そいつをぶち殺せ 3



 「あぁ、それがこの息子を妻の実家が預けろってうるさくてな」

 葛西さんが眉間に皺を寄せて苦しそうに笑った。

 「忙しいから、かまってやれなくて……たしかに朝飯以外手作りの飯なんか滅多に作れないから いろいろ言われても仕方ないんだけど」

 苦しそうな葛西さんの顔を見てると俺まで息苦しくなりそうだった。

 「あの、どうせ自分の飯作んなくちゃいけないし、僕でよかったら、料理得意なんで時々作りに来ますか?」

 葛西さんと鈴木さんは驚いたような顔で俺を見つめた。

 まずい……出しゃばり過ぎだ……またやってしまった。

 俺は言った瞬間から後悔していた。

 「いえ、自炊なんで独りで食べるよりいいかな?なんて思ったんですけど、余計な事いいました。 忘れてください」

 葛西さんは、大慌てという風情で立上がって俺の両肩をがしっと掴んだ。

 「いや、それが本気なら本当に助かる……もし、佐野が迷惑じゃないなら……頼めないか?」

 そういって伺うように俺をちらっと上目使いに見る。うっ、そんな眼で見ないで……。

 「ここに来て間も無いので友達もいないし、料理は好きですから僕は構わないけど、お子さんは?」

 「子供か?駿策(しゅんさく)っていって5年生なんだ。俺の駿一から一字とってさ。 子供は独りで食うよりいいに決まってるよ」

 ふーん、葛西さん駿一って言うのか……名前を聞けてラッキーかも。ちょっと気分上昇!

 「でも、奥さんに聞かなくていいんでしょうか?女の人って自分の台所に人に入られるの嫌いな人もいるらしいから……」

 「はぁ?なんで?女を入れる訳じゃないのに?駿策を心配していたから、由利にとっても渡りに船だと思うぞ」

 きょとんとした顔をしている……なんか可愛いぞ……ますます俺の煩悩を刺激されそうだよ。

 俺はショタじゃないから、息子さんといても大丈夫だけど……駿一さんと一緒って 嬉しいけど俺の爆発しそうな煩悩を抑えられるのか?不味いよな。それに奥さん由利っていうのか……そっちは聞きたくなかったかも。

 「食費は多めに出すからさ……」

 俺の様子を伺うように駿さんは俺の顔を覗き込んだ。一瞬躊躇した俺だが、こんなチャンスは滅多にない。悩んでる暇なんかなかった。

 「僕としては全然、OKです」

 「ほんとか?」

 「はい」

 「でもお前、日本語の使い方間違ってるぞ!『全然』を使うなら『問題ありません』だろうよ」

 何時の間にか葛西さんはすっかり説教オヤジモードに入り酒も入ってるので上機嫌だった。

 結局俺の方は酒を飲みそびれ、俺達が葛西さんの家を出たのはもう1時を回っていた。

 「お前、本当に料理なんていいのか?営業だからってそこまでやらなくていいんだぞ」

 鈴木さんはそう心配してくれる。

 でも鈴木さんにそう思われていた方がずっと気が楽だ。俺が煩悩をかかえたまま駿さんの家にどうどうと入る言い訳ができたのをラッキーと考えるかアンラッキーと考えるかは、まだ俺にも解らなかった。  

 翌日、俺はさっそく葛西さんの会社から直帰して葛西さんと一緒に彼の自宅に向う。

 その道すがら、だいたいの葛西さんと奥さんとの『馴れ初め』だとか奥さんの病気の事とか駿策クンの好物などを 聞き出した。

 奥さんの病気は喘息だという。霧の多いこの街では珍しい病気でもないが、由利さんの場合、今までも何度も発作はあったそうで度発作が起きると深刻な問題になって長期入院になるかもしれない……そう言った駿さんの声は力なかった。

 取りあえず俺達はまず二人で近所のスーパーで買い物をすることになった。俺がカートを押すと葛西さんがにこっと俺に笑いかけて篭を乗せてくれる。

 これってまるで、新婚さんみたいじゃないか?俺はひとりでにやにやする。

 「今夜は何を作りますか?」

 「実はさ、頼みがあるけど、息子がさオムライスを食いたいって……出来るか?佐野君」

 「大丈夫ですよ」オムライスは料理の初級じゃないか……

 俺の余裕を持った頷きに、葛西さんが見つめる熱い視線がなんだかくすぐったい感じでますます顔が綻んでゆくのを止める事ができなかった。


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