|
amulet |
|
葉子はなかなかの美人で俺のタイプだった。 普段は物静かに見えて、いうことはがつんという。つまり言い方は優しいがなかなかツボを得てるのでグーの音も出ないというやつだ。 正直言って今まで付き合った事が無いタイプで俺は急速に彼女に惹かれかけていた。 しかし彼女はどんなに誘っても俺に靡こうとはせず、「流星が来ないのだったら遠慮する」ととりつく暇もない。 もしかしたら、北埜がじゃましてるんだな。俺はそう確信した。 北埜を締め上げると 北埜は思いのほか素直に協力するという。だが、その時あいつはとんでもない事をいいやがったのだ。 『僕が女の子だったら杉田は僕も誘ってた?』 何を言い出すんだ?こいつは? 『誘わねーよ』 誘うわけないだろうよ? ばっ……ばっかじゃねーの? 何を考えてるんだ? 「え? 」 え?じゃねーだろーよ。第一そんなこと考えるなよ。 「誘わねーっていったんだ。そんなくだらねーことよりちゃんと葉子を確実に呼び出せよ?影から見てたりするんじゃねーぞ」 なぜか俺の胸が引き絞られるようにきしきし鳴った。だから俺の言葉は上擦って必要異常に乱暴に言い放ってしまった。とたんに北埜の表情が暗くなり長い睫の縁がきらっと光ったように見えた。まさか泣くのか?そんな北埜の潤んだ瞳が思いのほか色っぽくて俺はどきっとして鳥肌がたった。 ちくしょー俺まで変な気持ちになるじゃないか。やめてくれよ。 俺はなんとか俺の胸の中に生まれたざわざわした何かを必死に押し込めた。 翌日、北埜が首尾よく葉子を喫茶店に誘い出したのを見計らって俺は公園を出た。 向うに喫茶店から出てくる北埜が見えたが俺は妙に気まずくどぎまぎして無視して葉子の待つ喫茶店に入ろうとした。 「落ちたよ……」 どうやらチョーカーを落としたらしい。北埜がそれを拾って俺を潤んだ瞳で見つめながら差し出した。 ちょっ!勘弁してくれ。 そんな表情で見られたらこっちも変な気分になってくるじゃねーか。 よしてくれ。 本当はお気に入りだったが、この際仕方ない、俺は慌てて北埜の手から乱暴にチョーカーを奪い取る。 「切れたからいらねーんだ。安もんだしな」 俺は急いでチョーカーを公園のゴミ箱めがけて投げ付けた。こんな妙な気持ちになる北埜ともう一瞬でも一緒にいたくなかったからだ。 喫茶店に入ると腕と足を綺麗な形に組んで葉子が俺に向って余裕の笑みを浮かべる。 「捨てる事ないじゃ無い……似合っていたのに」 「いいんだ」 俺は葉子の傍に来てやっと平常心を取り戻す。 「見て!」 葉子は俺に自分の視線の先を顎で促した。なんと北埜が俺がさっき捨てたゴミ箱からなにか捜してるのだ。どうやら北埜はこの喫茶店のガラスがマジックミラーになっているのを忘れているらしい。 「健気だと思わない?」 「何が」 「解ってるくせに」 葉子はさも嬉しそうに俺の顔を覗き込む。 「いいな……流星って。今時の女の子にもいないくらい一途……」 「葉子は流星が好きなのか?」 「もちろん好き。でも私の本当のタイプはもっと大人の男かな」 「俺みたいな?」 「すぎっちはまだまだ、可愛い部類」 どうやら俺は告白する前に一瞬で振られたらしい。俺はがくっときたが葉子は余裕の笑みを崩さない。 「私にそういわれても、本当はすぎっち、そんなにショックうけないでしょ?」 「え?」 「本当は私にそんなにどきどきしないでしょ?すぎっちが一番どきどきする相手は誰なのかな? それはすぎっち自身が一番よく知ってると思うけど」 「思わせぶりな事いうなよ」 葉子の瞳がいたずらっぽくきらきら光った。 「いいこと教えてあげよーか?」 「なんだよ」 「恋する人のモノが思いがけず手に入ったらどこにしまうでしょう」 「しらねーよ」 「私なら小さかったらペンダントトップにして、もう少し大きかったら お守りに入れるかな?肌身離さず持っていても不自然じゃないしね」 葉子はそういって席をたつ。 「おい、なんだよ」 「もし、すぎっちが自分を男っぽいと自覚してるなら貴方の方からきっかけをつくらないとね」 「葉子……」 「すぎっちの胸に住む大切な誰かをすぎっち自身が救ってあげて、今は溺れかけてるみたいよ?」 呆然としている俺を残して葉子は喫茶店を出ていった。間抜けな事に葉子がレシートを持っていったのも自分の精算をするまで気が付かない程、俺はしばらく呆然としていた。
|