ときめきなんか欲しくない




 信じられない……なんでよりによってあいつと同じホテルのダブルベッドで寝てるんだ? あり得ない……まさか?俺とあいつがなんて……。

          ☆ ★ ☆

 ムシの好かないタイプというのは、どんな世界に所属しようとも避けて通れないように決まっている。そう感じるのは俺だけでは無いだろう。わかってる…多分それは、半分くらいは同族嫌悪。自分の自覚したく無い欠点を他人の手によって無理矢理引き出されるような居心地の悪さをあいつも感じているのだろうか。

 ふとした拍子にやけに目があい、互いに嫌なものを見たと言わんばかりに視線を外す。 このいら立ちをいったいどこにぶつけたらいいのだろうか?

 そんなあいつと最初に互いに意識したのは、なぜか同じホテルで幾度となくかち合わせすることだった。 もちろん、あいつが女だけしか連れていなかったら僕は全く気にもとめていなかっただろう。 だが、あいつは時々はっとするような綺麗な男ともホテルを共にしていたのだ。

 自称バイ……本質的には殆どゲイのタチを自認する俺にとって最も食指の動くタイプの魅力的な男ばかりをいつも連れ歩いていた。 しかも驚いたことにあいつまでも俺の可愛い連れをちゃっかりチェックしてやがる。

 上から下まで舐めるように眺めると俺が一緒にいるのに俺のことなんか全く目に入らないという感じで堂々と自分のパートナーの関心がそれた瞬間にそっと俺の連れに目配せしやがったりする。

 嫌な野郎だ……お前は母親に幼い頃イソップ童話の欲張り犬の話を読んでもらわなかったのか?

 二兎追うものは一兎も得ずだぞ。

 俺は自分を棚に上げて心の中で罵しりやつの顔を睨み付ける。 ところが、あいつときたら、俺から目を逸らすどころか挑戦的ににやりと笑いやがった。

 「康祐……どうしたの?あの恐上と知り合い?」

 甘ったるい声で俺の腕にしがみついてくるのは、可愛い顔をしてるが、相当したたかな男一哉 だ。

 「知らねーよ」

 そういいながら、俺と恐上と呼ばれた男は視線を絡めながら互いを牽制しあったような気がする。

 「あの恐上って目立つだろ?なんでも噂じゃ、、この辺りの一番有名なホストクラブの元NO1ホストなんだって。有名国立大を出たおぼっちゃまで、しかも今は松森製作所に勤めてるエリートなんだってさ。噂では男も女も食い放題って聞いていたけどどうやら噂は本当みたいだね」

 俺と一緒にいて他の男の話をするか?フツー……。お前はイケメンなら誰でもいいのかよ。

 「一哉……お前、俺より恐上に興味があるなら、さっさとアプローチしてきたらどうだ?俺はそんなやつと穴兄弟なんてごめんだけどな」

 そういってそのまま足早にエレベーターに乗り込んだ。遅れまいとして一哉は閉まりかけたエレベーターに身を滑らすと誰もいないことをいい事にキスをしかけてくる。

 「拗ねるなよ、康祐だってあいつに負けないくらい、いい男だからさ」

 それでも、なんとなく気分は優れなくていつまでも恐上の俺を小馬鹿にしたような顔が 頭の中で行ったり来たりした。

 そんな思い出したくもない経験が数度続いた後、決定的な事件が起きた。

 そうだ、まさにあれは事件だった。

 2年前、上司に振られてから俺のずっと片思いしてる人……同僚だから、そして穢したくない友達だからずっと心に秘めていた……苅田祥太とあのムシの好かない元ホストが夜のホテル街を歩いているのだ。

 だって間違いない、俺もよく利用する安い割には小奇麗なビジネスホテルしかも、セミダブルつき。 ホテルのフロントは俺達をただのビジネス客だと思っているみたいで、すぐにいつもの部屋のキーをくれる 便利な場所。

 苅田!どうして、どうしてお前はよりによってそんなとんでもない鬼畜な野郎の毒牙に引っ掛かってしまったんだ?

 俺がずっとお前に抱いていた淡い恋心は、大切にしてきたお前はどうなるんだよ?

 そう思うと俺はいてもたってもいられずに、約束していた連れのことなんかすっかりぶっとんでエレベーターの前に立っている二人の間に割って入った。

 「苅田、お前、どうしてこいつとこんなところに」

 俺の焦りをよそに苅田は無邪気な顔で俺の方に近寄ってきた。

 「あ、光田さん、光田さんこそ。誰かと待ち合わせですか?」

 あぁ照れた顔が可愛いなんて思っている暇もない。ノンケとはいえお前には危機意識ってものがないのか?

