第七章 何かが違う
鳥人たちは戦いに勝ちはしたが、代償として、賢者バドリアスに瀕死の重傷
を負わせてしまったのだ。
そして、彼は、ケンたちが戻って来たのを確認すると、力を授けるとケンを
、招き寄せた。 「雷よ、我に力を"サンダーボール"と、唱えよ」
と、言い、苦しそうに息をした。ユリシアが癒そうとしたが、バドリアスは
それを制した。 「私を癒すより先に、そなたと勇者たちを癒しなさい・・・・
・・私は眠れば回復する」
と、言葉通り眠り始めた。
「大丈夫、死んではいないわ」ユリシアはそっと手を置き、言った。
「では、僕が次の聖地へ転送します」
ライジルが、言い、一行は転送の間にやってきた。
「ここに集まりし者。いざ、土の聖域"地底屋敷"に・・・・・・」
しかし、その呪文が完成しないうちに突然黒い光が発生し、ケンだけが気を
失ってしまった。
「いったいどうしたの?」
まず、ユリシアが叫んだ。
「デーモン族にやられたようです・・・・・・ケンさんは夢幻魔法にかかっ
てしまったようです」
「夢幻魔法・・・・・・?」
と、ジョナルドが聞いた。
「かけた者を夢に誘い、やがてのろい殺す暗黒の魔術です。恐ろしいのは、
その夢で死ぬと本当に死んでしまうことです」
「なんとか、目を覚まさなければ」
レナが、必死な顔で言った。
「彼は、今、自分の願望に捕らわれています」
「願望・・・・・・すると、元の世界に戻りたいと?」
レナードが考え込むように言った。
「とにかく、目を覚まさせることですその方法は」
ライジルが言い、四人はその方法を試すことにした。
ケンは誰かが名前を呼んでいるのに気づき、目を覚ました。そこは森の中だ
った。
母親の声だった。それで、今日はハイキングに来たんだと思いだした。しか
し、その時、重大なことを忘れている気がしたが、それが、何なのかはわからな
かった。
そのことが、気になりあまり楽しいとは言えなかった。
ハイキングから家に帰り、寝床に着くまで気になり、寝ている間も何かを忘
れている気がしてならなかった。
翌日、ケンは学校に行く支度をし、家を出た。
そして、いつも通り登校した。しかし、何かが違っていた。いつもなら、誰
かと登校したような気がした・・・・・・
「ケン、おはよう」
と、言う声でケンは、ハッとして、振り返った。
いとこのレイナだった。そして、ケンの親友であるトオルも一緒だった。こ
の二人はケンの幼友達だった。そして、その後ろから残りの親友達がやって来た
。
「おはよう、レイナ、トオル、リュウ、ハルナ」
と、声をかけ、この四人と一緒に登校したのかなと思い、それ以上気に掛け
なかった。
そして、担任の先生を見て、顔の印象が違う気がした。それだけではない、
クラスの仲間の中にどこかで、会ったような顔の子が二人いる気がした。
そのためか、あまり、授業に集中できずに一日を過ごしてしまった。
「誰かを忘れていないかって?」
下校途中、ケンは思い切って、トオルに誰かを忘れている気がしないかと聞
いてみたら、その様な答えが、返ってきた。
「そんなわけないさ」
「そうよ、それはケンの考えすぎ」
レイナも同じ様な答えを出した。 その時、誰かの声がした。
「己の記憶を信じろ」
と、聞こえた気がした。しかし、ケンには何のことかわからなかった。
「そなたは大事な人のことを忘れさせようとされている。思い出せ。あの日
のことを」
と、その声は言った気がした。
しかし、トオルたち四人は平然としていた。おそらく、聞こえていないため
だ。だから、聞かなかった。いや、聞いてはいけない気がした。聞けば気のせい
だと言われ、何かを忘れさせられてしまう気がした。しかし、それが、何なのか
はわからなかった。 自分の家の近くに来たとき、その家が、気になった。
「どうしてだろう。この家が気になる?」
しかし、やはり、結論は出ず、結局、家に帰ってしまった。
そして、夕食の買い物を頼まれ、ケンは町へと出かけた。
途中、赤毛の人とすれ違った。どこかで会った顔のような気がした。 今日
は、朝からそんな調子だった。すれ違う人のほとんどがどこかで会い、一緒に何
かをした。いや、しようとしている気がするのだ。
「あ〜あ、どうしたんだろ」
と、つぶやいた。
「今日のケンは、絶対に変だぞ」
と、突然、声を掛けられた。トオルだった。
彼もお使いらしい。スーパーの袋を持っていた。
「おかしな事を聞くけど、ぼくたちの幼友達は何人だっけ?」
「はぁ?何言っているんだ。オレとケンとレイナの野郎にリュウとハルナの
コンビの五人だろ。そうか、羨ましいのか。恋人がいなくて?」
「そんなことはない」
と、ケンは叫んだ。
その後、トオルと別れ、ケンは家に帰った。いつもの変わらない風景。しか
し、何かを見落としている。
そして、夕食を食べ、風呂に入り、ケンは自分の部屋に入った。 椅子に座
り、宿題でもしようかと立ち上がった。
しかし、再び、声が聞こえた。今度は聞き覚えのある声だった。
「ケン君、お願い目を覚まして。あなたの大事な人が待っているのよ」
「ケン君、あなたは勇者。わたしたちの世界の勇者なのよ。夢なんかにに捕
らわれてはだめ」
「ケン、君はオレが見込んだ剣士なんだぞ」
「いつまでも、夢何かに捕らわれては、奴らの思うつぼだぞ」
その声を聞き、ケンは、思い出した。一番の親友でもあるユウコのことをで
