第二章 森に棲む魔獣
ケン達の旅の一日目は、昼過ぎまでは何事もなく過ぎた。しかし、昼食を終
えた後、敵が、現れたのである。敵は小型のオニのようだった。
まず、レナが持っていた斧を振るった。ユリシアは相手を警戒しながら、持
っていた槍で突き刺した。ケンも負けずに、剣を振るったが慣れていないことも
あり、空振って地面に倒れてしまった。しかし、その時には敵は倒れていた。
「月の光よ。この者の傷を癒せよ」
と、言う声でケンは目を覚ました。
「大丈夫?一応、治療はしましたが・・・・」
「何をしたんですか?」
言っていることが、理解できずケンは、目を丸くしながら聞いてみた。
「癒しの魔法を唱えたのです」
「魔法・・・・ユリシアさんは魔法使いなのですか?」
「ええ、月の巫女は月の魔法を唱えることが、できるのです。わたしはまだ
、未熟者ですが・・・・」
「へぇー・・・・じゃあ、レナさんはどうなのですか?」
「もちろん、太陽の魔法が使えるわ」
レナは陽気な声で言った。
ケンは改めて、二人を見てみた。ユリシアは、敵の死体を眺め、困惑した表
情を浮かべていて、レナは、荷物を背負い始めている。
ユウコの表と裏の性格みたいだなと思いながら、ケンは先ほど戦った敵を見
てみた。
「デーモン族に全てを誓った種族ゴブリンですわ・・・・人里に現れること
など、今までなかったのに。これも、何かが起こる前触れでしょうね」
と、ユリシアはため息をついた。
その日の夕方、小さな村に到着した。村の広場らしいところには、人々が集
まっていた。
「森に近づくな。魔獣が棲んでいるってかいてあったわ」
レナが広場に行き、看板を見つけ内容を教えてくれた。
「それで、思うんだけど、わたしたちでその魔獣を倒さない?」
と、レナは斧を手入れしながら言った。
「相手の正体もわからずに?危険よ」
「危険は百も承知よ・・・・ただ、わたしは聖女として許せないだけよ」
「そうね・・・・ケンくんはどう思う?」
「とにかく、どんなやつか誰かに聞いてみよう。それから、どうしたら決め
ればいいと思うけど、どうかな?」 まるで、ゲームの世界だと、思いながらケ
ンは意見を言った。
「そうね。そうしましょう」 と、レナが言い、三人は捜索を始めたが、結局
、事情を知っているのは村長だけらしかった。
「あなた方が、あの魔獣を・・・・?」
村長は、目を丸くして聞いた。
「ええ、どのような魔獣か教えて下さい」
ユリシアは、頭を下げて言った。
「しかし、聖女様や巫女様、それに一緒にいるのは、少年ではありませんか
。危険ですよ」 「危険は、わかっています。デーモン族の脅威は少しでも取り
除きたいのです」
ケンが、言った。別の理由もあった。まず、どんな魔獣か知りたかった。そ
して、昼間のようなことはしたくなかった。戦って、経験を積まなければと思っ
た。さらにもう一つ、デーモン族のことが知りたかった。もしかしたら、ユウコ
のことがわかるかも知れないと思ったのだ。
しかし、目の前の村長に事情を話すわけにはいかないので、黙っていた。
それでも、村長は詳しい話をしてくれた。
「ここから、しばらく行った森に潜んでいてな、獣達が一斉に消えたのだ。
原因を突き止めるため、村の者が数名、捜索したら見たことがない獣がおったと
、いうわけじゃ。そして、先日来ていた戦士に特徴を聞かれたらから、話したの
だ。そしたら・・・・」
「魔獣だから、近づくなといわれたのですか?」
ユリシアの質問に村長は、大きく首を振って頷いた。
「その戦士の名は?」
今度は、レナが質問した。
「はい、さすらいの剣豪・・・・」
「ジョナルドと呼んでもらおう」
レナがあきれ顔で先に言った。
「ええ、ジョナルドと名乗りました。どうして、知っているのですか?」
「兄貴だから」
と、レナはさらりと答えた。
そして、村長から改めて、魔獣の特徴を聞き出し、家を後にした。
「つまり、魔獣を追っていたら、ケンくんを発見して、そこが自分の古里の
村に近かったからよっただけなのよ」
レナが、そう解説した。そして、用事が終わっていないからと誰にも挨拶せ
ず、旅だったと言った。
「とにかく、荷物を置いたら、森に行きましょう・・・・」
ユリシアがそう言い、一行は宿に荷物を置き、武器だけを持ち、魔獣が出る
という森に向かった。しばらく行くと、たき火が見えたので近づくと、二つの影
が見え、それが両方とも男だと言うことがわかった。一人は背が高く金髪で長髪
を持ち、背中には大きな剣を背負っている。もう一人は、赤い髪をした小柄な男
だった。
「ジョナルド!!」
レナとユリシアは同時に叫んだ。
「やや、レナ・・・・それにユリシアじゃないか。それから・・・・」
と、長身、長髪の男が言った。
「ケンと言います。あの、ジョナルドさん、昨日はどうもありがとうござい
ました」
「昨日?・・・・そうか、昨日、森で気を失っていた少年かなぜ、こんなと
ころに?・・・・ああ、こいつは、オレの相棒のレナードだ。大丈夫、秘密は守
る男だから安心していい」
ケンは、レナとユリシアの顔を見て、その表情を確認しながら、自分が経験
したことを話した。
「なるほどな・・・・わかった。来たまえ、奴の所に案内してやる」
