忘れ物 (バレンタイン直後の番外)

まりさんへ(三題話)


 大学の春休みはやけに長い。2月の試験が終わったら、4月の中旬まで2ヶ月もある。 いつもなら休みが大好きな杉田も今回は長過ぎると思っていた。

 なぜって、やっと長い春のすえ恋人の北埜と結ばれたのにその直後、急に北埜が訳も語らずに故郷の新潟に帰ってバイトをすると言い出したのだ。

 「うそだろ?2ヶ月も帰るって……」

 「休みは家に帰ってこいってうるさいんだ、両親が。それに良い金になるし」

 「だって都会の方が金になるだろ?」

 「でも、親戚の関係だから楽な仕事で時給2000円だって」

 北埜は杉田の方を振り返りもせずに黙々と荷物を纏めている。

 「俺もバイトしようかな」

 杉田が北埜の顔色を見る様に呟いた。

 「そうだね……」

 いかにもおざなりな北埜の返事に杉田は無理に北埜の整った顔を自分の方に向けた。それを北埜がうるさそうにほろう。いったい流星に何があったのか?杉田は訳が解らずに苛立たしそうに床を叩いた。

 

 バレンタインを挟んだ二晩にわたって、二人はそれは熱く熱く結ばれた。思いだすだけで下半身が熱くなる程愛しあった。

 それなのに、あの日から北埜はあきらかに杉田を避けていた。杉田の誘いをさり気なく断るだけで無く、声をかけても気付かぬ振りをして逃げるように杉田の前からいなくなるのも一度や二度ではない。最初は照れてるんだろうと余裕をかましていた杉田もこう露骨に避けられるのが度重なればそうも言ってられない。 やっと普通じゃないと気がついてこうして杉田が強引に北埜のマンションに押し掛けたのである。

 いきなり二人の静寂を破るように北埜の携帯が鳴る。

 「あ、孝之……わるい今、ちょっと……ん、後でカケ直すわ」

 最近、メールを出しても携帯で呼んでもレスも返してこないのに、他の男にはカケ直すのか? そう思った瞬間杉田の怒りはまた、頂点に達してしまった。

 「いいぜ、俺に遠慮せずにすぐ、電話しろよ。俺は帰るからよ」

 そういって杉田は思いっきりぶつけるようにドアを乱暴に閉めて出ていった。

 肩ごしに杉田の出ていったドアを北埜は見つめていた。「頼むよ……喜一……もう放っておいてくれよ……」そう呟くと彼は荷物を纏めていた手を止めて唇をきつく噛んだ。瞳の奥が熱くなったが絶対に泣くもんかと彼は瞳を閉じ自分の顎を高く上げて堪えていた。

 翌日、杉田が諦められずに、北埜のマンションの近くにやってきた時、信じられないものが彼の瞳に飛び込んできた。

 思わず杉田は、コンビニに入り込んで姿を隠す。なんと北埜と知らないイケメンな男がさも親しそうに 彼のマンションを出てきたところだった。

 「マジに二股かけていたのかよ……」

 北埜がそんな事をするタイプになんか見えなかったのに。

 だけど、北埜が男しか興味がないのは周知の事実で、一緒に歩いてる相手は同じ大学でも見かけない程のイケメンだった。男の自分が見てもほうっとため息の出るような切れ長の瞳に長い髪。口角のくっと上がった感じがさわやかで、芸能人かもしれないと思った。所詮、大学単位でもててる自分なんかの魅力なんかとレベルが違ってみえる。

 「どうりで最近冷たいはずだよ」

 杉田は目の前の光景が信じられなかった。どこかで北埜が自分を嫌いになるはずが無いとタカをくくっていたのだ。

 身体を合わせてからの突然の北埜の態度の変化に杉田は急に不安になる。

 実のところ今まで杉田は自分勝手なセックスをしてきた。彼を通り過ぎていった女達に杉田のテクニックは厳しい判断を下されたこともあった。

 だけど北埜だけは特別で、今までなかったほど優しく扱ったのにやっぱりテクなしとダメだしを出されたのだろうか?北埜だったらテクなんか気にしないと思っていたのに。

 「俺はすごく気持ちよかったんだけどな」

 勿論もし、たとえ気持ちよく無かったってお前と身体をあわせるだけで俺は満足だったのに……杉田はそう思って小さくため息をついた。

 北埜がこのまま去っていったら俺は簡単に彼を諦められるのだろうか?なぜ、俺は北埜にこんなにこだわっているんだろう?

