シュー・ア・ラ・クレーム

chou a la creme 15



大沢はサイドテーブルに置いてあった煙草に手をのばすとそのまま火をつけ、話を続ける。
「今度はミッチの方が僕の許容範囲から 外れていたんだ。 ああいうガタイの良い奴を抱く趣味ないし。もちろん、僕は抱かれるのはもっと趣味じゃ無い。 それなのにアイツは妙にしつこくてね。多分、日本人の彼と別れたばかりで淋しかったんだろうけど。」
そこで煙草を灰皿に押し付けて消すとそっと本郷に触れるようなキスをした。
「僕は君に出会ってしまった。一目惚れで好きになって、その後知れば知る程夢中になった。」
「僕なんか、全然冴えないじゃ無いか」
「君は自分の魅力に気がついていない。」
本郷は掠れた声で囁いた。そんな本郷の髪を大沢は愛しそうになでていく。
「最初は僕も喬のその少年らしさを残す美貌に惹かれた。 でも、君を知る内に君のそのストイックなところにハートを串刺しにされたね。
今の世の中は誰でも楽して美味しい思いをしようとしてるやつらばかりだけど、君は自分で努力して勝ち取ろうとしていたろう。 一生懸命な君が眩しくて可愛くて。そして、そんなごく普通の君が男の僕を好きになってくれるとは思えなかったけれど、でも、少しだけ期待もしたんだ。だって誘って拒絶もされなかったし。」
そういうと大沢は本郷の長い睫の瞳を覗き込むように顎を掴んで自分の方にむける。 大沢はもう、抵抗しようという気が失せていた。
たとえ、語りでもいい。本当はすべてが嘘でミッチとつきあっていても構わない。 今は大沢を信じていたい。そう思って瞳を閉じた。 そっと唇が重ねられ、おずおずと舌が忍び込んでくる。あんな大胆な事をした後だと言うのに まるでプラトニックな中学生のようにその行為は躊躇いがちだった。 もしも、ミッシェルさえいなければどんなに今夜は甘い夜であったろう。 しかし、こぼれちゃったミルクはもう、皿には戻らない。 本郷がゆっくりと瞳を開けた。
「ごめん、今日はここまで...情けないや。身体の自由もきかなくて、体力もないらしい。」
そういう、大沢の背中は壮絶に色っぽくて本郷はそんな彼にも惹かれてしまう自分に 驚き、ミッシェルに激しい嫉妬を覚えた。
「話も明日ゆっくり聞くよ」
「と言う事は今夜は一緒にいてくれるの?」
「あたりまえじゃないか。とても、今の大沢さんを一人にしておけないよ」
「僕の傷は自業自得だ。でも一緒にいてくれるのはすごく嬉しい。少し今後の事を期待していいのかな」
本郷は大沢の休んでいるベットのわきにソファの上のクッションを並べて横になる。 そっと伸ばされた大沢の指に自分の指を絡めた。 ただ、それだけでこんなに満ち足りた気持ちになるのはなぜだろう。 あんな恐ろしい事があったとは思えない程、甘い空気が漂っていた。
「僕を許して」
大沢の言ったその言葉は願いだったのか、それともうわ言だったのか、本郷もあまりの疲れたからだの 行方をそのままにしたまま、眠りについていた。

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