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母方の祖母の手によって育てられた為か羽鷲の第一印象はすこぶる評判がよい。
仕事先では年令の割に落ち着いて見られるのもプラスになっている。
例え肩書きが課長だろうが若造と大事な案件を交渉したがらないものだ。
第一、母方の姓を名乗っているために社長の息子だなどと社内でも知らないのに気がつく訳もない。
羽鷲竜斗に限って言えば、撫で付けたオールバックの髪型のせいで
20代後半に見られる事がほとんどだった。
今日の取引先は新規にしては大手の志賀コミュニケーションズ株式会社で、羽鷲としても是非まとめたい、まとめなければならない案件だった。金額も決して小さいものではない。
志賀コミュニケーションズ株式会社に着いた時、ロビーでまっていたのは
優しい瞳のどちらかといえば女性的な印象の男だった。
「浅井と申します」
そつのない名刺の出し方からいってなかなか仕事のできる男だと羽鷲は気を引き締める。
「ありがとうございます。シソーラスの羽鷲と申します」
竜斗が手際よく名刺を渡せるようになったのは、何時頃からだったのだろうか?
交渉は気持ち良いくらい順調にすすみ、多少修正も羽鷲自身の判断でできる範囲のもので
ほぼこたらの希望どうりにすすみ羽鷲は胸をなで下ろした。
浅井は最後に別れる時まで爽やかな印象であった。
「なかなか綺麗系の人でしたね」
同行した部下の光田は、浅井と別れた後とんでもない事を言い出す。
「あの眼鏡を取ってみたい衝動にかられるなぁ」
「お前なんか相手にされるもんか。仕事中に下らない事をいうな」
羽鷲はそういいながらも
ふと浅井の姿を思い出して雄斗に思いを馳せる。 雄斗にも浅井のようなふち無しフレームの伊達眼鏡
をしたら、悪い虫の予防になるかもしれないな……などと。
さっそく帰ってから会社のパソコンを開くと浅井からメールが入っていた。
さすがそつのない男だと感心する。返信を打つ手を止め、今日受け取った名刺をファイルに
そっと仕舞込んだ。 |