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10階の窓の向こうに、その女の部屋がみえた。
糸屋のビルだが、8階の窓が10階の窓に相当する位置にあるとは生意気だ。
俺のビルは造りも古いが、天井も低い。
以前、地元の社会福祉協議会に勤めていた知人が、アメリカ人を連れてきたときは実に恥ずかしかった。身を低くして通らなければ部屋にも入れなかった。
女は会社勤めか、夕方早くには帰って窓の前に立つ。その時間から察するに、同じビルの糸屋の店員かも知れない。そうして窓を開けたまま、おもむろに服を脱ぎにかかる。
それを素通しガラスにしている居間の窓から、痩せた身を、痩せガエルが地べたに貼り付いたようになって、監視にこれ努めた。
ハダカの女が窓際に立つことを知った翌日、川を渡った墨田区のディスカウントショップに双眼鏡を買いに走った。いよいよ本格的なのぞき体制を確立するためだ。
ドキドキしながら、その時間を待った。
明かりが点いて、女の影が――。
来たーっ!
見えたーっ!
ブラジャーが外れて白い肌が現われる。くるりと背中を向けると、またそれが電灯の光の中にまぶしげに浮かびあがった雪の肌。
その後、ちょっと移動し、姿はいったん消えかかるが、次に見えたときは位置がさっきよりは遠景になっているので、後ろ向きのヒップが目にふれる。
ヒップにかかっている物を、すっと降ろした一瞬、たわわな稜線がくっきり現われ、いよいよ興奮のクライマックスである。
だが、そこから先はなにもない。風呂に行ったようである。
テレビの向こうに部屋の壁があり、タンスの一部が見えるだけの光景だったが、次に展開される光景を期待して、なおも息を殺して双眼鏡を手にのぞきをつづけている。
昔、大阪であった銀行人質ろう城事件。テレビカメラが据え置きに捉えた閉じられた銀行のシャッター画像。何かを期待し、眠い目をこすりこすり眺めたあの場の心境そのものだった。
やがて風呂から出た女が帰ってくる。
さっきのタンスの前にきて着がえの下着を身に付けはじめるのだが、見えそうでいて肝腎かなめの部分はなかなか見えない。
考えてみたらオッパイがもろに見えたという記憶もないのだが、ただ、そののぞきの間じゅう、心臓がドキドキと高鳴り、終始興奮していたことだけは事実だ。
そんなことを何日繰り返したことか。
仕事場の窓は曇りガラスで女の帰りは窺えず、居間の押し入れから鏡をリレーさせるなどして、仕事場からその部屋に明かりがつくのを監視にこれ努めるなどという芸当も試みた。
いずれにしてもその時間が近づくとキョロキョロソワソワ落ち着かず、勝手の利く自営とはいえ仕事が手に付かないでは〈おまんま〉の食い上げ、いつしかのぞきはやめにした。
なんとも情けない話ではあった。
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