象徴主義ってば何?


 世紀末ヨーロッパ・象徴派展 Bunkamuraザ・ミュージアム(1/31)に行ってまいりました。;「象徴主義って」のガイドを開く
Burne-Jones:騎士といばら1870-94 部分  やっぱりバーン=ジョーンズ(1833−1898)が一番好き。「象徴派」の定義がいまいちわからないけど,彼は中でとても浮いている。絵柄がストイックなのですね。ほとんど着衣(薄ものでも)だし。大好きな『騎士といばら』(1870-94頃。部分もいいとこです。すごい意図的なトリミングですね。連作『いばら姫』の「いばらの森に入る王子」((1871-73)と微妙に違う。習作っぽい。Vol.-3のTannhauser 参照)の王子は暗い表情だけど,倒れている騎士たちはとても色っぽいので,かえって女性の方がとてもりりしい気がするの。

Burne-Jones:婚姻の祭壇 1874  今回の『婚姻の祭壇』(1874)もウェヌスが林檎をさしだしてるのも関わらず,とても清々しい。この時代の他の作家の根底にある情念といったものが全く感じられないのですね。それに比べると,ダンテ・ガブリエル・ロセッティ(1828−1882)の女性,特に『プロセルピナ』(1874)なんかは,なかなか男性的・意志的だけど,意志的という点で人間味がある。

Rossetti:Proserpina 1874  ただ,この題材であるプロセルピナに注目すると,彼女はギリシャ神話の冥界を支配するハデスの妻ペルセポネです。ですから地獄の女王であり,「オルフェウスとエウリデュケ」などでも女王然としてますが,元来彼女はハデスにさらわれた少女(デメテルの娘)だったわけで,若紫・ロリータ的な女の子だったのです。若紫が実は源氏に自分を誘拐するようにしむけたという説がありますが(誰が書いたか忘れちゃった),のちに地獄がしっくりくるようならやはりペルセポネの本来の資質だったのでは?なんて深読みできるくらいなかなか魅力的な女性です。物語は「ハデスとペルセポネ」

 眼差しについてもう一言いうと,伏し目がちに,上目遣いにこちらを見つめる目はまっすぐこちらを見ていないのですが,鑑賞者としての私たちも彼女をまっすぐ見てはいないのではないでしょうか? つまり,彼女,例えば『プロセルピナ』の絵そのものではなく,もちろんモデルの女性ではなく,地獄の女王でありながら汚れない乙女であったペルセポネのイメージ(なぜなら彼女は地獄への帰属の儀式である石榴を持っているのですから),またそういった二面性を持った“永遠の女性”を投影させているのです。
 モデルの話をするとこの絵の他,ロセッティの後期作品はエリザベス・シダル(ロセッティの妻。『ベアタ・ベアトリクス』(1864-70)など。またミレーの『オフィーリア』)を使った作品群に比べて,ジェイン・バーデン(ウィリアム・モリスの妻。彼らの関係は有名ですのでここではしない)を使うようになってから際だって意志的で暗い瞳の,しかし中性的な女性像に変わっています。これはジェインの写真を見ればわかるようにジェイン自身が実際に中性的な雰囲気を持っていたのですが,絵と違うのはジェインの瞳はしっかりこちらを見つめているのですね。
 かなり忠実にモデルをなぞっていながらも画家の手によって最後の最後に一枚のフィルタがかかっているのです。でなければ絵にする意味がありませんけど。で,その絵を見る私たちも前述の通り絵をまっすぐに見ることはできません。また絵の前には一枚フィルタがかかっているのです。もちろんこれらのフィルタによって絵がぼやけるわけではありません。かえって画家の伝えたいイメージ,そして私たちが受け取りたいイメージがはっきりと投影されるのです。
 実はそれは絵を通して顕れるイデアだったりするわけです(おおっ,19世紀末から中世,更にイデア論とはまた時代が遡ってきてしまった)。これはもちろん絵だけではなくってルネ・コロの歌うローエングリン,またワーグナーの音楽は私の中の理想の「白鳥の騎士」をかなり忠実になぞってくれてるのですね(唐突ですいません。『ローエングリン』とルネ・コロの話はVol.-3,-6以前になります。物語は「Lohengrin」)。

 で,そろそろバーン=ジョーンズに戻りたいんですが,ロセッティに比べてバーン=ジョーンズの作品が清々しい,云ってしまえば人間味に乏しいのは,もともと彼が聖職者を目指していたからかしら? にも関わらず対極的な芸術家の道を歩んじゃった自分を許せない真の意味での禁欲的なひとだったのかもしれませんね。どっちが好きかといえばもちろんストイックな方が好きなのです。


