「象徴主義ってば何?」のためのガイド

MILLAIS:Ophelia 1852
ジョン・エヴァレット・ミレー「オフィーリア」1852(部分)

 19世紀後半の西洋美術といえば,日本人の大好きな(私はキライですが)印象派です。印象派を光の芸術・太陽の芸術というならば,闇・月の芸術として,または新しい表現・朝を目指す曙に対する夜へ向かう黄昏「象徴主義」があげられます。(何の関連もないけどミュシャに『曙と黄昏』(1899)という一対の作品があって,でも『黄昏』しか出品されないことの方が多いのよね。私も『黄昏』の方が好きだけど)
 象徴主義は,科学と機械万能の時代の実利的なブルジョワ精神,芸術の卑俗化を嫌悪した文学者や芸術家は,人間存在とその運命に対する深い苦悩,精神性への欲求から,内的な思考や精神の状態,夢の世界などを表現しようとした。それゆえに象徴主義は,主題や表現手段の上できわめて多様な形を取った国際的な潮流となった。
 イギリスに現れたラファエル前派は,最初の象徴主義の運動の一つにかぞえられる。1848年にダンテ・ガブリエル・ロセッティ,ジョン・エヴァレット・ミレイ,ホルマン・ハントらが結成した「ラファエル前派兄弟団」はラファエロ以後の西洋絵画を退廃とみなし,それ以前のイタリアやフランドルの芸術の持つ誠実で精神的な在り方こそ理想的な姿としてそれへの回帰を主張した。こうした考え方は19世紀初頭のナザレ派やルンゲ,ブレイクなどに先例を持つ。彼らは聖書や中世の歴史,シェークスピアやダンテなど文学に主題を得ながら,それを初期ルネサンスの画家に倣った入念な細部描写,因習にとらわれない構成で描いて,神秘と象徴の世界を作り出した。
 スイスのアルノルト・ベックリーンもまた,物質主義の現代を捨てて,どこにも見出せない理想の国を目指した一人であった。
 フランスでは,ピエール・ピュヴィス・ド・シュヴァンヌとギュスターヴ・モローが,19世紀前半のロマン派と世紀末をつないで象徴主義の重要な画家となった。
 オディロン・ルドンは,1890年代以降,象徴主義の最も豊かな絵画表現を生み出している。
 象徴主義は19世紀末にはベルギー,オランダ,スイス,オーストリアなど全ヨーロッパに広がり,ユーゲントシュテイル,アール・ヌーヴォーなどと呼ばれる世紀末の美術運動と密接に絡み合いながら,20世紀の芸術を準備した。
[カラー版] 西洋美術史(高階秀爾監修 美術出版社)より(一部省略)



 楽しい世紀末年表(そのうちもう少し詳しいのを作ります)
1841 バレエ『ジゼル』
1843 ポオ『黒猫』
1844 デュマ『三銃士』
1847 『嵐が丘』『ジェーン・エア』
1848 ラファエル前派兄弟団結成
     デュマ・フィス『椿姫』
1850 ワーグナー『ローエングリン』
1852 ミレー『オフィーリア』
1853 ヴェルディ『椿姫』
1857 ワーグナー
    『トリスタンとイゾルデ』
    ボードレール『悪の華』
1861 モリス=マーシャル=フォークナー
    商会設立
1864 ロセッティ
    『ベアタ・ベアトリクス』
1865 キャロル『不思議の国のアリス』
1872 ニーチェ『悲劇の誕生』
1874 第1回印象派展
1875  モロー『出現』
1877 バレエ『白鳥の湖』(初演)
1884 ユイスマンス『さかしま』
1890 ケルムスコット・プレス設立
1892 ミュンヘン分離派結成
1893 ワイルド『サロメ』
1894 ビアズリー『サロメ』
    ミュシャ,サラ・ベルナールの
    ポスター発表
1897 ウィーン分離派
1840 アヘン戦争
1841 パンチ創刊
1842 ウィーン・フィル創設
1848 マルクス,エンゲルス
    『共産党宣言』
1849 ドレスデン革命
1851 ロンドン万国博
1854 日本開国
1855 パリ万博

1858 日米修好条約
1859 ダーウィン『種の起源』

1863 リンカーン奴隷解放
1864 メンデル遺伝法則
1868 明治維新
1870 普仏戦争,DNA発見
1871 パリ・コミューン
1876 電話機の発明(ベル)
1878 自由民権運動
1885 フィルムの発明(イーストマン)
1887 電磁波の発見(ヘルツ)
1889 大日本帝国憲法
1894 日清戦争,
    ウェルズ『タイムマシン』
1895 リュミエール兄弟のシネマトグラフ
1897 電子の存在(トムソン)
1898 スタニフラスキー,
    モスクワ芸術座創設
1900 フロイト『夢診断』

 年表の参考はやっぱり…(一家に一冊)『情報の歴史』(松岡正剛監修 NTT出版)



参考文献 っていうかこのへんを読むと楽しいよ。

象徴派とデカダン派の美術−幻想の19世紀末』ジョン・ミルナー 吉田正俊訳 PARCO出版
世紀末の街角』海野弘 中公新書
世紀末芸術』高階秀爾 紀伊國屋書店
イギリス貴族−ダンディ達の美学と生活』山田勝 創元社
ワーグナーと世紀末の画家たち』河村錠一郎 音楽之友社
「世紀末ヨーロッパ象徴派展」図録 発行:東京新聞
「週刊朝日百科世界の美術16ラファエル前派とモリス」朝日新聞社1978

 本文を含めて,画像がいっぱいありますが,著作権はクリアしてるはずです。こういうことはまだよくわかってないので,何か問題になりそうなことがありましたら,どうぞお知らせ下さい。著作権法第32条の「引用」ってのもよくわかりません。
 ただ,いずれも部分や小さいものですし,色も忠実に出ていないと思いますので,あくまで参考・サムネイルと思って下さい。興味をもたれたら,ぜひ美しいグラビアの画集でご覧になることをおすすめします。
 E-mail:hisae@qa2.so-net.or.jp
Vol.0 March 1997


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