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優しい君を… |
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なんだかそれが悔しくて僕はつい憎まれ口を叩く。 「しばらく僕に会わなかったら、またすぐ一人で食うのに馴れるさ」 そういいつつも古代の視線を避けてぷいっと横を向いた。 「ずっと独りだった」 古代が誰にいうでもなくそう呟くから、僕は思わず古代を見つめ直してしまう。 「生まれた時から、母はずっと働いていたから祖母に預けられていたんだ。祖母が小学校3年で亡くなってからは、学童に通っていた」 「でも御飯は?それに休日は御両親と一緒だったんだろ?」 古代は食べ終わった食器を洗浄機にセットしながら話を続ける。 「僕は幼い時からずっと祖母に育てられていたから、母に懐かなかったらしいんだ。だから小さい頃から休日には両親は夫婦だけで旅行に行っていた。祖母がいた時はそれでも寂しいと思わなかった」 「おばあちゃんがなくなっても、小学生の時から一人で家にいたの?」 こんな個人的な事を聞いていいのか迷うけど、やっぱりつい口に出してしまう。 「うん、祖母が死んだ時はもう悲しくて寂しくてそれでもあまりにショックだったから泣けなくて。 母に感情の無い子だと言われてからますます母が苦手になって」 「だってお父さんがいるだろ?何も言わなかったのか?」 「父は母にべたぼれで、母の言う事ならなんでも聞いてしまう。それでも、父が趣味で作る料理は 本格的で美味しくてたとえ残り物だって僕を幸せにした」 「残り物?ってまさか、一緒に食べなかったわけ?」 「父母が帰ってくるのは9時過ぎだったから、そんな時間に子供が食べるのは躾に悪いとか、身体に悪いとかいわれたからな。父母達はその時二人一緒に食べてた。逆らうのも面倒だったから、言う事を聞いたけど、それを黙って見てるのは取り残されたようで寂しかったな。僕は次の日の夜7時頃前日父が作った料理を温め直して一人で食べていたっけ」 そんなことがあるのかよ。実の親子で……。 そう思うと僕の方が悔しくて胸の奥から何かが迸りそうだった。 だけど、何をいっても古代を傷つけるような気がして僕は必死に言葉を飲み込んだ。 「咲坂そんな顔するなよ。ずっとそうだったから中学生になればもう寂しいなんていう感情も湧かなかった。僕にとってこの生活が日常だったんだ。だけど高校に入って咲坂が僕に懐いてくれて、一緒に御飯を食べるようになって僕は思い出したんだよ、祖母と一緒に御飯を食べていた時どれほど幸せだったか」 「それから、ずっと独りだったのか?」 「うん、自分でも躾の厳しい母を苦手にしていたから、気が楽で自分から一人で食事をする事を 選んだって思っていた。だけど、咲坂と一緒に食事をするようになって、はじめて誰も僕と一緒に 食事を取りたいと思ってくれてなかったんだって、改めて思ったんだ」 なんで古代にそんなことを言われてドキドキしてるんだ?ただ食事を一緒にとりたいっていってるだけじゃないか。何を意識してるんだよ?変だ……僕はボーイズラブの読み過ぎなんじゃないか? 「一人が寂しいなら斉藤だってよかったじゃないか」 顔が赤くなるような気がして慌てて手で顔を覆った。冷静になれよ。ありえないだろ?ふつ〜。 「まぁな。僕もそう思ったけど、実際、斉藤とだとなんかしっくりこない。飯がうまくないんだ。 咲坂と一緒にいると飯がすすむ。それで思い出したんだけど、この前やけどした時、アロエをつけただろ? あれって民間療法だと解っていてもやってしまうのは、祖母が僕を心配してくれたからだと感じてそれが僕を安心させるからだと思う」 「そうだね。病は気からってあるもんな。自然治癒力っていうか、安心感って言うか」 「あのやけどの後ね、アロエを見てるだけで色々な事が思い出されて……特に祖母が何くれとなく世話をやいてくれた事を思い出して恐ろしいほどの孤独を感じたんだ咲坂にはそれがあるんだ。おばあちゃんと一緒にいた時のような居心地のよさみたいなの」 ……ばかにすんな、僕はお前のおばあちゃんの代わりかよ! それになんだか変な誤解をしていた僕が惨めで真っ赤になって立上がった。 「怒るなよ。咲坂さえ承知してくれたら、いつも一緒に夕御飯を食べたいんだ。一日あった事を話しながら、 食事も美味しいとかまずいとかいいながらさ。