとか試合を終えた。 後半は正直いって何も覚えていなかった。 嫌な予感は良く当たり案の定、ロッカー通路に彼は待ち構えていた。 「鈴木……おまえのところの若い子借りていっていいか?」 「どうぞどうぞ!掃除でも料理でもなんでもやらせてください」 簡単に言わないでよ……鈴木さん……俺は屠殺場に引っ張られていくような気持ちで 葛西さんの後を項垂れながらついていく。 「お前の車はどこよ?」 「え?」 「ここまで歩いて来たんだ。俺は酒を飲んでるから……」 「あ、はいあそこです」 そういいつつ、俺の気分は重い。葛西さんは何も言わずに助手席に乗り込む。俺は細心の注意を払って 運転し緊張のあまり言葉もでない……俺ってこんなにも情けない男だったか? 「どうして最近お前が自分で会社に来ないんだ?」 「え?」 「もうお前がお膳立てしていた新規契約も目前だろ?それなのに他のやつが来て契約したがって何度も来るがお前を寄越せと追い返した。どうしてお前は返事を寄越さない!」 「それは……初めて窺いました」 「俺はお前以外と契約する気はないからな」 「どうして……」 「なにっ?」 いきなり彼が気色ばむ。 「何、逃げてるんだよ!」 彼の自宅前に到着するとどつくように俺は促されて葛西さんの家に押し込まれる。 「どういうつもりだよ」 「はい……」 「はいじゃねーよ。あれから訪ねてくるわけじゃねー謝りに来るわけじゃねー いったいなんなんだ!」 |