嵐の予感

60000HITキリリク(ユリエさま)



「この後は、午後4時にハニ−コーポ様との懇親会。その後は7時にKK産業さまとの夕食会が入っております」

 嶋田が話しかけた相手は返事もしない。 取りあえず、報告したのだからと嶋田晃司(しまだこうじ)はそのまま秘書室に戻ろうとした。 秘書室のドアの方に嶋田が向いたとたん、いきなり後ろから羽交い締めにされた。

「ちょっ……他に何か御用ですか?」

「おい、なんていうハードスケジュールだ。俺を殺す気か?」

「は?」

 嶋田はとんちんかんな受け答えをしてしまう。 まだ、この会社に入社して1ヶ月しかたっていないのだが、 今までの秘書室長は降格人事で地方にやられ、2人いた女の子の秘書も 一階の受け付け勤務になってしまった。

 それでも、前の会社では新人のホープと言われたやり手の嶋田にしたら 一人でもなんとかこなせる量だった。 忙しいのは全然構わない。やりがいもあるし、金にもなる。

 今、一番の問題はこの男(桜宮 泉)のセクハラだったりする。 なんせこの男、前の会社の取引先の社長だったのに、どうやって手を回したのか強引に引き抜きされてしまった。 知らない人は「ヘッドハンティングですか?」なんていってくれるが、 知ってる奴は『螢人事』などと失礼な事をいうのだ。

 つまり螢はどこのおかげで光ってるかという考えたくも無い例えで冗談じゃ無い、いくらなんでもそんな訳ないのに全く不愉快だ。

 この会社は前の会社の規模も十倍もあって手取りも5倍近いがそのストレスときたら 100万倍といっていいかもしれない。 暇さえあれば、人の躯を撫で回したり、挨拶代わりに彼の大切な場所を握りしめてきたりする。 そんな攻撃に晒されながら何喰わぬ顔で仕事をする僕って偉いかも。嶋田はいつもそう思っていた。 そうでも思わなくてはやってられないのだ。

「筋肉質で良いケツだ。中の締まりもいいのかな?」

 社長のセクハラは聞かない振りをする。 これも仕事だ。たしかに今までも営業先にもホモはいた。しかし適当に誤魔化してしつこいようなら、「会社に報告しますよ」 といえば一発だった。

 あぁ、それなのになんの因果か社長がホモなんて。その上、その秘書だなんて悲しすぎて涙も出ない。

「一度は経験してみた方がいいぞ。何事も人生経験だ」

 社長の腐った台詞はとことん無視して書類を整理する。 社長が嶋田の顎を掴んでキスをしようとしてきた。嶋田は深いため息をつく。

「社長、本日の決裁はお済みですか? 時間以内に終わらせていただきませんと 業務に支障をきたしますので」

社長の迫りくる顎を手のひらで押し返し、顎を掴んでいた手をそっと外すと、あくまでも事務的に用件を伝える。

「今夜つきあってくれたら、真面目にやる」

「もちろん、9時まではおつき合いしますよ。KK産業さまとの今回の取り引きは多額ですからね」

 まさに取り付く暇もない。 社長は深くため息をつくと上目つかいに嶋田を睨んだ。

「わかった。また、『キャラメル・ボーイ』のアムロ君を予約してくれ。泊まりで頼む」

「はい。ホテルはいつものところでよろしいですね」

 嶋田の声が少しだけ掠れた。 嶋田は社長の事は決して嫌いではない。どちらかというと好きなタイプの上司だ。 32才の若さで社長になり多少強引だが仕事は見事にこなし、セクハラ以外に嫌な思いをしたことがなかった。 そしてプロレスラーにでもしたいような見事な筋肉と180を超える身長。 女にだってもてるに違い無い。 しかし、相手はただのホモだ。売り専の子たちと自分を一緒に考えてもらっては困る。 あまりしつこくされるようだったら、他の会社に移ろうと決心していた。

 しかし、その懸念は杞憂に終わりそこまで強引にされることはなかった。 ホモの世界だってどうやら若くて可愛い子が人気のようだ。

「27才の僕じゃ、まぁ範囲外だろうけどな」

 嶋田はそんな事を考えてしまう 自分が少しだけ可笑しかった。 社長は自分が入社してから、殆どそのアムロという子以外を指名することはなかった。 きっと可愛い子なんだろう。そう思ってつい出来心でホームページにアクセスしてしまった。

「見なきゃ良かった」

 予想以上のアムロくんは今時のタレントでもなかなかいないような超美形。歳も18才だ。

 まったく僕は何をやってるんだ、僕には関係ないじゃ無いか……。マンションに帰ると いつもにもまして疲れた身体をバスタブに沈めてため息をつく。 その時、急に聞き覚えのある着うたが携帯から流れてくる。 社長の携帯……会社からだ。何があったのだろう。

GIFT  TOP NEXT