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優しい君を… |
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「なかなか良い部屋だ」 って、古代!お前な勝手に人のベッドに座っていう台詞か? とはいえ実際のところ取りあえず助かった。姉の友美はまだ帰っていないし、隣室から妖しいCDも流れてきていない。 まずい本は昨日の内に友美の部屋に戻したはずだし……と僕は部屋を確認しながら ほっと安堵のため息を漏らした。 「この部屋は平均よりかなり片付いてる方だと思うぞ、どうしてあんなに俺を部屋に入れるのを嫌がったんだよ」 と不審そうに僕を見た。 「や、だって…その…」 なんて言えばいいんだよ? 姉が古代の嫌いな腐女子だから僕も影響受けて読んでますって? 意外と読むとはまるよ?……なんて軽いノリで言える訳もない。 「同級生の…友達の家に入るのって初めてなんだ」 そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、古代は感激を含んだうるうるした瞳で僕をみる。 「あ、そう……」 珍しいねっていうのも変だし、よかったねっていうのも変。どうしようとますます動揺していたら、 「咲坂もこっちに座れよ」 と思いっきり腕を引っ張られて古代の上に覆いかぶさる形になった。 「あ、あ、ごめん…」 僕が焦って謝るが古代の顔をもういつもの冷たい顔に戻っている。嫌な予感がしてゆっくりと 後ろを振り向けば、忍者よろしく友美が忍び足でやってきてそっと僕の部屋を開けて覗き込んでいる所だった。 「おじゃましてます」 古代の声は硬い。 「あら、そのまま続けてくれてよかったのに」 友美が嬉しそうににっこりと微笑む。 あぁ、絶体絶命だ…… どうしてこういう嫌な予感に限って見事に的中しちゃうんだろうか? しかも、強張る古代の顔がちょっと怖かったりする。やっぱり怒ってるよね? 「何を続けるって言うんですか?」 友美は余裕の笑みを浮かべている。 「私を意識しないでっていうこと」 「そこに人が立ってこちらを見ていれば意識するのが普通でしょ?それともなんですか? あなたも今流行りの男同士の友情をなんでも嫌らしい目で見る腐った人達の仲間ですか?」 ひえ〜〜!いきなり直球かよ。 どうしよう! どうしたらいい? 友美はまだ、口元だけ微笑んでいるけれど、目もとは笑っていないじゃないか。 「そういう風に受け取ったなら謝るわ。雅実が滅多に友達を家に連れてこないから 微笑ましいと思ったのよ」 「そうでしょうか?もし仮に純粋にそういう気持ちだけだとしたら先程の『続けてくれてよかったのに』 っていう台詞にはならないんじゃないかな?」 あぁ、友美が珍しくも寛容なのに古代はあくまで友美に絡んで喧嘩を売る気なのか?僕は両手を頭に置いて叫びだしたくなった。 「もし、あなたがそう受けとったとして、私にそういう意図が含まれていたとしても、初めて会った私にその態度はどうなのかな?」 「その言葉をそのままお返しします。初めてあった人間にいきなり自分の妄想を垂れ流し押し付ける方が もっと失礼じゃないですか?」 友美の顔色が変わる! あぁ、友美を完全に怒らせてしまったよ。 古代はさっさと帰るから構わないだろうが、僕は このブリザードのような冷たい雰囲気の中で友美と二人っきりで明日の朝まですごさなくちゃいけないのに。 窮地に追い込まれて僕はどうしていいのかわからない。だけどここまできたらいっそ開き直り僕は勇気を振り絞って友美に抗議した。 「とにかく出ていってくれよ。後でちゃんと紹介するからさ」 なんとか彼女の肩を押し僕の部屋から追い出した。僕が取りなした為になんとか全面対決だけは避けられたようだ。 でも一難去ってまた一難。怒った友美はきっと僕が友美の部屋の本を時々黙って持ち出している事を気がついていない訳がないのだから。 それを古代にバラすのではないだろうか?それってもっと面倒な未来が待ってるかもしれない。頼む、古代が帰るまで堪えてくれ。 「ごめんな、古代。姉貴の事前もって言えなくって」 勢いよく下げた僕の頭を古代の大きな掌が上から乱暴に掴むように撫でた。 なんか力が強くて頭が上がらない……必死に首を上げようとした僕に驚いたのか力を緩めた古代の手をはね除けるように僕は後ろに反り返りながらバランスを崩した。 スローモーションのようにゆっくりと古代の大きな手が僕の身体を支えながら自分の方に引き寄せた。 気がつくと彼に抱き締められるような形になり親指でそっと顎を持ち上げられると彼の唇が掠めるように そっと僕の唇に触れた。 そのとたん、僕の心臓は爆発しそうに高鳴り、全身が燃えるように熱くなる。 これは、偶然? それとも必然? 僕だけが変な本の読み過ぎで意識してるのか? 恥ずかしくてまともに古代の顔が見られない。こんな僕を見たらきっと軽蔑されてしまう。 きっと汚いものでも見るような顔をされてしまうに違いない。 やっぱり彼を僕の部屋に入れるべきではなかった。 もう、普通の友達としても扱ってもらえなくなってしまう。 「離せよ」 僕は必死に身を捩った。 「離せったら……熱いよ」 「俺がうっとうしいか?