■ amulet case   writer ぺんぎん


(ライジングサンに投稿しようと思って締め切りに間に合わなかった作品です)


 どんなに望んだって叶えられないものはこの世の中にいっぱいあるはずだ。それなのになぜあきらめきれなくてこんなに苦しいのだろう。

 想う心を壊してしまいたい。

 見てはイケナイと思うのにその姿を追い、多くの雑踏から彼の声だけを聞き分ける。僕は報われない恋をしていた。

 相手は完全なノンケ、女が好きなどちらかというと不良っぽい奴だった。

 彼の名を杉田喜一という。誰かが『杉田』とか『喜一』とか名前を呼ぶだけで僕は心臓がばくばくしてしまうほどの相当の重傷の恋煩いにかかっていた。  

 よく言われるのだが僕は同年代の男から見て相当軟弱に見えるらしい。高校生の頃もよくバカにされたものだったが大学に入って僕は殆ど同世代の男性と話さなくなっていた。 話し掛けてくれるのはもっぱら女ばかり。でも女の子の話題の方が僕にとってはずっと楽しかった。 大好きな杉田の噂を聞く事ができたから。

 最近は僕がカフェに来ると自然に女の子達が集まってグループが出来上がっていた。

 「すぎっち(杉田喜一の略らしい)昨日も法学部の女をお持ち帰りだったわよ」

 「そのうち誰かに刺されないのかしら?」

 「女の子をお持ち帰りすると刺される事があるの?」

 僕は杉田が心配で思わず口をはさんだ。

 「いやだ、流星ったら可愛い!何人もと遊んでるから危ないの。まぁ流星なんか女の子お持ち帰りしちゃったら流星の方が危なそう!」

 何をいってるんだ?どんなに僕が軟弱だって男の方が強いに決まってる。そういう事実を知らない女って結構バカだ。

 まぁ、僕はあまり女に興味はないけど。

 女達が急に静かになったので僕が不思議そうな顔をしてると

 「人畜無害な顔でハーレム作ってる北埜流星ってお前か?」

 僕は口から心臓が飛び出しそうになった。それは杉田の声だったから。

 「俺も仲間に入れてくれよ」

 杉田は無理矢理俺達に割り込んでくる。それからまるでミルクに混じった紅茶のように僕達のグループは味とコクが出てきた。

 それは杉田が政治や経済いろんな雑学にも詳しく、どんな話も興味深いものに変えることが出来たという事でもあったし、また杉田の話術の魅力もあっただだろうし、そして誰もを引き付けずにおかない魅力的な笑顔でもあっただろう。

 僕はうっとりとそれに聞き惚れ、なにげに触れあった互いの指先に思わず心が震え上がるくらいの幸せを感じた事もあった。

 杉田が女目的で僕達に近付いたって僕は全然かまわなかった。

 近くにいられるそれだけでよかった。

 でも気が付くと僕達のグループは少しずつ減っていた。 いつのまにかみんな杉田の毒牙にかかっていたらしい。次々とお持ち帰りされる彼女達をみて僕はどんなに切なく羨ましかったろう。

 つい、考えても仕方ない事を妄想してしまう……もしも、もしも僕も女の子ならお持ち帰りされるのだろうか?

 そして杉田と熱い夜を過ごす事が可能なのだろうか?

 気が付いたら、グループに残っているのは僕と杉田と遠山葉子という綺麗で小柄な女の子だけだった。

 遠山葉子はなぜか杉田より僕が気に入っていたらしい。 葉子は杉田に何度かモーションをかけられたらしいがちっとも靡かないのだ。

 学内のカフェテリアで珍しく杉田はいらだっていた。

 「北埜、お前葉子が好きなのか?つきあってるから葉子を紹介したくないんだろう」

 俺を憎々しげに睨み付ける。睨む顔も様になるなんて思ってしまう僕は相当のばかだ。

 「え?そんなこと……」

 「じゃあ協力しろよ」

 僕は勇気を出して聞いてみる。

 「僕が女の子だったら杉田は僕も誘ってた?」

 暫くの沈黙の後、杉田は答える。

 「誘わねーよ」

 「え?」

 「誘わねーっていったんだ。そんなくだらねーことよりちゃんと葉子を確実に呼び出せよ?影から見てたりするんじゃねーぞ」

 僕は絶望のどん底に片足を入れたような気持ちで自暴自棄になる。杉田に誘われる綺麗で大人っぽくて小柄な葉子がうらやましかった。でも、たとえ、僕が女の子だって杉田に誘われることはない……そんな事実が僕を苦しめる。

