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トランシルバニアへ (思い出を忘れたくて番外)
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家路に急ぐ人々の足が心無しか小走りに感じる師走。 街路樹はオレンジ色のイルミネーションで飾り付けられ ほんのりと暖かくさえ感じる。 そう今年の冬はなぜか暖かい。 夏も暑いと感じたけれど12月に入ってさえまだ暖かいのはなぜなんだろう。 顔がぴりっと引き締まるくらい寒い朝がこないと年末を迎える気がしない。 俺の故郷はここから遥か離れた北海道の漁村だからとは一概にいえないだろう。今年は特に暖かいから、この分では俺は本当にふやけてしまう。 そうはいっても北海道に帰る程の休みも理由も見つけられない俺は、長野のスキー場に 行く決心をしたもちろん、古城とだ。 ところが、結菜と東海林までついてくるという。 ダブルデートなんて今どきそんなかったるいもの やってられるかと思ったが、 古城がどうしても二人だけで行くのは照れるようなので仕方なく 東海林達の同行もしぶしぶ承知した俺だった。 当然、ダブルとツインの部屋を取る。俺の親戚のペンションだから料金も格安だった。 俺は当然の雪国育ちだし、スポーツ全般不得意なものはないからボードなんて簡単なのだが、古城ときたら、スポーツ全般がからっきしだめなのだ。 「かったるい野郎だな……スキーは乗れるのか?」 「どっちも乗れない……」 「じゃあ橇にでも乗ってろ」 「冷たい事言わないでよ、充!いいわ、私が一緒にボードスクールに入るから」 結菜のやつ妙に優しくないか?面白く無い。 「じゃ俺が教えてやる……」 俺のつぶやきを聞くなり古城のやつ真っ青になっている。 「遠慮するよ、結菜と行く方がいい」 ちぇっ……まぁいいか。ゆっくりボード乗りたいし……荷物を置くのもそこそこに 俺達はさっそくゲレンデに向うなり息もつかぬように滑り出す。 眼下に麓の町並みが小さく見える。 今日は空が青く高い。 遥か彼方の山脈が青白く連なっていてここは別世界だ。 途中でとまって思わず伸びをして深呼吸をする。 冷たい空気が胸いっぱいに入り込んで 全身が引き締まる思いがする。 これでこそ冬……北海道の痛いような風の冷たさはないけれど、生温い風ではないことは確かだ。 必死に追ってくる東海林を無視して身体ががたがたになるくるらい思いっきりスノボに乗った。 そろそろあんなに晴れていた雲行きも怪しくなって昼食を取って無い事に今さらながら 気がついた俺はやっと古城達の事を思い出し、その姿を捜しす。 目立つように古城には真っ赤なニット帽を被せたのだが、どうやら、それだけでは捜しずらいようだ。 カフェテリアの近くのゴンドラの前で結菜が真っ青な顔をして飛びつくように 俺に向ってくる。 「ごめんね、充……古城君とはぐれちゃったの。後ろからついてきてると 思っていたんだけど、気がついたらいないのよ」 「なんだって?インストラクターは何をやっていたんだ?」 「足をひねった子に一人は付き添っていて、もう一人のインストラクターについて降りてる途中だったのよね。本当にごめん…古城君が最後だったの忘れていて」 俺は思わず結菜につかみかかる。終わった事はどうでもいい、今古城がどこに入るのかが大事なのだ。 「どこではぐれたのか、今すぐ思い出して俺をその場に連れていけ」 俺はめちゃくちゃ焦っていた……あれだけ念を押したのに、古城のやつ、携帯の電源をいれ忘れているのだ。 「多分、このあたりだと思う」 結菜に連れられた先は、眼下に深い森の広がる崖だった。 しかも山の天候はあっという間に変わり、猛吹雪になってしまった。 これでは視界が全くとれない。古城のように筋肉も脂肪もない男はあっという間に凍り付いてしまうかも そう思うといてもたってもいられなかった。 とにかくGPSが頼りにならなくても、俺の動物的な嗅覚がこっちに古城がいるのだと伝えている。 