シュー・ア・ラ・クレーム

chou a la creme 11



自分がどこを歩いているという意識の無いまま、本郷はただ歩き続けていた。 ふと我に返るとそこが大沢のマンションの近くだと気がつく。 それでも何かに呼び込まれるように、大沢の玄関まで辿り着いてしまう。 しかし呼び鈴をならす勇気もないのだ。いったい何のためにここまで来たと言うのか。
いきなりの配置転換、ミッシェルの誘惑、大沢の事情、坂口の決定的な一言
今日はあまりにいろいろな事がありすぎた。 玄関を背にしてなぜか笑いがこみ上げ「くくくっ」と一人で笑いながら 本郷は崩れ落ちるように座り込んだ。 自分の気持ちを整理できないままこんなところまで押し掛けている我が身が情けなかった。
物音に気がついたのか、そっとドアが開かれる。
「喬...」
本郷は大沢が在宅とはなぜか思わなくて、どんな顔を会えばしていいのか 解らなかった。急いでそのまま立ち去ろうとする。 そんな本郷の細い腕を大沢の大きな手ががっちりと掴んだ。
「先ず、入ったら?」
押し込むように部屋に入れられても、本郷は不機嫌そうに押し黙ったままだった。
「何かあった?」
「連絡取れなかったね。俺、避けられてる?」
本郷がおずおずと重い口を開く。
「避けていたのは喬のほうじゃないの?話せば長いけど、喬があの夜の事を後悔してる気がして それ以上何もできなかったよ。」
そう、最初に避けていたのはたしかに本郷だった。 でも、それは照れもあっての事だった。 大沢みたいな強引で自分勝手なタイプがそんな風にいうなんて俄に信じがたい。
二人はそっと近付き、お互いの指を絡めあうとまるで始めてのようにおずおずとキスをした。
「今、ミッシェルの会社に研修に入ってるんだ」
「うん」
「俺、不安で何度も携帯にかけたよ。でも何もメッセージを入れてくれなかった」
「ごめん、でもあいつ、あの会社の本社の次男なんだ。あそこはアメリカの本社が巨大企業だから うちの会社としても、アイツの無理を承知で聞いてしまうんだろう」
「俺達、人身御供っていうわけ?」
おもわず、ため息が出る。
「そこまでひどくないけどね。今日の話は聞いたよ」
「誰から?」
「ミッシェルさ。君を手に入れるって自慢げに連絡入れてきたんだ。 でもその後あんまり喬が泣くから何もできなかったと怒っていたよ」
「本当に怖かったんだ」
「わかるよ。君はゲイじゃない。アイツは真性のゲイだから女子供は苦手なのさ。 でも、何もなくて本当によかった。それより君が危ない時に助けてあげられなかった自分が不甲斐無いよ。」
本郷はその一言で感極まったように泣いて大沢に抱きついた。
「すべてに自信を無くした...ん.だ...。俺、男っぽくないし、見た目だって冴えない。 英語だって....テストでいい点採ったって、会社じゃ使い物にならない」
大沢は泣きじゃくる本郷をソファに座らせると台所からミルクティを入れてもってくるとそっと差し出した。
「さぁ、これを飲むと落ち着くよ」
本郷はやっと落ち着くと簡単に人前で泣いてしまう自分を恥じて顔をあげられなかった。
「誰だって泣きたくなる事はあるさ、素直に泣けるっていいことじゃないか。 もし、君さえよかったら、暫く一緒に暮らさないか?客間には蒲団もあるし」
大沢は優しい瞳を投げかけながら本郷の耳もとで囁く。 本郷は微かに首を縦に振ってみせた。

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