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A autumn day |
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なぜ秋は空が高く感じるのだろう? そこに浮かぶのはまさに鱗雲で頬を撫でる風も心地よい。 スポーツの秋とはよくいったもので毎週末、某かの大会で 体育館の予定は詰まっている。 その中でも今日は全都高校大会の日だ。高校の空手指導員をやって いる俺は週末が大会に潰される事に逆にやりがいを感じる。 最近はとかくいろいろ言われがちな学生や生徒がスポーツに汗を流すのは 良い事だ、そして俺が育てた生徒が伸びていくのは何よりの生き甲斐でもある。 今回の大会は高校生だけではなく将来有望だと思われる中学生も招待されていた。 体育館に入るなり、俺は思わず眉をしかめる。 全く最近の女ときたら恥じらいのかけらもない。 あんな人目のつくところで空手胴着のままあぐらをかいている。 どうやら、生徒の引率の若い教員らしいが、少し注意せねばなるまい。 注意しようとして俺はその引率教員に近付いて心臓が止まりそうになる。 なんと、Tシャツを着忘れているのだ。 試合したり動いたりしたら胴着だからあっという間に…… その、なんだ…… 俗にいう…… ち、乳房が…… み、見えてしまう。 俺はそいつに近付いて、声をかけようとしてどきっとした。 い、いや、つまりその……、 覗く気はなかったのだが、俺が近付くとあぐらをかいてるあいつの 中が上から丸見えなのだ。 ………?………だけど、肝心のものがない。 あの柔らかな膨らみが……? いくらなんでも全くないなんて変だ。 俺の頭の中はパニックを起しかけていた。 館内アナウンスが始まる。 「大会の前に空手香閣会館の御好意により、指導員の試技がございます。 羽生雄斗先生、佐高俊策先生お願いします」 いきなりあいつが立上がる。 ……?……あ、あれ?もしかして女じゃなかった? そうだよな、いくら今時の女がさばけていたって、Tシャツは着るよな。 あぁ、どきどきして損した。なんだ野郎かよ……。 ………………でもな……あんなに美人なら野郎でも悪くない……かも。 ……っていうかさっきはあんなにどきどきしたんだろう。 彼等の試技は素晴らしかった。小柄だからこそ出来る素早い動きと身の軽さ、そして 型の確かさは、見るものを引き付けずにはおられない。 特に身体の柔らかさは体操選手並みだ。相当毎日訓練したことだろう。 会場はしんと静まり返り、一瞬の後体育館が揺れる程の拍手が沸き上がった。 男だと解っていてもすごい俺好みの顔である。なぜか彼から目が離せない俺だった。 ついふらふらと彼についてゆく。 控え室の近くで俳優並みのいい男が羽生とか呼ばれた男に近付いて羽生の 肩に手をかけた。男同士だから友人なら自然な態度だよな?でも、その後、羽生の方から奴の腰に手を回したりしてる……ちょっとベタベタしすぎじゃねーの?なんだか、ムカムカする……そんな不愉快感の後、俺の胸はなぜか失恋でもしたようにきゅうんと締め付けられる。 男同士だってあんな美人とならスキンシップできるのって独り身の俺としてはすごくうらやましい。つい、二人の男達が無邪気に戯れあう様をじっと見つめていた。 ところが、俺の視線に羽生が気が付くと、突然、ぐっとその男を引き寄せ、まるで俺から隠すように俺とその男の間に入ってまるで庇うようにした。 相手のイケメンは何が起きているのかわからないのか羽生に微笑みながら俺には気が付きもしない。 なんだか呑気な感じのぼうっとした男だ。危機感のないおぼっちゃんなんだろう。 一方羽生はいきなり俺を鋭い瞳で睨み付けてきた。 奴の背後から殺気立つオーラが漂っている。 その燃えるような瞳に睨まれて俺はやっと悟った。 彼等は友人なんかじゃない。恋人同志なのだ。そして羽生は俺をオスの本能で敵と見なしているのだと。 だが、相手の恋人はそれに気が付いてもいないらしい。 羽生は目を離さずにゆっくり近付いてきた。 「何か……」 「いや、君が僕の好きだった女優さんの素顔にちょっと似ていたものだから、ついね。悪かった」 俺の口からすらすらと澱みなく出てきた言葉それは不思議な事に事実だった。 俺がつい最近まであまり好きじゃなかった女優があるテレビ番組で 化粧を落としたシーンがあった。 その顔は思っていたよりずっと幼くてかえって色っぽくてそのギャップが俺にとってはそそられた。 自分でもたった今まで自覚はなかったがその素顔の女優の顔にこの羽生と言う 指導員の雰囲気が確かに良く似ていたのだ。羽生はそう言われるのに馴れているのか驚きもせず逆にほっとして表情が和らぐ。 「なんだ、びっくりした。あんまりじっと見るからホモかと思いましたよ」 少し茶化すような言い方をして羽生は俺に笑ってみせた。 俺の関心があのイケメンにないのなら、俺なんかどうでもいいのだろう。そして心底ほっとしたらしい。悔しいが外見はどうあれ、この羽生という男は実に男らしい男なのだろう。そのギャップがこいつの魅力でもあるが、呑気そうな恋人がそれに気が付いているのかどうか? そしてほっとして綻んだ羽生の笑顔は男だとわかっていてもきゅんと切なくなる程、俺にとって魅力的だった。 |