![]() 2006バレンタイン(2006) |
|
積み上げられたチョコレートの箱、箱、箱。 昨日までに届いた分は確かに施設の子供達に寄付したはずだから今日1日で 部屋を占領されかねないチョコレートの壁のように天井まで積み上げられた山に村上志月 は思わずため息をついた。 部屋に充満する甘い香。 いったい誰がこの甘い御菓子をこれ以上どこに処分するというのだろう。 「いっそチョコレート風呂にでもしてみたら?」 チョコレートに関心のない恋人はそんなことを言い放つ。 「嫌だよ。べたべたする」 考えただけで鬱陶しい。 第一食べ物を粗末にするなんて、庶民の自分の感覚からいうと 絶対に生理的に受け付けないし。 それなのに。 「べたべたになった志月を朝から1日かけて舐めて綺麗にしてやりたい」 自分が綺麗にトッピングされた御菓子のような男のくせに、よくもまぁ、ごく普通の男相手に そんなベタ甘い恥ずかしいセリフを吐けるものだと思う。 絶対、城の瞳には自分を見れば、鏡に映してモノをいっているような大きな勘違いを 述べてくれる。 よ〜〜くみろ! どうみても、俺はお前より背も高くて、筋肉もついていて、色もさほど白くもない 男っぽい男だぞ? そう、いいたいのだけど、城の瞳を見ればそこには潤んだ瞳になんだか気の弱いのか強いのか わからないような困惑した男が映っている。 ひとたび、彼と唇をあわせると、彼の唾液がまるで媚薬のように俺を骨抜きにする。 甘い甘いキス。 俺だってどれだけの女の子を虜にしてきたはずの、キスのテクニックを持っているはずなのに いつも、そのテクニックを恋人に披露した事が一度もないのが情けない。 彼の指先のロンドやリズミカルな腰の動きに、何がなんだかわからないまま、翻弄され、啼かされ、気がつくといつも朝なのだ。 微かに入り込む朝日に映える城の整った唇が、ゆっくり近付いてきてまた、キスをする。 「昨日も可愛かったよ、志月。あぁ、ずっと志月の中にいたいのに。また朝になってしまったね」 そんな憤死したくなるようなとんでもない台詞と共に、気を失うように朝まで寝入っていた俺の代わりに ベッドまで朝ごはんを持ってきてくれる。 「ライ麦パンとロイズの発酵バターのトースト。伊織さんたちが美味しかったっていっていたでしょう? クリームチーズとベーコンのスクランブルドエッグ。食べられる?」 情けないが黙って頷くだけの俺。 「食べさせてあげようか?」 おいおい! 俺はもう立派な成人男子だぞ?それなのに 「ほら、口を開けて?あ〜〜ん」 なんて小馬鹿にされてるとしか思えない事をされても、俺が怒れないのは本当に俺が起きられないからだ。 昨日の熱い一夜で、もう身体を起こすのがやっとで、指一本動かすのもおっくうだ。 どうして城はこんなに絶倫なんだろう? 「ずっと寝ていていいからね?志月は、何にもしなくていい」 これってやっぱり、俺が本当の意味での城の愛人ということなのだろうか? 城の相手をするだけが俺の仕事だなんて、やっぱりプライドが許さないと思うけれど、 こんな甘い香の部屋に、酔ったようにもうどうでも良くなって、惰眠を貪ってしまうのだ。 俺の野望……時々それを呟くのさえ虚しくなるほど、俺は愛されているらしい。 FIN |