それぞれのサンタクロース(2)









──しかし綺麗な顔、してるよな。
向かいに座った眼鏡の男の顔を見て、雄斗は胸中につぶやいた。賞賛でなく、当然嫌味でもなく、それはまったくもって単なる「感想」である。
恋人の竜斗は、自分がどのくらい世間受けする顔をしているのかろくろくわかってもいないくせに、事あるごと、一方的に雄斗の容貌を褒める。そのことが精神的にこたえていた日々はとうに乗り越えたが、そもそも竜斗は面食いなのだと雄斗はひそかに思っている。
雄斗の勘が間違いなくゲイだと伝えるこの浅井という男が、もしも竜斗に興味を持ったらと思うと、いい気持ちはしない。
竜斗を信じていないわけではない。ただ、あの、育ちが良すぎるというか、男らしいくせにどこか隙のある天然ぶりが、雄斗をやたら不安にさせてくれる。……どこで誰に押し倒されるかわかったもんじゃない、と本人に警告しても、笑って相手にもしないけれど。

自分が愛情表現に長けていないことはよく承知している。
そのことはちょっとしたコンプレックスで、そしてそれをコンプレックスだと感じてしまう自分がまた、気に入らない。

愛しい人へのクリスマスプレゼントのことを考えながら、あの店に入ったのはほんの偶然で、けれど竜斗になら似合いそうな小物たちは自分の目にはなんだかよそよそしくて、しょうがなく、他の客が手に取ったものを後追いで眺めていた。
あのケースを見ていたのが浅井だったとはさすがに背中だけでは気づかなかったが、立ち止まってじっと品物を見つめていたその雰囲気は、客の誰より熱心に見えたのだ。
それで、あれを買おうかと思った。
だから、あれは浅井に譲っていいと思った。

何も言われていないのに、雄斗がいきなり買ったものを返品すると、浅井は一瞬、呆気に取られた表情をしていたが、慌てて雄斗に礼を述べ、最後の限定品を購入した。

そこで話は終わるはずだったのに、雄斗は今、浅井とテーブルを挟んで紅茶を飲んでいる。
浅井にお礼がわりに食事でも、と誘われたとき、竜斗が今夜も作ってくれるはずの夕食のことを考えて遠慮しようかと思ったのに、つい「お茶ぐらいなら」と返事をしてしまった。
……あの日のレストランの連れが、ステディとは限らない。取引先という接点を持つこの眼鏡美人が、本当に竜斗にやましい気持ちがないのかどうかは、今のうちに探りを入れておいたほうが得策だろう。

「譲っていただいてしまって、本当に良かったんですか?」
落ち着いた内装によく似合う低めの声が、少し心配そうに訊ねる。
「それは……いや、正直、どうしてもあれじゃなきゃいけないわけでもないし、それに……横取りしたようなものだったから」
「横取り?」
「ああいうもの、俺じゃ、どんなのがいいかわからなかったし……そしたらあの棚の前で粘ってる人がいたから、あれ、いいものなんだろうと思って、それで──それって結局、横取りでしょう」
「じゃあ、どなたかへの贈り物に?」
「そんなような感じ、かな」
そう答えた自分が可笑しくて頬を緩めると、向かいの人物も笑った。
「そうだ、羽鷲さんはお元気ですか」
瞬間、思わず笑いが引っ込む。
「ああ……元気です。それなりに」
ここんとこ寝不足気味で機嫌が悪いけど、と心の中だけで雄斗は付け足した。
「そうですか。僕はお会いする機会が全然ないもので」
「え、でも、仕事で会ったりするんじゃないですか? リュウからは取引先って聞いてますけど」
「会社としてはそうなんですが、僕は担当が違うんですよ。シソーラス社のかたと直接お話しすることはまずないですね」
──じゃあなんでリュウと知り合いなんだよ!?
柔らかく苦笑して答える浅井に、雄斗は思いきり突っ込みそうになったのをこらえ、代わりに、違う質問をした。
「……リュウとは──羽鷲とはいつ?」
「え? ああ、初めてお会いしたのは……そうですね、たしか、去年の9月頃だったかな」
素敵なかただったのでよく憶えていますよ、と言わなくてもいいことを補足して、眼鏡ごしに極上の微笑が咲く。
……そのとき雄斗の脳裏に、ある光景がフラッシュバックした。
「眼鏡……」
「は?」
唇の端から漏れたつぶやきは、向かいの人物に届いてしまったようだが、この際、どう思われようが知ったことではない。
去年の秋──あのとき……そうだ、あれは九月か、それとも十月だったか? 竜斗が唐突に眼鏡をプレゼントしてきたときには「可愛いやつ」と思っていたのに、いったいこの時期的な符合はどういうことなのか。

──どういうことか、じっくり訊いてやろう。……今夜。

不機嫌に黙りこんでおいて、それでいてどこか楽しそうな雄斗を、浅井はこれ以上なく怪訝な表情で見つめ、それから、困惑の溜息を飲み込むべく、温かいカップを口元へ運んだのだった。


── Fin.