シュー・ア・ラ・クレーム

chou a la creme 10



しばらくして、見た事もない料理が美しい小さな器に上品に盛られて続々と運ばれてきた。 呆然としながらも本郷は本能のままに出された食事を食べ尽くす。
(こんな思いをして、ここで食事しないで帰れるか)
というのが本郷の論理である。
「お会計はサンダース様からいただきましたので....」
小料理屋の女将はそういって愛想よく微笑み本郷の靴に靴べらを差し出した。
(あいつってサンダースっていうんだ。そういえば、ビジネスの付き合いにファーストネームしか聞かされて無いっていうのもよく考えてみると不自然だった。)
今頃そんなことを気がつく自分のおめでたさに首を左右に振る。 そして会計がすでに済まされていた事に心の底からほっとして本郷は職場へもどった。
そこに心配したミッシェルの姿はなく、やっと無事1日の仕事を終えて 皆が集まっているクラブへ出かけた。本当は今日は行きたく無かったが 誰かが大沢の事を知ってるのでは無いかという期待があった。
7時少し過ぎたばかりだというのに、殆どのメンバーはすでに飲みはじめており 大沢の姿を捜したがどこにもいなかった。
仕方ないので意を決して係長の香川に声をかける。
「大沢さん、来て無いんですね?大沢さんと連絡取れないんですよ。」
少し愚痴るように本郷がこぼす。
「あれ〜?聞いて無かった?大沢君は当分子守りだよ」
「子守り?」
「うん、KSの支店長の子供がボストンから来ていてさ、中学生らしいんだけど 公立を体験したいって無理に公立に入ったけど日本語できないから、本郷に白羽の矢が当ってさ。」
「どうしてうちの社員が?KSだって人材いるんでしょ?」
「俺みたいな下っ端は上の事情は知らないよ。でも大沢って結構いい男じゃん?」
「はぁ」
「すっかり、その彼女に気に入られたみたいで、携帯も持つなっていわれて 携帯はうちの課長にあずけてあるんだぜ。」
「.........」
「でも、コンビ組んでいたお前がなんで知らないのさ」
(それはこっちが聞きたい)
「1ヶ月は帰れないんじゃないの?」
どよ〜〜ん。本郷の顔に縦じまが入る。一気に暗い気分に突入だ。 そんな落ち込む本郷をみて受付の坂口が近くまでやって来た。 彼女は本郷のタイプで憎からず思っているから自然と声がうわずってしまう。
「さ、さかぐちさん、」
大きな瞳をもっと大きくあけるといたずらっぽく微笑んだ。
「本郷君って眼鏡かけてる時なんて呼ばれてるか知ってる?」
「いえ」(知ってる訳ない)
「とっちゃん坊や」というとあたりが爆笑の渦に巻き込まれる。
「今は充分いい男だよ」誰かが遠くでフォローした。
「ごめん、だって可愛いんだけど。真面目くさいっていうか」
当の坂口はいってくくくくっと堪えきれないように笑い続けた。
とっちゃんぼうや???
あまりのショックで本郷は会費も払わずふらふらと店を出た。

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