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「お前、佐野陣平っていったか?ちっくしょう〜良いガタイしてやがるなぁ〜」 葛西部長がにやりと笑いながら俺のショルダーをコンコンと叩く。 そんな行為だけで俺はどきどきしてしまった。 「チャージングしてもびくともしねーもんな。足腰しっかりしてるんだろう? スケーティングも安定してるし」 俺の戸惑いなど解る訳もなく、最後には嬉しそうにケツまでスティックで叩いてくる。 「勘弁してくださいよ〜葛西部長〜」 俺は情けない声で抗議した。このままだと下半身が大変なことになりかねない。 たしかに中はバイク(キンカップのことである)で守られてはいるが下手にぶつかると バイクに当たってもっと痛いのだ。 だいたい、アイスホッケーの防具は全部で10kgほどあり、それをつけたまま時速50〜60km位の早さで 走り回るのだからいくらスケートが滑るとはいえその体力の消耗は半端じゃなかった。この姿のままでいるのはまじに疲れる。 そのうえ、邪な俺としては葛西さんの可愛い顔を見てるだけで変な気分になるし、汗臭いしで一刻も早く着替えたかった。ぐ、ぐっとグローブを取るとなんと湯気まで出ている。 「おい、お前等!このあと予定あるのか?」 葛西さんは俺の顔を見て親しげに話し掛けてきた。 「いや、ないっすけど」俺と鈴木さんは、思わず顔を見合わせる。 「じゃあ、俺ん家に来ないか?ちょっと飲んで行けよ」 会ったばかりの取引先の部長の家に俺も行って良いのか迷ったが、鈴木さんも頷いているし葛西さんの人懐っこそうな微笑みに引かれて俺も思わず頷いた。 「あ、じゃおじゃまします」 「おぉ!お前付き合いいいじゃないか!いいぞ今度の新人は!」 そういって葛西さんは上機嫌だ!「これも営業の仕事だと思って……」 鈴木さんはそう俺に囁いたが、 営業なんかその時の俺の頭にはちらりとも入っていなかった。
アリーナから程ない小高い丘の上の住宅地に葛西部長の家はあった。 さすが、部長というだけあって大きな庭に平家の清楚な感じの一軒家が彼の家だ。 鈴木さんと俺と葛西さんの3台を入れてもあまる程の駐車スペースがあり、俺は酒を飲むなら代行車を頼まないと帰れないな……幾ら位かかるのか……などと呑気に考えていた。 「入れ、入れ!」 促されるまま居間に入るとその奥がまるでバーのカウンターのようになったムーディーな一角があり 今風のたたずまいだった。 しかし、部屋は正直いって辺りに新聞や衣類が積み上がって雑然としている。 「悪いな……女房が入院中でさ。ちょっと散らかってるけど」 そういいながら、葛西さんは奥に消えた。 「……そこのバーにある酒!好きなの飲んで良いぞ。シャワー浴びたらなんかつまみくらい作るからさ」 奥から声だけが響く。 俺は苦笑いする鈴木さんをちらっと横目に見ながら、「俺でよかったらなんか作りますけど」 と奥の声がした方に向って言ってみた。 「おぉ!頼むわ」 勝手に冷蔵庫を開けてサラダと和え物を作り 器に盛り付けながら、台所にたまった食器を洗い出した。たまると嫌になるから俺はすぐに洗う主義だが 葛西さんは違うらしい。 普段から奥さんになんでもやらせて奥さんがいなくなって戸惑ってる古いタイプの男なんだ……俺はますます葛西さんが可愛いなと思い始めていた。 「すげーなこれ、全部お前が作ったのか?うん、どれもすごく旨い旨い!」 パジャマ姿で現れた葛西さんは、どっちが招いたか解らなくなるくらいよく飲みよく食べた 多分、この家も磨けばそこそこの家なのだろう。だが奥さんが入院してるせいか荒れた感じの男所帯が俺には痛々しかった。 「悪いな!新人。掃除までさせちゃってさ」 湯上がりの葛西さんはますます天然パーマが顕著になってお酒で顔が上気してるせいか年より若く見える。 実際、部長だという色眼鏡で彼を見ていたから40才は越してると思ったが、彼は若いのかもしれない……そう思うとつい余計な事を聞いてしまった。 「葛西さんっってお幾つなんです?」 「あ、俺か?今年40才のおじさんよ。まぁ、子供が11才で小5だから俺が歳をとるのも仕方ないけどさ」 「30台で部長ってすごくないですか?」 「まあ、叔父貴のやってる会社だからな。いわゆる叔父貴の七光りだ」 彼はそう照れくさそうに笑ったが、彼の仕事振りは今日の日中見せてもらったばかりだ。なかなかの実力者だと俺は踏んでいた。 「お子さんがいるんですか?」 今さらながら、ちょっとがっかりしてる自分に呆れてしまう。ノンケを好きになっても辛いだけなのに、どうして恋する時はいつもノンケなんだろう?俺は心の中で苦笑していた。 |