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優しい君を… |
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口に含むとそっと舌を転がる甘い薫り。そんな恋がしてみたい。女ならともかく、高校生にもなる 男の子がそんな風に思うのって異常だろうか? 多分そうなんだろう。 そうだという自覚があるからこそ、僕はその趣味を誰にも話したことは無い。 そう僕は女性向けの小説……ぶっちゃけて言ってしまえばボーイズラブだのやおいだのと言われる小説をはずかしながら大好物にしていた。 多分、間違い無く姉の友美が悪いんだ。鍵のかからない隣同士の部屋でいつもベッドの上に その手の本を何冊も投げ散らかしてあったから。 もちろん、そんな事を友美に言ったら、「どうして勝手に部屋に入ったのよっ!」とか「人のモノを勝手に読むんじゃないわよ」と罵倒されてどんなに恐ろしい目にあわされるか解らないから言わないけれど。 多分、3才年上の気の強い姉がいなかったらここまでBLになんかはまらなかったと思う。 だからといって友美を恨んでいる訳じゃ無い。 BLが好きだと言う以外は男子が多めの男女共学の進学校でバスケットをやっているごく普通の高校生だ。 もちろん、同級生の男の子に興味なんかない。 やっぱり興味があるのは華奢で可愛くていい匂いのする女の子達だ。 自慢じゃ無いけど軟弱そうに見えても女の子には結構モテる僕は何度も彼女とつきあったことはある。 ただ、長続きしないだけなのだ。 一緒に喫茶店でパフェを楽しんだり可愛い小物も嫌いじゃない。 だから買い物だってつきあうし、なるべく頑張って男の僕が支払いもすませるようにしてきたのに。 どうしてうまくいかないんだろう? 「なんか男の子とつきあってる気がしない」 とか。 「趣味が合い過ぎて不気味」 ってちょっと酷くないか? それとも僕の身長があまり伸びなかったのがいけないんだろうか? 今どき165cmなら女の子でも少なくない。 あっという間に170cmを超えた同級の男達にぽんぽんと頭を撫でられるのもしゃくに触る。 俺より身長が低い奴だっているのに、時々同級生達は「どうして女に生まれなかったのか」 だの「性別を間違えて生まれてきた」だのとからかうのだ。 もともとそんな外見の僕がボーイズラブを好きだと言おうものなら然もありなんと納得するだろうと 思うとそれはそれで腹立たしい。 ましてクラスで一番苦手としている古代祥太郎に知られたら何をかいわんやだ。 なぜってこの古代という男。ボーイズラブを毛嫌いしているのだ。 どんなに可愛い女の子だってBLの話をしようものなら「このやおい女が」と口汚く罵り、 睨み付ける。 それでも彼がさほど女子に嫌われていないのは古代が顔だけでなく頭も良いからなんだろう。 冷たい印象が玉に傷だけど時代劇の若武者みたいな清々しさがある。 あまり友達もいないようで笑った顔どころか、あまり表情を崩した顔を見たことがない。 女子はそんな古代をクールって思っていたみたいだったが、俺達同級の男からするとなんだか愛想がなくて 取っつきにくい印象だった。 女の子がきゃーきゃーいうと、さも馬鹿にしたように「うるせーな」と一言に深いため息をついてその場からさも嫌そうに消えてしまう。 女子にでさえそうなんだから、男の僕がBLを読んでいるなんて知れたら、まして毎月姉が買ってくる雑誌を愛読し続きを心待ちにしているなんて知れたら、どんな恐ろしいことが待っているか想像だにできない。っていうかしたくない。 女ですらかなり危ういBLという趣味を男のしかも同世代の僕が持っているなんて知れたら きっと口もきいてくれないだろう。 まぁ、今だって必要なこと以外、話したことはないけれど。 しかも実は僕は知っているのだ。 クラスの過激な女子が僕と古代とをカップリングしているのを。 普通の男なら全く気がつかないだろうが、BL好きの僕には彼女達のくすくすという忍び笑いで全てを悟ってしまうのだ。 正直言って僕だってすごく不本意だ。 僕だって女の子からしたらどんなにかっこいい男でも、同じ男の僕からしたら、嫉妬の対象になっても実際の恋愛の対象なんかなり得ない。僕だって華奢で可愛い女の子とカップリングされたいんだ。 とはいえ百歩譲れば心の中ではBLに良く出てくる色白で大きな瞳の生意気な可愛い男の子をあんあん言わせるのもちょっぴり悪くないかもと妄想したことがあるのを正直に認めよう。 