僕のそばにいて

1000HITキリリク(Louisさま)



 あんなに牛乳を飲んだのにこの1年たった5mmしか伸びていなかった。 この一生で一番のびるといわれてるこの時期にだ。 これじゃあ、20才までに180cmなんて夢のまた夢。

 そう、僕 井原充(いはらみつる)は今年17才高2にもなるのに158.5cmしかない。明治時代の成人男子の身長だ。 女の子だって今時、160cmはないとフライトアテンダント?とかにも雇ってもらえないそうだ。 オヤジだって170cm、兄貴だって178cmなんで僕だけ158.5cmなんだ。(しくしく)

「伸びてたか?身長」

 兄貴がさもいい肘置きだと言わんばかりに僕の頭に肘を乗せる。 む〜〜っ。みんなその話は遠慮して語らないのにこいつと来たら……一度ころしてやろうか?

 直樹は俺の兄貴、某有名私立大を現役で合格、頭も良けりゃ、顔もいい、ついでに言えば スポーツ万能。俺のコンプレックスを刺激する男だ。

 「こら、直樹!よせ。みっちゃんが縮んでしまう。肘をのせるな」

 でもって、もっと俺のコンプレックスを刺激する男がもう一人。この男、叔父貴の由貴(よしき)だ。 こいつは182cmで某有名国立大を出た後キャリアという、絵に書いたようなエリートコースを進んでいる。 オヤジが母親と離婚してから同じ家で同居して休日にまとめて家事をしてくれる僕らの母親がわりだ。

「小さくて可愛いとかいつも言ってるのはどなたでしたっけ?」

 兄貴がからかう。由貴がそんな事言っていたのは僕が小学生の時だ。今はもうそんな意地悪を言うのは兄貴だけだ。

「とにかく、みっちゃんに触るな。ほら、バイトに行く時間だろ?」

そういって意地悪な兄貴を追い払ってくれた。

「由貴(ゆき)ちゃん今夜のおかず何?」

 叔父貴が親戚からこう呼ばれているのでつい、僕らもゆきちゃんと呼んでいる。 これってクラスの女の子には聞かせられないなとちょっとだけ思う。 とにかく腹が減る。こんなに食べてるのにどうして伸びないんだろう。

「ハンバーグだよ」

 由貴ちゃんは僕の頭をぐりぐり撫でながら優しくいった。結局由貴ちゃんだって僕が小さいから バカにしてるのかな。

 「今夜は大事な用事があってね。一人で大丈夫かい?」

「……」僕は返事をしなかった。

 もう、僕は子供じゃ無い。だけど行って欲しく無かった。

だって大事な用事って多分、由貴ちゃんがこの前お見合いした綺麗なオネェさんとデートだから。

 「なるべく早く帰ってくるからね」

 やっぱり行くのか。僕は淋しくて仕方が無い。 由貴ちゃんは僕を置いて結婚しちゃうんだろう。 由貴ちゃんが家を出て僕はひとりぽつんとなったやけに広く感じる部屋の中で 行き所のない孤独に耐えていた。今だけは家になんか居たく無かった。

 僕は取りあえず、財布をもって外に出た。由貴ちゃんが電話でメモした住所と店の名前だけが 僕を少しだけ勇気づける。

 由貴ちゃんに会えなくたっていい。ちょっとだけ近くにいたかった。

 『プリズム』っていう店は割とマンションの近くだった。 そっと扉を開ける。そこは大人の世界だ。

 「おや?小学生が迷い込んで来たらしいぞ」

 カウンターに座っていたすごくかっこいい人がそういって僕を摘まみ上げた。

「小学じゃない……高校生です」

「え〜〜?いくつ?」

「17才」

「じゅうしち〜〜〜??おれと一緒じゃん、ってそれは冗談で18才からじゃないと ここには出入り出来ないの。おれは18才だからね」

 こいつ、多分、本当に17才なんだろう。だけどどうみても大学生にしか見えない。 あぁ身長があるやつはいいよな。

 そう、思いつつ僕が入ろうとしたら、「待った」とさっきの17才に止められた。

「ここがどういうお店か知ってる?」

僕がきょとんとしてると、「やっぱりね」といってぐっと肩を引き寄せた。

「何するんだよ。よせよ」

「可愛いな。あのね、知らないなら尚更だよ。僕と恋人同志っていうことにしよ?」

「なんで僕が男と恋人にならなくちゃいけないんだ?」

「ここはそういう店だし、君みたいなおこちゃまは一人で入れないよ。お店も子供を入れると ケーサツに怒られちゃうからね」

 ケーサツってなんだよケーサツって!この男、完全に僕を子供扱いだ。その上そういう店って何かの間違いだろ? 僕は急速に不安になった。

 17才に腕を掴まれたまま、僕は奥へ奥へと入っていく。 奥の個室らしいところで、声が聞こえた。 それは間違い無く由貴ちゃんの声だった。

 僕はできるだけ個室の近くに座って様子を伺った。自称18才も一緒に座る。 何か深刻そうな話をしていたみたいだった。

 「最後にキスだけ」

「じゃあキスだけね」

 由貴ちゃんの声だ。相手はどう考えても男の声。 僕は大変なところに乗り込んできてしまったらしい。

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