 このホスト崩れが!

 純粋すぎるこんな可愛い後輩までたぶらかしやがって。

 「この男がどんな危険な男か知ってるのかよ?この男は……」

 最後まで言わない内に元ホスト野郎は俺の腕を締め上げる。

 「あんた、そんなえらそうな事が言える立場か!やってることは変わらないだろ?」

 「逃げろ、今の内にここから離れろ!」

 俺は必死の形相で叫んだ。そんな俺におびえるように苅田は何度も不安そうに振り返りながら 駆け去っていく。

 「この勘違い野郎が!」

 そう恐上が叫んだと同時に俺の鳩尾にやつのケリが見事にヒットして俺はそのまま意識を失った。

 気がつくとそこは、勝手知ったる例のホテルの一室で。俺はいつものように 気のあう連れのセフレと熱い夜を過ごしたのかと思ったが……。

 なぜかすごい寝汗をべっとりかいた俺はがばっと起き上がった。

 「大丈夫か?」

 なんとその声は恐上じゃないか。

 「おまっ!」

 最後まで声にならないほど、沸騰するような怒りが湧いてくる。

 「祥太をどうした!」

 「しょうた?」

  「苅田祥太だよ。あぁ、まさかあいつまでベッドに連れ込んだんじゃないだろうな」

 恐上はちょっと小首を傾げて人さし指を唇に当てた。

 「あ、さっきの男か?ベッドに連れこんだとしてもお前に関係あるか?」

 「あるに決まってるさ。ずっと好きだったんだ。彼に嫌われたくなかったから 簡単に誘ったりもできなかったのに……ずっと大事に……ちくしょう……それをお前は」

 半べそ状態の俺。こっちは声をかけるのだってドキドキしていたっていうのに。

 「しらねーよ。そんなこと。誘ったら簡単についてきたんだぜ?ただ俺のとったホテルの部屋で一緒に飲もうって誘っただけだ」

 「そして食ったのか?」

 「食えたら食おうと思ったけどな。その予定だったけど、逃げられたよ。お前があんなに大声で騒ぐからだ。責任とれよ」

 そういって恐上は思いっきり俺にのしかかってきた。責任だと?ふざけるな。

 「どけよ、重いぞ!」

 にやりと笑った顔に嫌な予感が走って僕の背中はきゅうっと何かが走り抜けたように寒くなった。

 「ふざけるな!重いっていってんだろーが」

 可愛い男の子にのしかかられるのならいざ知らず、でかい男に乗られたって重たいだけだ。 声が上擦ってるのが情けないけどな。

 「前から思っていたけど、実はお前ってかなり俺の好みの直球ど真ん中なんだよ。だから今夜のことはお前が悪いんだからな。いいか、俺は一日一回は誰かに入れないと一日が終わった気がしないんだよ。責任はとってもらうぞ!」

 好みなんてばかいってんじゃねーよ。第一誰かって誰だよ?誰でもいいなんて言わないだろうな?俺なら勘弁だぞ!

 「ばか、言ってるんじゃねーぞ。……気持ち悪いったら……顔を近付けるな。重い!離せ!」

 俺の身長も175cmはあると思うから、イマドキの男にしたってそこそこの身長だと思うがこいつ、俺より10cmは高そうだ。

 だから遠くから見たら細くて華奢に見えたのに、脱いだら何だよ。この筋肉は!

 俺があせっている顔を然も楽しそうに見下ろしてさらに体重をかけてくる。どうしていつもみたいに上手く 自分のペースに持ち込めないんだろう?これなら、まるで……まるで俺が……

 「いやだやめろっていってんだろ!いいかげんにしろよ。この野郎!」

 必死で身を捩ってるのにどうしてびくともしないんだ?こんな間近でライバルの顔なんか見たくないぞ。 こんなに近くで見たって、みれば見るほど良い男なのがムカツクけどな。

 「暴れるなよ。逆に興奮するから」

 腐った事いいながらごつい腰を押し付けんな。腰を!ナニがあたってんだろーが。それに手……手を……

 「おまっ!どこに手を突っ込んでる」

 俺はお前みたいなやつは趣味じゃねーの。可愛い男の子のブーメランパンツにならいくらだって手を突っ込んでやりたいけど、テメーの手なんか突っ込まれたくはないんだよ。一目見れば俺がタチだって一目瞭然だろうが!

 「不粋な事を聞くなよ。お前だっていつも可愛い男の子とお楽しみじゃないか。たまに俺の相手をしてくれてもいいだろう?」

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