Moreau:SALOME 1885-90 部分  ストイックといえば,フランスのギュスターヴ・モロー(1826-1898)は「サロメ」の一群が有名なので,なんとなくエロティックなイメージを持ってる人も多いと思うんだけど,『円柱の前のサロメ』(1885-90,部分)を見て彼の描くサロメがなんで好きなのかわかった気がする。
 彼のサロメは“誘惑者”“ファム・ファタル”ではなく,あくまでも高貴な王女なのですね。聖なる処女なんだけど,それは無垢とか少女的な可愛らしさではなく(「少女」はまた違う性質のエロスに属しているから),生まれながらの「気品あふれる王女」なの。男(っていっても聖者だから,彼(ヨハネ)も男・人間には属していないんだけど)の生首を持ちながらも彼女は清いのです。ある意味で人間的なものを超越している本当の意味での大人,というかいってしまえば「超人」なのかもしれない。
 天使とも違う,何者にも属さない絶対的な他者というか,聖なる処女神アルテミス。これはもちろん「月」のイメージがあるからなんだけど(ホントの月の女神はセレネってのはおいといて)。アルテミスは「征服される性」ではなく,「狩る者」でもあるのよね。そんなサロメに比べて,ヨハネの顔がありきたりな聖者なのはどーだろう。(サロメ,ファム・ファタルの話はVol.-4です)

 「サロメ」とくれば,オーブリー・ビアズリー(1872-1898)です。ビアズリーの絵をよもや「聖なるもの」というつもりはないけど,やっぱり彼の「サロメ」も女性の顔ではないよね。といって,少年または男として魅力的に描かれているわけでもないのね。モノクロの色調ももちろん理由のひとつなんですけど,やっぱり彼も「性」に惹かれる自分が許せないストイシズムのひとなんじゃないかなー。

 私は美術が好きなんだと思ってたんですけど,最近「どう表現するか」より「何を題材とするか」に左右されてるんじゃないかということがわかってきました。やっぱり「物語」が好きなのですね。ここで取り上げた人たちは特に技術・表現で特に優れているとか,画期的手法・発想をしてるってわけじゃないんだもの。
 あえて表現の部分でいうと,イラストっぽい輪郭のかっちりした絵が(もちろんマンガの影響もあるけど)好きです。と思ったら,

線を愛するということは,明快なフォルムを愛するということで,それは一直線にエートス(倫理性)につながるものと考えられる。そしてエートスとは,そもそも男性的なものである。男性の特権であり,男性の運命である。
って澁澤せんせいがおっしゃってましたわ(『幻想の肖像』澁澤龍彦 河出文庫など)。そうです。私は明快なものが好きで男らしい性格なんですう。


klimt:Nuda Veritas 1899 部分  気を取り直して,「象徴派展」の他の画家に目を移してみませう。この展覧会のポスターにもなってたグスタフ・クリムト(1862-1918)です。クリムトはキライじゃないけど,ちょっと開けっぴろげすぎるというか,自分の意識・志向に何の躊躇もとまどいもない人なんだな。時代が下がってるのと大陸の人っていう違いかしら? ラファエル前派の伏し目がちや上目使いの闇の目ではなくて,屈託なくけだるそうにこちらを見つめるでもなく見ている目には自己のセクシュアリティをなんら恥じることのない解放的な空気が流れています。『裸の真実』(1899,部分)この絵はたまたま目を開けてますけど,クリムトの絵はだいたい目を閉じてますよね。『接吻』(1907-08)とか。でも,目を閉じているからといって彼女たちは内に何かを秘めているわけではなさそうです。だってあれは悦楽・エクスタシーの表情だもん。更にこの女性は赤毛!なんですよ。

 世紀末,というとデカダン・退廃・耽美という腐敗へ向かう芸術っぽいんですけど,象徴派の画家達はあまり肉感的なエロスよりもイデアを求めていたよーな気がします。そういう意味ではクリムト以降はまたひとつ時代が下ってるみたいですね。(食べ物も腐る直前が一番美味しいそうですけど,私は甘いの一辺倒より紅玉リンゴや青いミカンが好きなんだけどなあ)世紀末美術という爛熟した,膿んだ時代の空気は象徴主義以後の「アール・ヌーヴォー(新しい芸術)」,「ユーゲントシュティ ル(青春様式)」で初めて完成されるんじゃないかしら。この新しい芸術はかろうじて20世紀初頭まで生きながらえるんですけど。

 で,「象徴主義」の定義は相変わらず微妙なところがあるんですが,とりあえずヴィクトリア朝のイギリスが好きです。この時代は,世紀末だからって退廃的嘆美主義的なムーブメントが大手を振って歩いてたんじゃなくて,表向きのお行儀の良さや抑圧への影ながらの反発がこういう重たい・暗い芸術に昇華したんですよね。今世紀の世紀末意識って抑圧というか闘うべき規範がないからなんか盛り上がらないというか,安っぽいのかしらっ? あと,時代のスパンが100年単位じゃ長すぎるのかも。
 おおっなんかエラそう!! 次のぼんのー編でゆるんで下さい。
Vol.0 March 1997
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