ある。あの日、ハイキングに行きユウコはデーモン族にさらわれた。その後を追
って、ケンは不思議な世界"エイトエレメル"にやってきたのだ。そして、デーモン
族の野望をうち砕くため旅をしていたことを先生やクラスの仲間、すれ違った赤
毛の人が旅を共にしていた人たちに似ていたことにも気が付いた。そう信用でき
る仲間たちであることに。
「ここは、元の世界なんかではない。ここは、エイトエレメルなんだ」
ケンは叫び、仲間の名を必死で呼んだ。
「ハハハハ、さすがは勇者と言ったところかな」
仲間の声はなかった。しかし、忘れられない声と共に周りが真っ黒になった
。
「貴様は・・・・・・ガース」
と、叫びケンは気が付いた。エイトエレメルで過ごしている格好であること
に。
「では、行くぞ。"ダークボール"」
上空から声が響き、黒い玉が飛んできた。ケンは、盾を構え、ウォータード
ームでそれを防いだ。
「クラッシュ・ボンバー!!」
ファイヤーボールでは聞かないと思い、ケンは覚えたばかりの魔法で攻撃し
た。
「甘い、水よ、我が身を守れ、"ポンプシールド"」
と、ガースは言い、守りを固めた。
「雷よ、我に力を"サンダーボール"」
と、ケンはさらに教わったばかりの雷の魔法で攻撃した。
今、水の守りで固めている。なら、雷の攻撃なら効果があるのではと思い、
攻撃したのだ。そして、それは、的中した。
効果があり、ガースは着地し、荒い息をした。
しかし、退散はせず、そのまま襲ってきた。
「ふん、大した知恵だ。しかし、剣術ならこちらが上だ」
と、ガースは言い、次第にケンを追いつめてしまった。
「おい、夢幻術師夢魔。どこにいる?早く、こいつにもう一度魔術を・・・
・・・そして、二度と覚めないようにしろ」
ガースは叫び、辺りを見渡した。
「それ以上、あんたの好きにはさせないわ」
と、言う声が聞こえた。
「至福なる太陽の光よ。暗黒を散らせ」
その声と供に、黄金の光が周りを包み込んだ。
「レナさん・・・・・・?」
ケンは、かすれる声で言った。
「大丈夫、ケンくん?」
ユリシアが駆け寄り、癒しの呪文を唱えた。
「お前の仲間の夢幻術師なら、オレたちが倒したぜ」
ジョナルドが言い、身構えた。
「大人しく、退散しろ」
レナードも殺気に満ちた声で言った。
「フフフ。貴様ら夢魔を倒したのか?そうか、では、いいことを教えてやろ
う。夢魔はデーモン族なんかではない。魔界の支配者デビル族の下級種族さ・・
・・・・そして、オレはデーモン族などと言う臆病者とは違う。オレはデビル族
だ。デビル族の暗殺者さ貴様らは、オレを本気にさせたのさ。大人しく、死ねば
よかったものを・・・・・・どうやら、お仕置きが必要のようだな」 そして、
ガースは連続攻撃を仕掛けてきた。 レナは攻撃魔法を唱えたが、ガースには効
かなかった。そして、ユリシアも守りの魔法を唱えたが、防御にはならなかった
。
「サンダーサークル!!」
ライジルも必死で攻撃を仕掛けた。ケンも応戦し、必死で攻めたが、効果は
なかった。
しかし、ケンは諦めずに攻撃を仕掛けた。そして、それは、だんだん当たる
ようになった。今度は、ガースが追い込まれた。
「どうやら、思った以上の奴らしい・・・・・・まあ、いい。今回は、これ
で、引こう。しかし、今度会うときはその命をいただく」
と、ガースは言い、消えてしまった。
後に残ったのは、ケンたちだけだった。
そして、ケンはレナたちから、あの時のことを聞かされた。
「まずは、あいつを倒しましょう」
ライジルが指差した方向には誰かがいた。
「気か付かれたか」
「もう、遅いさ」
と、ジョナルドが身構えた。
「月光の力よ。我が敵の魔力を封じよ」ユリシアが、叫び援護した。
「むむ、貴様らも幻術をかけてやる・・・・・・」
しかし、それは幻術を掛けなかった。いや、掛けようにもかけれなかった。
そうなると、ジョナルドとレナードの敵ではなかった。ライジルの援護も手
伝ってそれを倒すことができたのだ。
「こいつは、いったい何なんだ?」
「たぶん、デビル族の夢魔です」
「何だって?」
「さあ、今はケンさんの解放が先です。いいですか・・・・・・術を掛けた
者がいないのだから、後はもう、呼びかければきっと、気が付くはずです」
ライジルが言い、四人はケンに向かい叫び始めた。
「そのうち、ケン君を被っていた暗黒の雲に亀裂が入ったからそこから飛び
込んだのよ」 と、最後にユリシアが付け加えた。
「それじゃあ、あの時の声は・・・・・・ありがとう」
「いいのよ、気にしなくて・・・・・・」
それでも、ケンはもう一度お礼を言い、立ち上がった。
「さあ、次の聖地へ行こう」
そして、ライジルの呪文と供に、ケンたちは転送された。次なる戦いの場所
へ・・・・・・
ガースは、また、戻ってきた。今度は傷付いてである。
「どうした。勇者どもは倒したのか?」
「いいや、その気が失せたのだ」
「何、どういうことだ?」
「言った通りですよ、将軍閣下。今は、そんな気になれない」
「ふん、まあ、いい。今度は騎士団に任せるよ」
「勝手にして下さい。私はいろいろ忙しいのでね」
と、ガースは再び消えた。
「今度こそ、勇者どもを・・・・・・」
デーモンの将軍は、実を言うとガースの正体を知らない。しかし、自分の配
下になっていれば、それで、よかった。魔界の法則では強い者こそ偉いのだから
・・・・・・