トランシルバニアへ

(思い出を忘れたくて番外その2)





 こいつと約束した憶えなんか全くありはしないが、頭の中に直接意識として話し掛けてくるような 訳のわからない野郎にそんな事をいっても意味が無いだろう。金貨なんて持っている訳も無い。

 「金貨はないんだ。時計でも携帯でもお前の好きなものをやるから、子供達を放してくれ」

 『金貨以外はだめだ。やはり子供達を売る事にする』

 後ろに控えた子供達は一斉に絶望に満ちた顔で縋るように古城と俺を見つめている。

 「なに?どういうこと?」

 古城〜〜〜!!!

 俺に聞くな、俺に!

 俺だって訳が分らないにきまってるんだろうが。

 『お前の後ろにいる子供はあまり見た事ないタイプだ。良い値で売れるかもしれん。 どうだ、その子を渡したらお前に地上への帰り道を教えてもいいぞ』

 俺は思わず目を眇めてそいつを睨み付けた。たとえ地獄の使者だろうが、悪の化身だろうが俺の古城に目をつけるとは良い度胸だ。

 「家に帰ったらメープルリーフ金貨があったはずなんだ。必ず取って来るから、その印に沢田をここに置いていくし……」

 走れメロスじゃ無いんだからそんなの誰が信じられるか……すくなくてもこの笛吹きはお前がメープルリーフ金貨を取って来るのを待っていてくれたりするわけないぞ……

 それなのになぜかその重厚な毛脚の長いベルベットに身を纏ったその美青年はじっと古城を見つめるとゆっくりと足下に跪いて古城の指先を押戴くようにそっと掲げると自らの口元にすっと引き寄せて口づけた。お、おい。おいおい、おいおいおい〜〜〜。勝手な事すんなよ

 『あなたの気持ちは本当に暖かい……。ずっと地底を歩き続けて冷えきった私の心を融かしてくれる』

 「あなた達はどこから来たのですか?」

 『遥か彼方から時間と空間を越えてハ−メルンから……」

 「え?ハ−メルンの笛吹きってお話じゃ無かったの?」

 「事実だよ。きちんと史実として残っているんだ」

 俺は思わず口をはさみながら古城を俺の方に引き戻して抱きかかえた。

 『お前の世界では我々はなんと言われている?』

 「ハ−メルンの笛吹き……史実としては今から720年前の1284年ヨハネとパウロの日に、ハーメルン市内で130人の子供達が上等の服を着た美しい男に連れられてカリワリオ山の方向へと向かい、その引率者の元で多くの危険を冒しながらコッペンの辺りで消え失せたんだとよ」

 そう……その引率者がこの道化師野郎と言う訳だ、気障ったらしい顔をしやがって。

 「そうそう、俺が読んだお話ではねずみの繁殖で困っていた街の人々が旅の笛吹きにねずみ退治をしたらお金をやるっていったのに、いざ、笛吹きがねずみを笛で川に誘導して退治したら証拠を見せろと言って追い払った。それに腹を立ててねずみをその笛で引き寄せたみたいに子供達を連れて街を出たみたいな話だったけど」

 するとその道化師は不敵な笑みを浮かべて俺を睨み付けた。

 『ハーメルンの街では当時ペストが流行っていたのです。この流行り病をなんとかしろというからねずみを退治したまで、それにこの子供達は私が勝手に勾引してきた訳では無い』

 違うのか?

 「じゃあ、どうして子供達を連れている?」

 『街でペストが流行りだしたので、口減らしと人身売買の仲介をまかされているんだ』

 「嘘だろ?親が子を売るなんて」

 古城が俺の腕の中で悲痛な声をあげる。

 『だからどんなに帰りたくてもこの子たちは帰られないのだ』

 「そんな……」

 『金貨が一枚でもあればこの子たちの魂は救われたのだが』

 「どういう意味?」

 『私はこの子供達を売買する仲介した罪で、この子供たちの魂に付き添っていく罰を受けているのだ。私にはたしかに罪がある……だがこの子達には罪はない』

 それで俺は急に思い出した親に持たされたお守りの中に母のペンダントトップを入れてあったことを。あれはたしかどこかの金貨だったような気もするが……慌ててポケットを探ると 4分の1オンスくらいの小さな金貨のペンダントトップが現れた。

 「沢田!お願いだから早くあげて!」

 俺は思わずそのコインを道化師風の美青年に渡した。

 子供たちの無表情な顔から生気が戻って明るい笑い声が響いく。

 笛吹きが叫ぶ

 『さぁ、我等はトランシルバニアへ行って新しい街を造るぞ』 それと同時に彼等の姿は霧のように薄くなり終いには跡形もなくなっていた。立ち篭めていた濃霧が去り洞くつの彼方に明かりが見える。急にブリザードのような猛吹雪も止んだようだ。

 「お〜〜〜い」

 「おーい」

 どうやら俺達を捜しに来たメンバーだ。驚いた事にみんなサンタクロースの格好をしている。そうかたしか898人もの人々がサンタの仮装をしてるのがここの売りだったな。

 「こっちで〜〜〜す」

 古城が肩を壊すのでは無いかと心配するくらいにぐるぐると腕を振り回す。あの時、古城がいなかったら俺はお守りの事を思い出さなかったに違い無い。俺達にとって忘れられないクリスマスになりそうだ。俺はやっぱり古城がいないとダメなんだと自覚させられた。

 しかし不思議な事に俺達が数時間にに感じたあの時 もほんの数十分だったらしく俺達が思っていた程大騒ぎにはなっていなかった。

 「なぁ、あれって夢だったのかな?」

 「俺のお守りにはもうお札しかはいってないぜ?」

 古城が照れくさそうに俺の肩に頭を乗せた。

 「ありがとう」

 「何が?」

 「俺、やっぱり沢田がいないとダメなんだって自覚させられた……いつも迷惑かけてすまないな」

 古城がこんなに素直な事なんて滅多に無い。俺は胸がぐっと痛くなった。

 「俺もお前がいないとダメなんだよ…そんなの いまさらだろ?」

 クリスマスは恋人達の為の夜

 今夜俺達は再び心と同じように身も深く繋がることが、できるだろう。

Fin.

この作品はBxB X'mas 企画 〜 Novel Section 〜に参加してます。

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