そいつをぶち殺せ


(ホッケー用語でぶち殺せとは相手の動きを止めろという意味)


 信じられない程寒い朝に、まさに日本のツンドラ地帯の様な場所で俺は氷上にいた。

 だが、身体は今まで体験したことがないくらい熱い!まさに燃えるようだ。全身にだらだらと汗が流れているのがわかる。

 来る?! ちくしょう!また、あいつだ!

 一直線に俺に向ってきやがる!

 ガァッ!!!

 大きな音を立てて俺達はぶつかりあったがあんな小さな身体で俺に互角に、渡り合えるなんていったいこいつは何者だ?

 俺はこの街に転勤になるまでこんな世界があるとは知らなかった。

 そう俺は東京に本社のある某商社の営業マンだ。最初はこんな地の果てに左遷されて腐りかけていたが、今はこの街に左遷した上司に感謝したいくらいだ。

 ここは色々な職種の人間が仕事が終わってから 趣味でアイスホッケーを楽しむサークルのひとつ。

 驚いた事にレベルによって何十というサークルがある。

 頂点は実業団チームだが、市役所や学校関係だけでリーグ戦ができる程この街の人々はアイスホッケーにはまっていた。僕もアイスホッケーというスポーツがあるのは知っていたが自分がやるなんて思ってもみなかった。

 「陣平(じんぺい)ポカリ飲むか?」

 「いいっすね!いただきます」

 鈴木さんは俺をアイスホッケーに誘ってくれた人だ。ガタイがよくて男っぽい顔をした先輩で 俺より10才上の37才。すげーいい人で何くれとなく俺に眼をかけてくれている。

 俺は鈴木さんにこのホッケーに誘ってもらった事を凄く感謝してる。こんな夢中になるなんて思いもしなかった。

 ホッケーの後のポカリがマジに旨い!夏のビールなんて問題にならないくらいだ。身体に染み渡ってゆく。ポカリでぐっと喉を潤してるとそこにさっきの何度も当たってきたチビが俺達の方に向ってすごいスピードで近付いてくる。全く、さっきはよくも……と一言言ってやろうかと俺が口を開きかけた時、

 「おぉ!鈴木!お前のとこ、良い若いの入れたな」

 そういってその男がメットを取ると俺は持っていたポカリの缶を落としそうになった。

 な、なんとそいつは今日取引先を開拓にいった先の部長だったのだ。

 「あぁ、どうも葛西部長!いいでしょ、こいつ東京もんにしてはえらく使えるんですよ」

 うそだろ……俺は手足が冷たくなるのを感じた。

 だって部長ってどこでも会社じゃでかい椅子にふんぞり返ってるんだもんな。こんな身長160cmそこそこだなんてわかりゃあしない。

 俺てば、この生意気なチビが!っとまじでぶつかっていったし、もしかしたら興奮して年下だと思って暴言も吐いたかもしれない。まさに俺は真っ青になっていた。

 「す、すいません!お、俺……」

 「お前すげーな若いのに根性あるぞ!お前みたいにきかない性格の奴はホッケーにぴったりだ」

 ところが、当の部長はすごく優しい眼で俺を見ている。俺はドキッとした。

 彼の汗で前髪が濡れ、昼間見たオールバックの髪がくちゅくちゅと可愛らしく丸まっている。

 どうやら天然パーマのようだ。

 ホッケーの防具も彼が着ていると妙に愛らしく視線のやりどころに困る。

 今でも充分イケメンだが、若い頃はさぞかし女を泣かせてきただろう。まぁ、もうちょっと身長があったらの話だが。

 そうなのだ、実をいうと俺は女も嫌いじゃないが男もいけるタイプなのだ。バイと言えば聞こえがいいが恋愛対象はどうしても男が多くなってしまうのはなぜなんだろう?

 この40才は軽く過ぎてるオヤジを前に俺はまるで恋愛したての中学生みたいに真っ赤になった。

 あまりの日中とのギャップに俺のハートは完全に射貫かれちまったらしい。


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