だけど、それは女の子みたいな色白の美少年に限られるわけで、顔は悪くないとはいえ古代だけは勘弁してくれ。あんな男っぽい男は論外だから。 さて、話は変わるが、こういうのって高校によって随分違いはあるとおもうのだけど、僕らの学校は進学先によってクラス編成が行なわれ、しかも教室移動も必要な選択授業が異常なほど多い。 元々のクラスのメンバーが誰だったか忘れるのではと思うほど、科目によって教室や人が入れ代わる。 そんな中で、古代は進学希望先が一緒なのか不思議なほど僕と同じ教室に移動する事が多いのだ。 多分、僕の方が女の子達にからかわれて意識していた分だけ先に気がついたのだろうけど、最近気がついたばかりの古代は女の子に見せたことのない柔らかい笑顔で僕に話し掛けてきた。 「おい、咲坂。お前国立理系志望なんだろう?医者志望なのか?」 「っていうか一応まだ1年だからそのくらいの野望は持っていてもいいと思ってね」 「野望って本気で目指してるわけじゃないのか?」 冷たい印象の古代の顔が急に柔らかく変化して他の男子がやるみたいに古代もおずおずと手を伸ばしてから僕の頭を子犬でもあやすみたいにぽんぽんと叩いた。よほど僕の頭はみんなの叩きやすい位置にあるらしい。 「そりゃ、僕だって行きたいさ。でもこればっかりは頭の構造もあるからね。努力だけでは如何ともしがたいものがある」 くすっと古代が笑みを零す。 「もしかしてお前って時代劇とか好きなのか?それとも祖父母にでも育てられてる?」 「違うよ。親は中近東に赴任してて姉貴と二人暮らしだ。時代劇は確かに好きだけどなぜゆえそんなことを?」 「お前の話し方って……なんか中途半端に古くせ〜〜」 そういうと吹き出すように爆笑しやがった。 すごく失礼な奴だけど、なんとなくこれがきっかけで僕達は急速に打ち解け、互いに様々な事を話すようになった。 いつも表情も変えない、同世代の中ではクールな印象の古代も実際話してみると意外にいいやつだった。 頭もずば抜けて切れると思ったのは、数学での小テストで俺が勘違いをしていて酷い点数をとった時 「ここはな、こういうふうに考えると解きやすいぞ」 と教師より分かりやすく説明してくれたのが最初だったと思う。 公式を完全に理解してるだけでなく、ある程度の問題意識を持っていないとこんな説明はできない。 先生が難しい言葉で説明するのを自分の読解力がないせいで理解できていないのだと思っていたけれど 古代がいかに自分のものにしているのかということなのだとその時から僕はすっかり古代の頭の良さに心酔してしまったのだ。 こいつは本当にすごいやつだと。 古代がどういう意味で僕に打ち解けてくれるのかは解らないけれど、僕らはすっかり仲良くなって帰宅部の古代は僕に合わせて時々一緒に帰ってくれることがあった。 「近くなんだ、寄って行かないか?」 そういって古代に家に誘われて一緒に勉強するようになるまでにさほどの月日はかからなかったような気がする。 狭くて古いマンションに二人暮しの俺からすれば、犬が放し飼いにできるほどの庭付きの一軒家に 二間続きの自分の部屋がある古代の家はまさに天国だった。 子供部屋に薄型の大型テレビやDVDのサラウンドシステム。パソコンと連動したゲーム。天井まで壁一面に置かれた本棚に多くの蔵書。玄関からすぐ古代の部屋に入れるから親に干渉されることもない。 トイレもバスルームも自室にあって殆ど一人暮らしだ。 「いいなぁ。おまえんち。親も殆どいないし」 「フルタイムの共働きだからね。しばらく一緒に御飯も食べてないよ」 「じゃあ、何を食べてるの?」 「自分で多少作ったり、デリバリーとかコンビニ弁当かな。作るのは嫌いじゃないけど 独り分だと作り過ぎてしまうから。咲坂が食べて行くって言うなら作ってもいいけどな」 姉貴の手抜き料理に飽き飽きしていた僕にとっては渡りに船とばかりに二つ返事する。 「食ってく、食ってく。だけど言うほどうまい訳じゃなかったら、高級レストランで口直しさせるぞ」 「あはは、まかしておけ」 そういった古代の背中がやけに逞しく見える。 古代が台所に立つと、僕もその後を探検気分でついて行った。見たこともないような料理機具や、大量に並べられた見たこともない香辛料に思わず息を飲む。 「すごいね」 「親父の趣味さ。凝り性なんだよ」 ぶっきらぼうにいう古代の後ろ姿。ふと見上げると首から耳にかけてうっすらと色付いているのをみて もしかしたら、照れてるのかもしれないと、ますます古代に親近感を覚える僕だった。 |