 僕は罪の意識に苛まれながら遠山を杉田に言われた通りに喫茶店に呼び出した。

 そのまま喫茶店を出ようとしたら、近くの公園で待っていた杉田の首にかかっていたチョーカーがするりと床に落ちるのが見えた。

 「落ちたよ……」

 僕の声は多分震えていたと思う。思いがけず杉田のチョーカーに触れられたから。

 「切れたからいらねーんだ。安もんだしな」

 杉田はそういうと僕から乱暴にチョーカーを奪い公園のゴミ箱に投げ捨てた。

 あいつが去ったあと僕は大急ぎで杉田のチョーカーを拾い上げる。僕は息も荒く興奮度も頂点に達していた。

 『捨てたんだから……』

 誰に言い訳するでもなく僕は呟く

 『もう、僕がもらってもいいよな?』

 これだけだって僕はいい。毎日杉田のチョーカーと一緒にいられる。それだけで少しだけ僕の傷付いた心は慰められた。僕はそっとそれをお守りの中に入れた。

  それから暫くして僕らのおしゃべりグループは自然に解散した。

 結局残ったのは僕と杉田だけだった。女は誰もいない……それなのになぜか杉田はそれでも、時々僕の姿をみると僕の隣に座って話し掛ける事があった。

 でも僕はいつも胸がいっぱいになって何も話せない。当然そんな僕をみると杉田は苛立つように席を立った。結局僕はまた、独りなのだ。

 それから、何日経っただろう?

 ある日あんなに大事にしていたお守りを図書室に忘れた事に気がつき、僕は急いで図書室に戻った。

 そこには、なんとも間の悪い事に図書室のドアの前でイジワルそうな笑みを浮かべた杉田が誰かを待ち伏せしていた。

 当然僕は何の関係もないから知らん顔して通り過ぎようとする。挨拶くらいすればいいのだが情けない事に意識し過ぎて杉田の顔をマトモに見られなかったからだ。 挨拶もしない僕に腹が経つのか、突然、杉田は僕を呼び止める。

「これはお前のか?」

「ん……」

「お前のかって聞いてるんだよ」

「そうだよ」

「そうか……じゃ…ほら……」

彼がそっと渡したお守りを俺はほっとして受け取ろうと手をのばす。

あいつは俺のその手を自分の首の後ろの方まで左手で思いっきり引っ張ると 右手で後頭部から髪を引っ張り上げて上を向かせ思いきりキスしてきたのだ。

「な……っやめ……っ」

俺の声がアイツの喉に消える。舌が扁桃腺まで届くんじゃないかと思う程奥まで 突っ込まれた。

俺はえづきながら必死に抵抗した。とにかく苦しくて感情を伴わない涙が 滴り落ちてゆく。

「なさけねーな。キスされたくらいで泣くなよ」

「ひ……っく、ひ……っく」

泣いてないと言いたかったが完全に肩を震わせて痙攣してる姿はどう見ても情けない。 これで間違いなくますます軽蔑されただろう。

すると痙攣が止まる程の強い力で背後から抱き締められた。

かれの唇が俺の涙の後を辿る。

「最後までやるぞ、いいな」

有無を言わさぬ一言に俺は情けない顔で振り向いた。 いったい何をいってるんだろう?こいつはノンケのはずじゃないのか?

「ど、どうして……?」

アイツは俺の手からお守りを取り上げるとそっと中身を開いた。

「やめ……勝手に……なにするんだ!」

中から出てきたのはアイツの切れたチョーカー。 『切れたからいらねーんだ。安もんだしな』 そういってあいつがあの日ゴミ箱に捨てたもの。

それを俺が拾ってこっそりお守りに入れたのがいつの間にばれたのだろう。

「きもちわりーな」あいつなら絶対そういうと思って隠していた。絶対知られたくなかったのに。

「中身は俺んじゃねーかよ、何が『そうだよ』だ。勝手に自分のモノにしやがって……」

やっぱり怒ってる、まぁ当然だよな。

「お前も勝手にしたんだからな。俺が勝手にお前を俺のモノにしたって文句はいえねーだろ?」

最後の方は声色が優しくなっていた。きつく握られていた手を優しく撫でる。

「いいな?」

信じられないこれは現実なのか?うそじゃないよな?夢じゃないよな?

俺は小さく頷く。全身が心臓になったみたいにばくばくいってる。

やつの顔がふっと綻ぶ。整った顔のやつはどんな表情もイケてるわけで……。

あぁやっぱり俺ってこいつの事が好きなんだ。俺はそう覚悟を決める。 近付いてくるやつの整った顔に俺は待ち構えるよう濡れた唇を綻ばせ、そっと瞳を閉じた。

 

− END −

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