うざったいとか思ってるんだろ?」 「違うよ」 「どうしてお前は俺の家までやってきたんだよ。だから俺は……」 だからなんだっていうんだ? うざいと思ってるのは古代の方なんじゃないのかよ? 「そっちこそ、どうしてキスなんかするんだよ」 僕が清水の舞台から飛び下りる覚悟で放った言葉。それなのに…… 「キス?あぁ唇が当たったか?悪い」 なんだそれ? 「勘違いさせる方も悪くないのかよ?」 僕は心臓が飛び出すほどドキドキしたのに……。ちくしょー思わせぶりな事ばっかりしやがって! 「姉貴とお前は別の人格だろ?俺は今の事気にしてないよ」 キスだと思ってドキドキした僕が酷く間抜けに思えてついムキになる。 「なんだよ別人格って!友美を悪く言うなよ。やおい女のどこがいけないんだ? 別に女が妄想していたってこっちが意識しなけりゃいいだけの事じゃないのか? どうしてそんなに過剰反応するんだよ」 「お前は腹が立たないのか?女達にいいように言われて」 顔色の変わった僕に古代は明らかに動揺していた。僕だって男だ。怒る時は怒る。 まして、とんでもない女だって一応自分の家族を蔑まれれば尚の事。 「女の妄想なんか無邪気なもんだよ。女なんかに妄想されたって実害無いだろ?放っておけばいいじゃないか?」 「お前、少し考えてみろ?強姦された女に男達がよってたかってどんな感じだったか話せって言ってるのを 想像してみろ?無神経じゃねーのか?悪意がなけりゃなんでも許されるのか?」 「……」 「なんだよ」 絶対その例えは変だと思うぞ! 「だって古代はゲイじゃないんだろ?」 少しだけ間があった。その間に互いに緊張感が走る。古代が先に口火を切った。 「わかんねーそうかもしれない。気持ち悪いか?」 開き直った古代を見て僕も今なら素直に言えそうな気がした。 「いや、僕も友美の読んでる本とか嫌いじゃないから」 「じゃあ、お前もか?」 それって僕がゲイって事?BL本読んでいるだけで飛躍し過ぎだってば! 「それはちょっと違うかもしれない。女が好きだから」 それを聞いて古代は酷くがっかりした顔をしてからぽつりぽつりと語り出した。 「強姦された女も気の毒だけどさ、俺達は同情もされないんだ。気持ち悪がられるだけ、そんな恐怖に戦いてるのにさ、興味本位なんて腹立たしいじゃないか」 憤慨する古代の気持ちも解らないわけではないけれど。なにげに僕のやおいマンガ好きのカミングアウトがスル−されてる気がするのは僕だけなのかな? 「でもさ、ボーイズラブのマンガとか読んで僕みたいにゲイに対する意識が変わる男もいるんじゃないのかな?」 仕方がないのでさらに突っ込んでみる。 「それって、もしかして僕に迫られてそんな気になっちゃったって事?」 おいおい!どうして話がそっちに飛ぶのか。 「そんなんじゃないけど、前ほどゲイに対して違和感はなくなったかな?気持ち良さそう……とか。だけどあのさ、聞いてもいい?古代って実際ボーイズラブって読んだ事あるの?」 「ないけど」 「じゃあ、やおいとボーイズラブとの違いは知ってる?」 「知るか!んなもの」 「そんな基本も知らずに批判するのってどうなのかな?結局物事ってよくするのも悪くするのも自分自身にも かなり責任があると思うんだ。人間関係って結局映し鏡でもあるんじゃないの? お互いの気持ちが互いに影響しあって投影されるんじゃないかな」 そこまで言った僕の顔を大きな瞳をさらに見開いて古代が見つめていた。 「なんだよ」 「咲坂って時々吃驚するくらいいい事をいうな」 「どういう意味だよ!」 それって褒めてないぞ! 「幼い顔をしてるからさ、同級生だと忘れそうになるけど、やっぱりお前って同級生なんだよな」 「失っ礼なやつ〜〜〜!」 喧嘩売ってるな! 「ごめん、お前の姉貴にも謝るよ。それから読んでみるかな。ボーイズラブとかっていうの」 えっ!ちょっと。まじっすか?急な展開に僕が言い淀んでいると。 「お前が認めるものなら俺も読んでみたい。お前をもっと知りたいから」 なんだよ!それって。 そんなことさらっというなよ。妙に意識しちまうじゃないか。 僕は下から頭に向って血が全て昇っていくような気がした。 「それから実はさっきの本当はキスなんだ……ごまかしかけどさ」 しかもそれを今いう?思わず俯いた顔から冷や汗が出そうだ。 「咲坂……そんなに赤くなって緊張するなよ。俺まで緊張するから」 そういって古代が俺の顎を親指で上に向かせる。 「目を閉じて……嫌がるならしないけど」 ずるいよな……そんな言い方。 でも結局僕は近付き過ぎる古代の顔をまともに見ていられなくってゆっくりと 瞳を閉じた。 胸の鼓動は誰かに聞かれるんじゃないかっていうくらい躍動して僕を急かしていたけれど、
なぜか心は暖かくて穏やかだった。
古代が帰ってから姉の友美は怒りもせずににやにやしていた。 「いいわ〜。あぁいうタイプ。女に迎合しないのがすごくいい!」 なんて腐った事をいうばかり。 明日から僕は古代とどんな顔をして会えばいいんだろう。 これがもしかしたら僕が憧れていた甘い恋のはじまりなのかもしれない。 ちょっと勘違いなような気もするけど。友美も古代も機嫌がいいから、僕は今夜は取りあえずこれ以上の事を考えないでいようとお気に入りのタオルケットに包まった。 Fin. |