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chou a la creme 3 |
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その週末のことである。 大沢に連れられて、本郷はあちこちのブティックやサロンをまわった。 自分一人では多分一生足を踏み入れないような雰囲気の店ばかりである。 髪型を変えコンタクトを入れた本郷喬は、すっかりイメージが変わってしまったらしい。 本郷を一番喜ばせたのは受付の憎からず思っていた坂口さんに揉められた事だ。 『すごいじゃない。見違えちゃった』 お世辞でも嬉しくて浮かべた照れ笑いを消す事ができない。 上司の香川からは、『彼女でもできたか?』 と皮肉をいわれる始末。 みんなに注目されているようで居心地が悪い。そんな本郷を後目に大沢は上機嫌である。 「すごくいい。一緒にいて気分がいいよ」 なんだそれは?どういう意味だ?そして本郷が一番気になっている事。 それはあの時買った服やサロン代は殆ど大沢が持ってくれた事だ 同僚にそんな物を買ってもらうなんてどうも男として腑に落ちない 大沢という奴は今まで本郷の廻りにいたタイプとはあきらかに違う男だ。 いったい何を考えているのかさっぱりわからない。 変身した本郷は得意先でも評判は上々であった。 ただし、本郷は大沢にこう釘をさされた。 「外国人って結構ゲイが多いの知ってる? 誰にでもあんまりにこにこしない方がいいよ。 向こうじゃゲイは当たり前と思うかもしれないけど、 キリスト教のからみもあって一般人のゲイに対する風当たりは日本よりずっと強い。 お互いに誤解のないように仕事しよう」 「あぁ、ソドムとゴモラでしたか?もっとも僕は男に興味は全くありませんし」 「実は君のようなタイプがそそられるらしいよ。 注意してね。あっちのやつらって顔は少女みたいに可愛い奴でも 脱いだらゴリラだから。」 それって脱いだ姿を見た事があるような台詞じゃないか。本郷は首まで赤くなるのを感じた。 大沢の視線が痛い。間違いなく本郷の様子をみて面白がってる。 本郷は本当に不機嫌になりながら答えた 「わかりました。先輩」 それは偶然だったのだろうか。その日のクライアントの中には本当に少女のような顔だちの美青年がいた。 商談を終えて雑談に入ったとき、そのミッシェルというお似合いの名前のクライアントが じっと本郷の顔をみつめているのに気が付いた。 居心地が悪いので、本郷は唯一知ってる寒いジョークで気をそらそうとした。 『日本語の外来語って日本人にみんな英語だと思われていているんです。 だから凄く訳をする時大変なんですよ。 例えば日本では、cream puff(シュークリーム)の事を靴クリームっていうんです。』 『知ってます。フランス語のシュアラクレームがシュークリームの語源らしいですね? ところでアメリカではゲイの事もクリームパフっていうんですよ』 大沢はその話を聞いて露骨に嫌な顔をするが、久々にまともに会話の通じた 本郷は調子に乗って話に乗った。 『へえ、可愛いイメージですね。 日本ではゲイはiron pot(お釜)っていうので可愛くないんです』 するとミッシェルは急に早口で大沢に何かを呟いた。 残念ながら、本郷のリスニング力では全く聴き取れない。 慌てて大沢の顔を見るが何ごともないような顔をしてさっぱり説明しようとしなかった。 (こういう時の二人三脚だろ.....)と本郷は心の中でつっこんだが大沢はそしらぬ振りをしている。 『では、私達は次の予定がありますので』 大沢はすっくと立ち上がると彼らに握手をし、さっさとドアに向かう。 本郷は先程の話が何の話か気になって仕方がなかった。 帰りのエレベーターの中で我慢の限界で聞き出すことにした。 「大沢さん、最後早口で彼はなんていっていたんですか?」 「やめておいたら?聞くと間違いなく不愉快になるよ。それでもよかったら教えてもいいけど」 本郷はこくこくと頷いて答えをそくした。 大沢は顔色も変えずにそんな本郷をじっとみて 「あいつが言ったのはね。 パフの中にクリームを詰め込む作業が男同士の性行為そのものだってこと。 そして君が言っていた『お釜』もお尻の隠語だから言いたい事は同じだそうだ。 彼はあれで日本通なのさ、ミッシェルのモト彼も日本人らしいからね」 暫しの沈黙、本郷はとてもそれを冗談とは笑いとばせずに 口をぱくぱくさせた。 勿論本郷にだって男同士のセックスに対する最低限の知識はあった。 しかし、商談中にいかにも美青年という感じのミッシェルが言った言葉とは信じがたい。 顔が赤くなったり青くなったりするのを感じながら そっと、冷たい顔をしている大沢を見上げた。 顔よりももっと冷ややかな声で大沢は言い放つ。 「そのうち、ミッチって呼んでくれっていわれるかもね」 本郷は本当に鳥肌が立ってしまった。 |
