遥か日輪の彼方に (番外)

100万キリリク(はな様へ)


 すでに仕事始めで誰もかれもがすっかり日常を取り戻しているのに、 ここにひとり窓辺から外の様子を見下ろし、深いため息をつく男がいた。

 額にかかる後れ毛が昨夜の情事の後のけだるさを物語っている。

 昨日も激しかった……そう、いつもの事だからそれは、もう諦めもつくのだし、 愛されていると言う証なのだ。

 無論、彼の男とは思えぬほど柔らかい唇が、そして薄桃色に染められた白い肌が自分だけのものだということに幸せを感じないと言ったら嘘になる。

 けれど、それでもやっぱり村上志月はどうしても釈然としないのだ。

 その納得出来ないもの、それは据え膳を食わされているどこか、目の前の人参を寸でのところで 毎回取り上げられるそんな競走馬の心境になることだった。

 美しく魅力的な城を手に入れるどころではない。逆に毎回のように自分が城の脱ぐと思いのほか、がっちりとした筋肉質な胸板にのしかかられ、その細みで白くはあるけれど、その固い腕にぎゅっと抱き締められているなんて。

 そして……嫌だ嫌だといいながら、女のように城を受け入れながら溜めた息がこぼれるように喘いでしまうことだ。そしてもっと憂鬱なことに、夢中になるとそんな自分の理性も彼方に吹っ飛んで その快楽を貪り、悩みもプライドも全て男を受け入れる喜びに昇華されてしまうのも納得できない。

 中堅のホストクラブとはいえ、NO1ホストを張っていた自分がこんな事になるなんて 当時の女性客は誰一人、想像だにしていないだろう。

 村上志月は再びけだるい身体を持て余しながらここ数日の自分達を思い出して深くため息をついた。

 年末から年始にかけてカウントダウンパーティを、自宅のマンションでやると城が言い出した時から、嫌な予感はあったのだ。

 案の定、実質的な妙高寺グループの管理者である恐神とその恋人の矢萩伊織。

 そして恐神の従兄弟で同じように管理者の一人なのであろう恐上と光田という若い二人。

 なんでまぁ、男ばかりのカップルなのかと城に問えば、「男同士、気兼ねがなくていいじゃないか」 なんてのたまわるばかり。

 恐神は一見ガタイのいいヤクザ風の妙高寺家の財産管理人だ。サングラスをかけているからヤクザに見えるのかもしれないし、取り巻きがそんな雰囲気を醸し出しているからなのかもしれない。

 しかも恐神の恋人だという矢萩は彼等に引けを取らぬほど立派なガタイの持ち主だった。

 それでもまだ矢萩はその風貌に関わらず、優しい瞳をした紳士だからまだましだ。きっと恐神に騙されたに違いないと志月は確信していた。

 もう一方の恐上と光田のカップルはまだかなり若い。

 そして実は志月から初めてNO1ホストの地位を奪ったのは、実はこの 恐上だった。

 せっかく知的で女の子に受けそうな甘いマスクをしてるのに、思いの他女の子にクールで 、決して華奢とはいえない志月にすらモーションをかけていたのだから、そっち系のホンモノなんだろう。

 それでも恋人だという光田を紹介されてからは、すっかりそのモーションもすっかり鳴りを潜めていた。

 だからその光田を見た時、一瞬驚いたのだ。どちらかというと恐上とは逆のナンパ系というか いかにも軽そうな、女にだらしなそうな男に見えたから。

 だが光田は、そんな外見を裏切るように意外に一途で真面目なサラリーマンだった。

 シソーラスという、そこそこ中堅の企業にきちんと自分の力で就職し、礼儀も正しくて 同世代の志月を焦らせる程なのだ。

 そんな3組みの男同士の連れ合いが、年末に一堂に会するとなれば、本来どこかのレストランでも 借り切ればよいものを。

 なぜか広くて同じビルの中に有名レストランが入居しているから 簡単にデリバリーしてもらえるという良く分らない理由で城と志月のマンションでカウントダウンパーティなんて不毛すぎないだろうか?