そして、新たに仲間を加え、森の奥へと入っていった。
まず、先頭をユリシアが"月光の玉"と言う月魔法で照らしながら歩き、その後
ろをジョナルドが護衛するように歩いている。その後ろをケンとレナが続き、最
後にレナードが歩いている。
「あれが、奴の住みかさ」
しばらく歩いた後、前方に見える洞穴を指差しながら、ジョナルドが言った
。
ケンは、村長が言った魔獣の特徴を想い出した。体長が2メートル近くある
オオカミのような獣・・・・ただのオオカミではないのは確かだが、どんな獣か
は、わからなかった。
「風向きに注意しよう。奴は臭いに敏感だ」
レナードが、後ろから言い、持っていた二本の短剣を素早く逆手に持ち替え
た。
そして、オオカミのような獣が・・・・
「ケルベロスだわ。まさかとは、思ったけど」
ユリシアが驚きの声をあげた。
「やはりな・・・・やはり"地獄の番犬"ケルベロスか!!」
「まだ、気づいていない。行こう」
そう言った、レナードを先頭に一行はさらに近づいた。そして、相手は突如
、襲いかかってきた。
「援護するわ・・・・太陽の光よ、我が敵を熱せよ。"シャイン・フラッシュ"
・・・・」 レナの呪文は効果があり、ケルベロスは一瞬目を覆った。そのすき
にジョナルドが、最初の一撃を当てた。ケンも剣を振るい攻撃した。急所に当た
ったのか、ケルベロスはそれで、悲鳴をあげた。そこに、レナードがトドメを刺
した。
そして、ドッと倒れた。
その後、洞穴を調べることにした。そこにいたのは、ゴブリンの大軍だった
。だが、いかくして、数体倒したら、ゴブリン達は森の奥深くに逃げ去っていっ
た。
ケンたちはその足で、ケルベロスの死骸と共に村に戻ってきた。
「何ということだ。魔界に棲む生き物が出没するのは・・・・エイトエレメ
ルはどうなるのだ」
村長は肩を下ろして言った。
「勇者は必ず、現れます。希望を捨てないで下さい」
ユリシアが訴えるように言った。
「そうですね・・・・諦めずに待つことにしましょう。新たな伝説を創る勇
者の誕生を」
そして、村長は村人に解散するように言い、ケンたちもようやく眠りについ
た。
早朝、ケンは剣の素振りをしようと宿を出た。すると、村の広場でジョナル
ドが大きな剣の手入れをしているのが見えた。
「おはようございます、ジョナルドさん」
「ああ、おはよう」
「一つ、聞きたいことがあるのですが・・・・」
それは、出会ったときから疑問に思っていたことだ。
「なんだい?」
「村長さんは、ぼくを発見したのは猟師だと言っていたのですが・・・・」
「ああ、そのことか。オレは"さすらいの剣豪"と名乗っているが、村にいると
きは猟師なのさそうか、アレックさんもずいぶん意地悪なことを言ったなぁ」
「そうですか・・・・そうだ、一つ頼みたいことがあるのですが・・・・」
「遠慮せずに、言ってごらん」
「剣の稽古をしてもらいたいのですが」
「そうだな・・・・どうやら、君には才能があるようだしそれに・・・・」
「それに・・・・なんですか?」
「いや、なんでもない。よし、かかってこい!」
そして、二人は、自らの剣を激しくぶつけ合った。 一通り、稽古をして宿
に戻ると、レナとユリシア、そして、レナードが、朝食をとっているところだっ
た。
「どう、ケンくん、風来坊と剣を合わせた感想は?」
レナが、目を細めて言った。
「なんだって、どうして風来坊なんだ?」
ジョナルドは抗議をする。
「だって、そうでしょ、この間は"流星の剣豪"と名乗ったのに」
「そんなの、こっちの勝手だ」
「まあまあ、けんかはしないで」
慌てて、ユリシアが仲裁にはいった。
「それより、これからどうなさるのですか?」
と、ユリシアが聞く。
「そうだな・・・・君らに同行して、聖地の中心に行こうと思うんだがいい
かな?」
「ぼくは、賛成です」
と、ケンはすぐに答えた。
「わたしも反対する理由もありませんし」
と、ユリシアが言った。
「別にいいけど」
と、レナ。相変わらず素っ気なく言った。
そして、彼ら五人は再び、旅を続けた。 旅の途中、レナードが元盗賊だと聞
いた。しかし、すでに足を洗っているらしく、信頼できる相棒だと、ジョナルド
は保証した。とても、身が軽く、二本の短剣を自由自在に操るのが得意だとも言
った。
「ああ、そうだ。レナとユリシアだけに話があるんだ」
と、ジョナルドは話題を変え、二人を連れて木陰に行った。
レナとユリシアは、目を合わせながらもジョナルドについていった。
「それ、ホントなの・・・・・」
ユリシアは、思わず口を手で覆ってしまった。レナも驚き、呆然と立ってい
る。
それは、ジョナルドがケンに言おうとして途中で止めた話だった。
「ケンは、勇者かもしれない。発見したとき、エイトエルメルの勇者の証で
ある紋章が額に現れたから」
と、彼は言ったのだ。
「だから、アレック村長もいろいろしてくれたのさ。しかし、本人はたぶん
、拒絶すると思ったから。だから話すのをやめたのさ」
レナとユリシアはうなずき、何事もなかったようにケンとレナードのところ
に戻った。
それから四日後、彼らは、ようやく目的の地、エレメリアに到着した。
そして、その足で予言者デウスに面会したのである。