 杉田は自問する……『今まで、ここまで人に執着する事なんかなかったはずだ。 身体の相性が悪かったからって他の男に乗り換えるような男のことなんか忘れちまえ』

 どこかでもう一人の自分がそう囁く。だけどそんなに簡単に諦められたらこんなに胸の奥がもやもやしたりしないのだ。

 まるでストーカーのようだと自嘲しながらも杉田は、2月の22日は北埜の誕生日だったと思い直し、デパートで何かを買ってもう一度だけ訪ねてみようと決心する。

 「流星はどんなものを喜ぶだろう?」

 よく考えると北埜の好みなんか殆ど知らない自分に愕然とする。

 悩みに悩んで買ったのは小さな凝った造りの銀の根付だった。これならお守りにつけてもいいと思った 。

 自分達が仲良くなったきっかけのお守りは北埜にとっても杉田にとっても大切なモノだと思ったからだ。 それを持って、北埜のマンションのチャイムを鳴らす。

 「喜一……」

 あきらかに北埜は杉田の突然の来訪に動揺していた。喜んでいるようには見えない。今さら気まずいからと帰るわけにもいかず勇気を振り絞ってポケットから包みを取り出した。

 「誕生日だろ?これ」

 杉田が小さな包みを押し付けるように渡す。

 「誰?」

 そこへタイミング悪く部屋の奥からあの時のイケメンが現れた。

 「もしかしてこれが、あの噂のすぎっち?」

 二人で俺をばかにしていたのか?からかうような物言いに 杉田はかっと頭に血が登る。

 「俺はまだ、北埜を諦めてないからな!」

 「孝之……奥に行っていて!」

 北埜が喉から声を振り絞る。

 「待てよ!逃げんな」

 「流星!なんか話が違うんじゃないの?俺がいたら不味くない?」

 「いいんだ、こいつは僕達とは世界が違うんだ。」

 不貞腐れたような北埜の言い方に杉田は北埜の肱をぐっと掴んで捩じ上げた。

 「ふざけるな!自分の浮気を正当化するなよ」

 「浮気?」

 「あぁ、人の事避けていたと思ったら他の男を部屋にいれやがって」

 そう叫ぶと杉田はさっきの孝之と呼ばれた男を部屋の奥まで追いかけ首を掴んで振り向かせる。

 「待てや、コラ!俺は認めないぞ!」

 「なんだよ」

 「流星に近付くんじゃねー」

 「いやだ」

 「なんだと?」

 「だって僕と流星は……」

 「流星なんて呼ぶな!ぶちのめすぞ!こら!」

 「子供みたいな独占欲で何をいってるんだか」

 「なにぃ?」

 「すぎっちはゲイじゃないから食うだけ食ったら女に戻るんでしょ?」

 「ば、ばかいうなよ」

 「でも流星はそう思ってるよ。諦められないから独りじゃいられなくて新潟に帰りたがってるんじゃないか?君が流星を不安にさせてるんだよ!」

 「頼むから、喜一にそんなこと言うなよ孝之……」

 北埜の顔は青ざめていた。

 「お前も一緒に新潟にいくのかよ?」

 杉田の剣幕に孝之は呆れたように彼を見つめた。

 「あのね!すぎっちさん?……誤解してるみたいだけど、僕、ネコなんだよ」

 「ネコ?」

 「僕も流星もたしかに真性ゲイだけどネコで受けしかできないの……わかる?」

 「受けってつまり……その……」

 「そ!女役……僕に嫉妬してる暇があったらあんなに不安にさせないようにしてやってよ。僕が失恋して自殺しないですんだのも流星が話を聞いてくれたからなんだから」

 後ろを振り返ると北埜が困ったような顔をして杉田を見つめていた。

 「なにさ、これじゃ僕って当て馬じゃん。帰る」

 孝之が面白くなさそうに出ていったのも二人は気遣う余裕もなかった。

 「流星……俺ってそんなに信用ないのか」

 「キスして……」

 「おい、キスで誤魔化すな……」

 杉田の最後の声は流星の口の中に消えた。

 夢中になってキスしているといつもは、なにかとセーブする北埜の方がぐいぐいと喜一の身体を押し込むようにベッドルームに入り込んだ。そしてゆっくりと指先を下に移動させていく。

 「シャワー浴びてないし……ちゃんと話をしてから……」

 そういう喜一のジッパーに手をかけるとあっという間に降ろしてしまった。

 「おい、まて、待てったら……」

 動揺しまくる杉田とは逆に北埜はあっというまに下着の中から窮屈そうにしているものを取り出していきなり銜えこんだ。

 「あ、いきなりそんな……やめろって……流星……ってば」

 絶頂感に悶える喜一を満足そうに見つめながら婉然と微笑む。

 「俺、男が好きなわけじゃないけど流星は好きなんだ……そこのところ解って……」

 必死に言い訳する杉田の口を自分の口で塞ぎながらさらに彼を追い詰めてゆく北埜だった。

 もう、北埜には覚悟はできていた。いつか来るその日を恐れて生きるより今、精一杯喜一を愛していこうと……。


まりさんのリクエストは三題話で、「浮気(疑惑?)」「誕生日」「いつもストイックな受が今日は積極的」でした。

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