迷惑じゃなかったら僕の傍にいてくれないか」 「うん、いいよ」 僕は怒っていたのも忘れて頷いたまま照れくさくて顔を上げられなかった。だって僕も古代と一緒にいると楽しいんだもんな。 古代は僕の近くに歩み寄ったのかと思えばそのままぎゅっと古代に抱き締められ、唇に古代の唇が一瞬触れたのだ。 僕は飛び上がるほど驚いた。 だって……今のはたしかにキス?だよな? 間違いなく唇と唇が触れたよな? もしかして古代って……。 もしかしなくても古代って? うわ〜〜〜! そんなばかな。 どうしよう。 赤くなったり青くなったりしてる僕をよそに古代は「毎日夕飯を食べにきたっていいんだぜ」 と嬉しそうに笑ってる。 これっていったいどういうことよ? とにかく心臓がバクバクいっている。 息がつらい。 「おい、どうした?大丈夫か?咲坂」 古代を見ると何もなかったような顔をしている。なんでお前は男にキスしてそんな平然としてるんだ。 「大丈夫かって……お前が……お前が、変な事するから」 「変な事?」 「だ、だ、だ、だって……」 キスしただろう! 「肩を抱くぐらい普通だろ?お前何をそんなに意識してるんだ?」 うそだ! だって最初に意識していたのはそっちじゃないか? 僕が近くにいくだけで妙にびくびくして いたのはそっちだろ? それから妙に避けたり、斉藤さそったりしたのは古代じゃないか! 僕の方から意識していたわけじゃないし、第一たった今キスしたのは間違いない……ってもしかして 唇が触れたのは偶然か? そんなばかな。 僕は両手で顔を覆いながらいったいこの状況はどうなってるのかと沸騰した頭で考えようとしていた。 なんとか冷静になろうとしてるのに古代ときたら、「調子が悪いみたいだから家まで送るな」なんていいだしたのだ。 送る〜〜〜〜? そんなぁ。 僕の頭はショートして煙りまで出てきそうな気がした。 「だめ、ダメだ。家はだめ」 「どうして」 だってもしかしたら家の中に恐ろしくエッチな本が……ノーマルにエッチなら無問題だけどボーイズラブなるものが散乱してる可能性があるのだ。 しかも友美ときたら、時々BLCDなる男の喘ぎ声満載の恥ずかしいCDを寝る前にエンドレスでかけて、そのまま大学にいっちゃうこともあるわけで! やっぱり、だめだ、だめだめ!ぜ〜〜たいダメ! 古代に見られたら僕は悶死しちゃう。 しかも、古代を連れて家に帰った時に友美がマンションに帰ってきたりしたら、もう大変だ! 間違いなく僕達の馴れ初めを根掘り葉掘り聞かれるに違いない。しかもどこまでやってんの? なんて腐った事も平気で聞ける女なんだ!あの友美っていう姉は……もう泣きたいよ。 「だめっていったらダメなんだよ!」 半分切れ気味で僕が叫ぶと 「このまま赤ちゃんだっこで家まで運ぶぞ!それでもいいのか?」 なんて古代のやつ何を思ったか脅しやがるから、僕はもうそれ以上何も言えなくなってしまった。 古代をなんとか引き離すように小走りでマンションに戻ってきた。 「ありがとう、送ってくれて。もう大丈夫だから」 当然、古代は不満そうに腰に両手をおいて僕を怖い顔でじっとみてる。 「お茶も出してくれないのか?」 「す、すご〜〜くすごく散らかってるんだ。だから、わ、悪いけど入ってもらえない」 「ふ〜〜ん、だから、お前は忘れ物が多いんだな?僕が手伝ってやるから一緒に片付けてしまおうぜ」 ひえ〜〜〜!!! 片付けたりしたら何が出てくるか解らないじゃないか! 「だ、ダメ、ダメ、ダメ!姉貴もいるから嫌がると思うし……」 「誰もお前の姉貴の部屋に入ろうなんて思っちゃいないよ。部屋を片付ける能力は物事を整理して考える能力に通じてるんだ。男なら多少部屋が汚くたって気にする事無いだろう。いいから早く鍵あけろ」 「多少……じゃないんだって」 どんなに言い訳しても許してくれそうになかった。 ポケットから鍵を勝手に取り出され、あっという間に玄関に入った。 「いうほど汚くないじゃないか」 古代はそういってずんずん部屋の中にはいっていく。 うわ〜〜〜!!! 勘弁してくれ。 「待てよ、待てったら、不法住居侵入罪だぞ」 僕は、自分の部屋のドアノブに手をかけた古代の腕を必死に掴んだ。 「僕の家には散々入ったろうが、男同士で何を照れてるんだよ。っていうか、お前友達甲斐がないぞ!」 そんな怖い顔をして睨まれたってダメなものはダメなのに。
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