|
|
「なにしやがる……」 「どうせ死ぬんでしょ?じゃあ、いいじゃないですか」 「ば、ばか……」 彼の声が再び俺の口の中で消えた。首の後ろをがっちり握っているせいか、それ程彼の抵抗を感じない。 だが、それでも彼が嫌がってそっと顔を外に向ける。その逃げる小さな顎を上に向けると両頬を挟み込むようにして口を閉じられないようにして触れるだけのバードキスからフレンチキスに変化させてゆく。 彼の小さな腰から回り込むように腕を回してそのままベッドルームに連れ込んだ。 自分でもこれ以上進むと不味い事は頭では解っていた。 だが、そんな理性をあざ笑うかの様に二人の腹筋に挟まれたものが堅く滾って互いを主張しているモノが俺の理性の箍を簡単に外した。 キスしたまま、俺は彼のシャツを捲って上半身を露にしそのまま袖口を裏返して彼の手の自由を拘束する。そうしてからゆっくりと自分の背広とYシャツを脱いだ。そのまま自分の滾った雄をぐいぐいと彼に押し付ける。 「ん、ん〜〜〜っ!」 彼が嫌がって呻いているのは解ったが、そんな彼の姿が俺をますます興奮させ夢中になって彼の唇を貪った。彼の口からは仄かな煙草の薫りがした。直接触れている互いの肌がたまらなく熱い。彼の肌と自分の肌が触れあった場所から彼の弾力のある筋肉と熱い体温を感じて俺はなぜか武者震いをした。 唇が離れると彼は信じられないという眼で俺を見た。 「やめろ、何、考えてるんだ……」 「死ぬなんて言うからです」 「それはお前に関係ないだろ?」 「あります」 「ねーよ。これ外せ!」 「どうして死ぬなんて簡単にいうんです?どうして駿策君を簡単に手放したんですか?」 「だから他人の事は放っておいてくれっていってるんだ!おまえにゃ関係ねーんだよっ!」 「あります。あなたの事が好きなんだ」 なんていうことだ俺は興奮してとんでもない事を口にしていた。 当たり前だが、彼は信じられないものを見る様に俺をみた。たぶん本物のゲイは初めてなんだろう。 「だからってこんな事していいわけないだろ?」 「たしかにそうです……すいません……俺、帰ります」 俺はいたたまれなくなって慌てて部屋を出ようとした。 「待てよ!行くな!どうすんだよ?これ、外せ」 大声で俺を呼び止めながら葛西さんは俺が拘束した腕を 後ろに揺らす。 そうだった。 冷静になると俺は急速に血の気が引いてゆく。なんていう事をしてしまったんだ? 真っ青になっている俺の顔を彼は覗き込むように見つめている。 「お前ってすげー大胆なやつだな」 「は?」 「頼む、今夜は帰らないでくれ……俺……一人でいたらどうにかなっちまう」 彼のその言葉を俺は信じられないような気持ちで聞いていた。 彼が俺を許してくれたなんて思わなかったけれど、もしかしたら、少しだけ弁解の余地があるのかもしれない。 葛西さんはまるで俺がカウンセラーでもあるかの様にぽつりぽつりと遠くを見ながら話だした。
彼の奥さんは幼い頃から喘息もちだったらしい。ヘビースモーカーの葛西さんはそれを知らずに結婚した。 お見合いだった。 その時彼はまだ若かったから、自分の喫煙量より喘息の持病を何も言わずに結婚した奥さんを責める気持ちが強かったらしい。 だが、だからといって子供もできて煙草の量を減らさずにはいられなかった。 減らすと必然的に酒量が増える。由利さんはそれを心配して喘息の事を隠すようになった。自分の病気はたいした事がないからと。 実際彼女が真面目に病院に通っていた事で発作はしばらく納まりかけていたし、葛西さんはそれを信じた。 だが、出産で体質が変化していたのか彼が思っていたよりずっと由利さんの病状は悪かった。 そして彼女はそれを隠して生活し、突然ある晩、大きな発作が起きた不幸な事に彼女が救急車で運ばれたのは、老人専用の病院だったのだ。 そして彼女が亡くなるまでその病院に喘息の専門医がいなかった事に誰も気がつかなかった。 無論、お父さんの松丸さんですら……。 再び大きな発作が起きて他の病院に転院した時にはすでに遅かった。 いざ、彼女が亡くなるまで、松丸さんも葛西さんもそこまで彼女の病状が悪化してる事に気がつかなかったのだ。 まさか、入院中に亡くなるとは誰も思っていなかった。
俺はそこまで黙って聞いていたが、彼の苦しい表情に堪らなくなって「もう、いいです」そういって彼の小さな身体をぐっと抱きしめた。 彼はそのまま俺に身体を預け「一人にしないでくれ……」そう何度も呟いていた。 俺は結局そのまま彼を抱いた……彼はもう抵抗しなかった。 |