 それでも 飲んでそこそこ騒ぎ、夜になると やっぱりなんとなく怪しい雰囲気になっちゃったりするわけで。

 実を言えば、鈍感な志月にも城と恐神と恐上が3人で何やらよからぬことを企んでいるような微かな予感はあった。だが、よもや城が恐神達の誘いに乗ったりはしないと思い込んでいたのに。

 高価なシャンパンと恐神達による経済界の込み入った話に、志月はまずいなと思いつつも睡魔に 導かれるようにゆっくりと身体を揺らす。

 その様子をみてすぐに近くに城が寄ってくる。耳許で「何か飲む?」と優しく尋ねたのを志月はぶっきらぼうに首を振って「いらない」と答えた。

 そんな志月を少しも意に介さずそのまま城の腕が志月の腰にまわり、覆いかぶさってきた。

 熱いキス。いつも以上に……。

 ついいつもの癖で強請るように志月の腰が揺れる。

 幾度もキスを繰り返して胸元に城の手が入り込んだ時、志月ははっとし、慌てて起き上がった。

 そうだ、今日は他に客が……。

 そのまま潤んだ瞳で見上げてくる城の背後で、恐神と矢萩も重なりあっているのも見える。

 心臓が飛び出るのではないかと思う程、胸が踊り狂う。

 「やだ……」

 「どうして?」

 「だってだめに決まっているじゃないか、ここでは……みんないるし…」

 「みんなに、志月が僕の恋人だって……僕だけのものだって知って欲しい」

 そういうと城は再び覆いかぶさりその唇を塞いだばかりか、志月の下半身にまで手を伸ばす。

 「や、やだったら…」

 激しく抵抗する志月に城はきつい瞳を向けた。

 「いや?覚悟が足りないんだよ、志月の」

 すでに背後では、光田の甘く喘ぐ声が聞こえてきて、志月は耳を塞ぎたくなる。 このまま男同士の乱交なんて冗談じゃなかった。もう二度と彼等と顔をあわせられなくなる。

 「お願い……お願いだから」

 「なんのお願い?」

 「俺をベッドルームに連れていくか、どうしてもここでやりたかったら、俺に城を抱かせてよ」

 その瞬間に城の顔が強張って動きを止めた。

 もしかして、城を抱く絶交のチャンス到来か?もしそうなら、この際乱交だってなんだって 城が望むならやっちゃうぞ!そう志月が決心した瞬間。

 「いいよ。仕方ないベッドルームで。 僕らの熱々を恐神達にみせつけてやろうと思ったのに」

 とわざと音を鳴らせて城は立上がる。

 「いくよ。ぐずぐずしない!」

 ぐずぐずなんてあんまりだ。

 抱かせてくれないくせに。

 恐神達の前でとんでもない 行為に及ぼうとしたくせに。

 考えると腹が立つから考えない。

 もうここまでくれば、我慢比べだ。絶対いつか城を抱いてやる。

 自分から足を開いてもっともっとと言わせてやる。

 泣きながら早くいかせてと言わせてやるんだと志月は心の中で固く誓った。

 それから数分も経たないうちにベッドの軋む音より大きく城は、喘ぎ声を上げていた。

 激しい突き上げに反し、繊細な指使いで志月の肌の全てを覚え込むように 全身を愛撫してゆく。

 城の指使いに呼応するように志月の腰と甘い喘ぎが、 リズムと旋律を奏でていた。

 「可愛い……志月……僕の、僕だけの志月……」

 攻めてるはずなのに色っぽい城の声で志月の興奮はさらに高まる。

 「……城……か、勘弁して……もう」

 そう高く啼くと志月は快感の絶頂で意識を飛ばした。

  志月が気がついた時には、もう誰も部屋にいないどころか、パーティの後もすっかり 跡形なく片付けられていた。

 そんな感じで年末年始といったい何時間、城とベッドを共にしただろう。

 「どうしても抜けられない挨拶がある」と城が部屋をでなかったならば きっと犯り壊されていた。

 そう思うくらい志月が爆睡して目を覚ますと、なぜか 城はいつの間にか志月の寝顔をうっとりと覗き込み「食べてしまいたい」 などと物騒な事をいう。

 食べたいのは俺だし……志月が本当はそう応じたいのも、山々だった。

 だが、 疲れの溜まる志月に対して、次第に精力的になる城の機嫌の良い顔をみる度、 城がこんなに幸せそうにしてくれるのならそれもまぁいいかと 思ってしまうあたり、志月の野望は今年も遂げられそうにない。

 それどころか、年末に固く誓ったはずの誓いは自分自身で散々味わされている志月だった。

 

 

 

 つづく…?かも?

 

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