「まって!そっちに行くのは不味すぎない?パトロールが来てくれるまで待った方がよくない?」 結菜がそう諭すように言うのが、さらに俺をイラつかせる。 「よくない!待ってられねーな。俺はこの崖もボードで降りられるから大丈夫だ」 そう大見得を切って絶壁のような崖をなんとか降りた俺だったが携帯が点滅してるのに気がついた。 古城からのメールだ。 『崖の下の大きな木の近くにいる。足を挫いたらしく動けない』 あたりを見回すと吹雪の中に微かに古城と思しき人陰が見える。 「おい、大丈夫か?」 古城が人さし指を自分の唇にし〜っと言う感じで押し当てた。 しまった、声が大きかったか? その直後、ざざざ〜〜〜っと爆音が聞こえたかと頭の上に木々に降り積もった雪の固まりが落下してきた。 古城を庇うようにやつの上にのしかかる。そこにさらに雪が落ちてきて、あまりの重さに身動きがとれなくなりそうだった。そのまま俺達は二人で雪の中からまるでそのまま転げ落ちるように雪の中の大きなクレバスに入り込んでいった。 落ちた先が枯れ葉の降り積もった場所だったので取りあえず、俺は大きな怪我をしていないようだ。古城もひねった足をみるとたいした事はないと勝手に判断して、俺は落ちたクレバスの先に続いてる 洞くつのような場所に向った。 このままここにいても凍えるだけだ。 幸運な事にポケットにはチョコレートとライターがある 。燃えるものさえ捜せば取りあえず暖はとれるだろう。 そう判断したのだ。 「なんだかおむすびころりんすっとんとん……みたいだね」 暢気な古城の発言に思いっきり脱力した。 「冒険の世界みたいでわくわくしない?」 「俺もお前ぐらい脳天気だったら、人生がもっと生きやすかったと思うぜ、いいか!お前はそこを動くな。ボードはあとで何かに使えるかもしれないし」 こいつってどうしようもない奴だけど、ほうって置けないんだよな。 それになんていうのか古城がいるだけでそこに日溜まりがあるようほんわりと暖かい感じがして、なんでも頑張れそうな気がする。 そこで俺達がなんとか燃えるものを集めて小さなたき火を作っているとそこにぼうっと浮かぶ影がある。 多分、人だ……俺達助かったんだ。俺はそう思った。 きっと俺達を捜索に来てくれたんだろう? なぜなら、彼等のひとりは尖った赤い帽子を身につけていたからだ。 ここ白馬ではちょうどクリスマスシーズンにサンタの格好をしたボランティアが900人近くいると聞き及んでいたのだ。 だが、近くに彼がやってくるとすぐにそれが全くの勘違いだとわかった。 その帽子はバッファローの角のように二つに別れ、片方は赤、もう一方は緑、そしてイブニングドレスのような長い真っ赤な衣装を身に付けていた。 それはまるでどこか昔読んだ西洋の中世の絵本に出てくる道化師のような姿に似ていた。 そしてなにより俺が驚いた事は彼は明らかに白人で、しかも彼の後ろから現れた一緒に連れている子供達も4〜10才くらいまでの西洋人の子供が100人以上も無気味に沈黙したまま彼の後ろに控えていた事だった。 『金は用意できたか?』 そういった男は改めて見ると作り物のように恐ろしく整った顔をしている。 しかもこの男が放った言葉は 日本語では無く、俺の意識の中に直接入り込んだのだと気がついた時、俺は一瞬で血の気が引いた。 彼の手には目映いばかりの金色に輝く棒のようなものが見えた。 あれはもしかして笛? 「ハーメルンの笛ふきみたいな衣装だね〜。こんな変な場所で劇の練習?」 俺の背後で古城の声がする。 あちゃ〜〜〜。 最悪のタイミングで現れやがって。大人しく火の番もできねーのか? それに何よりこの辺りに漂うおどろおどろしい空気が読めないのか?お前は。よめねーんだろうな……そういうやつだよお前って。 『金だ……金がなければ子供達を帰す事はできない』 無気味な男の声に後押しされるように俺は無駄だろうなと思いつつ、俺はポケットの中を探って万札2枚とコインを差し出した。 『これじゃない。金貨だ。約束しただろう』 |