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chou a la creme 8 |
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その日から本郷は意識しすぎでまともに大沢の顔を見る事ができず、必然的に大沢を避けていた。 でも、それを大沢に知られてからかわれるのも癪だと思っていたのだが、 大沢からは、その後なんのアプローチも無いだけでなく、 今まであった、夕食のお誘いまで御無沙汰になった。 なにかおかしいと本郷が気が付いたのと、係長の香川の呼び出しが あったのは殆ど同時期で1週間程経った出来事だった。 「仕事は慣れた?」 「はい、まぁ」 「リスニングはどうかな?」 「えぇ、毎日字幕無しのドラマを観たり、ヒアリングマラソンとか いろいろしてるのですが」 「そうか。少し実地練習する必要がありそうだね。 大沢は一人でも取りあえず仕事ができるから、君には研修に入ってもらおうか」 「はぁ。」 「実地で研修すると上達も早いからな。明日から、直接KSコーポレーションに 出向研修だ。1ヶ月間頑張ってこいよ」 「えっなんですって?僕が行って先様の仕事を手伝えるのでしょうか?」 「なぜか、君を御指名なんだよ。コンタクトにしてから君の人気は うなぎ上りだからね。狼には気をつけて。Little red ridinghood(赤頭巾ちゃん)」 というと香川は意味深な笑みを浮かべてウインクをしてから 思い出したように 「それから、明日の夜外事課のみんなで飲み会しようっていう話しがあるんだけど 暫く会えないんだから本郷は必ず出席してよ。詳しい話は玲子ちゃんに聞いて」 玲子ちゃんっていうのは、同じ課の宴会好きの佐藤玲子さんだ。 本郷と同じ英検準1級だけど、彼女は英語で喧嘩もできるという噂。 それを思うとなんとなく落ち込む本郷だったが。その時それよりももっと恐ろしい事を思い出していた。 (そうだ。KS.COといえばミッチェルの職場じゃないか。!!!) 嫌な予感がよぎる。 あわてて大沢の携帯にメールするが 夕方になっても何の返事もない。本郷は不安でどうにかなりそうだった。 とにかく、大沢に相談したかった。 しかし、考えてみると、大沢に不自然にさけられていたような気がする。 (俺があんな事言ったから、Hな奴って呆れてるのかな。でも今はそれとこれは別だもの。 同僚としてだって相談にのってくれてもいいのに) どうしてもあの1週間前の事を思い出すと意識しすぎてしまう。 携帯も何度もかけ留守電にもメッセージを入れたのだが、結局連絡は 来なかった。 ボードをみると直帰と書いてあるが、直接大沢のマンションに 押し掛ける勇気など本郷にあろうはずもなかった。 KS.COの出向だなんて何か自分の自意識過剰かもしれないけど身の危険を感じる。 いや、鈍い本郷が感じるのだから相当まずいともいえた。 その朝、本郷はコンタクトはやめて眼鏡にもどし、 ヘアクリームを手に取ると前髪でなるべく顔が隠れるようにセットした。 下調べはしてあったが、早めにKS.COに出社した足取りは勿論重い。 KS.COは外資系。総タイルで流線形のオシャレなビルだった 入り口で本郷を待っていたのは悪い予感が当ってミッシェルだった。 『待っていたよ。さっそくみんなに挨拶してもらおうか』 午前中は職場の挨拶や簡単な事務処理であっと言う間に終わり あっという間に12時過ぎていた。 『近くでランチをとろう』 そういうとミッシェルは強引に本郷を小料理屋まで連れ込んだ。 昼とはいえ、個室である。自分の財布の中身が心配で 本郷は本来もっと心配しなければいけない自分の貞操に無頓着になりかけていた。 『ランチでいいね?』 そういうとミッシェルは本郷の隣に座ってしまった。 |
