Lohengrin

ローエングリン』(ワーグナー 1850)
 先代のブラバント侯爵の死後,公女エルザと散歩に出た弟のゴットフリートが森の中で行方不明になる。ゴットフリートは魔女オルトルートに白鳥に変えられたのだが,オルトルートの夫でブラバントの領主を狙う伯爵テルラムントはエルザを弟殺しの罪で訴える。エルザが領主となり,秘密の恋人を宮廷に上げようとたくらんでいるというのだ。
 ハンガリー軍を迎え討つ軍団を徴兵するためブラバントを訪れたハインリヒ王はこの調停をすることになる。エルザはなんの申し開きもせず,彼女の名誉のために戦ってくれる騎士を待っていた。白鳥と共に現れた騎士は決して自分の名を尋ねてはならぬとエルザに誓わせた上で,彼女の夫となることになる。
 しかし,ローエングリンに倒されたテルラムントの妻で,かつてブラバントを支配していた一族の末裔オルトルートのそそのかしにより,エルザは禁を破ってしまう。騎士は自分が聖杯王パルシファルの息子ローエングリンであることを明かし,白鳥を弟に戻し,去って行く。

登場人物
ローエングリン:テノール。聖杯の騎士パルシファルの息子。3幕など歌いっぱなしなので相当キツイのでは?
エルザ・フォン・ブラバント:ソプラノ。ワーグナーにはめずらしく,「自己犠牲の乙女」ではない。その分「バカな女」の印象を残し,聴かせどころも1幕の「エルザの夢」くらいなので(これも“夢見る少女”の歌である),ヒロインなのに拍手が少ない。
フリードリヒ・フォン・テルラムント:バリトン。ブラバント国伯爵。どうやっても妻に頭が上がらない夫。
オルトルート:メゾ・ソプラノ。テルラムントの妻というより,キリスト教に滅ぼされた旧時代の神々の怨念を一身に背負ってる女。原話で性格付けがされてない分,役柄がワーグナーによってより深く創造された。2幕では,ニーベルングの神々の名を叫び,拍手喝采。実はおいしい役。
ゴットフリート:黙役。エルザの弟,ブラバントの世継ぎ。声の指定がないので何歳でも可。自分の息子をよちよち登場させる演出家(ゲッツ・フリードリヒだよ)もいるが,若く美しい王子さまとして一族の期待を背負って登場の場合も。もし歌があるなら絶対ボーイ・ソプラノ。
ハインリヒ・デア・フォーグラー:バス。ドイツ王,ハインリヒ1世がモデルらしい。でも10世紀なんて今のドイツの感覚と違うよねえ。重々しいが,よく考えると結構マヌケな役。
王の伝令:バス。歌う前に必ずトランペットの華々しいファンファンーレがあるので注目度No.1。端役にも関わらず人気歌手が歌うこと多し。

時代:10世紀初頭のアントヴェルペン(ウェルペ)現在のベルギーに位置する。

1幕(アントヴェルペン近郊のシェルデ河畔の緑野)
前奏曲。第1場:ハインリヒ王の登場
第2場:「エルザの夢」,ローエングリンの登場
第3場:ローエングリンの禁問と愛の告白,テルラムントとの闘いと勝利
2幕(アントヴェルペンの城内)
第1場:テルラムントとオルトルートの諍い
第2場:オルトルート,エルザに不安を植え付けることに成功。
第3〜5場:結婚式
3幕(新婚の部屋,シェルデ河畔の緑野)
前奏曲。第1場:「婚礼の合唱」
第2場:寝室。エルザはついに“問い”を発してしまう
第3場:ローエングリンの名乗り「はるかな国から」。白鳥の登場と別れ「私の可愛い白鳥よ」。オルトルートは勝利を歌うが,白鳥はゴットフリート王子に戻る。エルザはその場に倒れ,幕。

原『ローエングリン
 1283〜88年に成立。作者不詳。
 エルザが救いを求めて祈ると,はるか遠方のモンサルヴァートで鐘が鳴り,聖杯はパルシファルの息子ローエングリンをさし向ける。馬に乗ろうとしたローエングリンのところに白鳥が舟を引き現れ,連れていく。道中,白鳥は魚を取ってローエングリンを養う。
 誓い(名を名乗るが,素性は尋ねないようにとのヴァージョンあり)をたてたエルザとローエングリンの間にはやがてふたりの美しい子供が生まれる。しかし,やはりオルトルートのそそのかしにより,エルザは「問い」を発せずにはいられなくなる(躊躇するエルザをローエングリンが三度促して言わせてしまうという昔話的モチーフもある)。ローエングリンは母親の指輪を妻に与え,妻と子の幸せを約束し,自分を連れてきた白鳥に乗り去っていった。(二人の息子のうちひとりは“ローエングリン”という名で皇帝に引き取られる)

聖杯:グラール。キリストが「最後の晩餐」で使用した盃,また十字架にかかったキリストから血を受けた器。スペイン北部の山中にあるといわれるモンサルヴァートの城に騎士たちにかしずかれて安置されている。「聖杯の探求」はアーサー王と騎士物語の重要なモチーフであるが,騎士たちは聖杯に翻弄され,アーサーの王国崩壊の一因ともなる。ローエングリンの父パルシファルは「聖杯の騎士」であるが,その座はランスロットの息子ガラハットに代わられる。

参考文献

『ワーグナー ローエングリン』(名作オペラブックス31 音楽之友社)
『中世騎士物語』(ゲルハルト・アイク 鈴木武樹訳 白水社)
『英雄誕生の神話』(オットー・ランク 野田倬訳 人文書院)
 その後のローエングリンの運命は『図説 アーサー王伝説事典』(ローナン・コグナン 山本史郎訳 原書房)に載ってます。
 挿絵の美しい『ローエングリーン』(高辻知義訳 東逸子絵 新書館)はまだまだ店頭にあります。ふふ。

 しつこくいってるルネ・コロの声はカラヤン−ベルリン・フィル(EMI)で聴けます。
 すごい詳しそうにいろいろ書いてますが,オペラ自体はそんなにたくさん観てるわけじゃありません。だって,ワーグナー体験以前に「ローエングリン」の物語に夢中だったんですもの。

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