ボログホンタ創刊一周年記念・大公開 深刻劇『忠治意外伝』
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●第三幕●

本番舞台 本妻・お徳の家

 布団にくるまれ、大八車で運ばれてきた忠治。
 大八を支える清五郎、玄関に立つ安造。
 びっくりして玄関に駆け寄る本妻・お徳。

 お徳 ……で、相手は誰だい!? 木枯らし紋次郎かい? 子連れ狼かい?

 安造 いや姐さん、そうでもねえんだ…。

 お徳 あー、こんなことでもあるんじゃないかと思ってねえ、あたしゃ、日に10ペンは神棚に手を合わせて拝んでいたんだ。
 それだけじゃないよ、親分が出かける時にはいつだって欠かさず……
 それがどうしたことだい! 
(一転、エキセントリックに)神も仏もないじゃないか。自衛隊のジェット機は落ちるはずだよ。天気のぐあいもおかしくなるよ。青少年の犯罪も増えるばかりだよ。それに……

 子分2人、お徳の早合点にただ呆れるばかり。


撮影 佐藤 光信

 安造 姐さん。

 お徳 止めるんじゃないよ!……それに、なんだい、この按摩?

 市を突き飛ばす。
 地面にへたり込む市と、助け起こす安造。

 清五郎 あ、可哀想(かえーそー)に。

 安造 姐さん、抑えておくんなさいよ。

 お徳 うるさいね! 
 
(と忠治の上におおいかぶさり)お前さん、帰って来てよ。あたしの忠治を、返しておくれよ。

 安造 あ、あの一、姐さん、親分は生きていなさるよ。

 お徳 生きてる?

 安造 へい。

 布団から顔を出す忠治。
 布団の衿元が乱れてあわてる子分2人(着ているのがお町の赤襦袢だと知れると大変だ)。
 そんなことは知らない市は、今は大八の後ろを支えている。

 お徳 なーんだ、お前さん、生きてるじゃないか。
 あーん、びっくりした。お前さん、なに遊んでんだい。冗談は顔だけにしなよ。

 と安心して家の中へ戻り、座敷に座りなおす。

 安造 冗談じゃねえんで……。

 清五郎 親分は歩けねーんですよ。

 お徳 歩けない? (せせら笑って)それじゃまた大酒食らって、腰でも抜かしたんだろ?……

 大八車に寝たままの忠治。
 後ろを支える清五郎に代わり市が前に、忠治の容態を気遣う安造と大八の舵を支えている。
 一連のやりとり音声が小さくなるのにかぶさって、

 熊倉さんの語り 長年連れ添った本妻・お徳は、お町の家での発作と知り、一度は激昂するものの、やがて許し、身の上を案じます。

 安造 ……そうでもねえんで。

 お徳 じゃあ、なんだい。ヨイヨイになる年でもないだろうが。

 安造 親分は中気でさぁ。

 お徳 中気?

 安造 へい。賭場(どば)の帰りに倒れやして、医者に運んだんでやすが……

 清五郎 そうそう。医者に運んだりして遅くなったんですよ。

 安造 医者の診たてによると三月は安静にしておかなくちゃなんねえと。

 お徳 三月も!?

 安造 へい。

 お徳 まあ〜、可哀想にお前さん! 1種1級の重度身体障害者になるのかい? 役場へ行って身障手帳もらわなくちゃいけないねえ。

 お徳、再び忠治のそばへ歩み寄り、泣きすがる。

語る佐賀君

 テーマ曲「サタデー・ナイト・フィーバー」をバックに……

 佐賀 (やおらタバコをくわえ、ジッポーライターで火を点けて一服吹かし)まあ、なんと言うか……
 今度はね、とにかく差別語を吹聴して、もっと強調して使いましょう、使いましょうってアピールすることではないんですよ。それは分っていただけると思うんですけれど……。
 そういったことじゃなくて、これを言うとね、誰かが気を悪くするからとか、そういった思いやりも必要なのかも知れないけれども、そういった思いやりがあってね、言葉だけに気を使おうってな気持があるんだったらば、もっとね、なんていうか、さっきも話に出ちゃったけれども、誰が歩いてもね、通りやすいように、この辺にこんなものを置いたら絶対に人が、見えないのが来てぶつかるナ、というところにね、けっこうビールの箱が酒屋の前に出ていたり、駅前に自転車がどんどん置いてあったりとかね、車イスじゃ通れないような狭い歩道とかがあったりとかするわけでしょ。そういったところにね、もっと細かい気を配って、まあ、障害物をどかしてくれるとかね、歩道を広くしてくれるとか、言葉に気を使うよりもね、そういったほうの思いやりってのがね、すごく僕ら求めてるし、あのー、必要だと思うんですよね。

本番舞台 お徳の家〜その外〜けい古場

 忠治と市、2人だけ。
 殺気――
 いきなり仕込みをつかんで身構える市。

 市 誰か来やすぜ。人の足音がこちらへ上がって来やす!

 忠治も刀を取ってその方をにらむ。
 走り込むお町。

 忠治 おー、お町! おめえ戻ってくれたのか!?(と、言語障害は、もう、すっかり治っている)

 お町 親分、大変大変! 今、大前田英五郎が子分を連れて代官所の方へ、きっと親分のことを密告しに!

 忠治 あいつはそんなことをする男じゃ……

 お町 でも、ケンカ仕度だったわ。

 忠治 え、何!

 お町 (玄関へ飛び出し外の気配をうかがい)あっ、人影がこっちに!

 忠治 何! お町、おめえ危ねえから奥へ引っ込んでな。

 お町 でも……

 忠治 いいからいいから、ここは女の出る幕じゃねえ。

 お町、襖のむこうに身を隠す。

 忠治 (刀を掴んで凄み)とうとう、来やがったか!

  2人、3人、5人……いや、10人はいるようだなあ……

 熊倉さんの語り たった2人の子分も去り、本妻・お徳の家に病の体を休める忠治――。
 やがて、ケンカ仕度の大前田英五郎一家と、奉行所の捕り手がひた押しに迫ります……

 この熊倉さんのナレーションの陰で、

 忠治 え、英五郎……(ぬぬぬぬ! と歯ぎしり)貴様、俺を売ったのかあーっ!

 奉行 えーい。黙れ黙れ黙れ!
 その方忠治か?

 忠治 そうだ!

 奉行 ホンモノか?

 忠治 そうだ。

 奉行 5年前に見た新聞の顔写真とは違うようだがな。

 と訝しがり、目明し、ふところに手を入れて、

 目明かし いや、人相書きに間違いありません……

 模造紙全紙大の手配書(漫画家・手塚治虫さん自筆によるお尋ね書き、つまり忠治の似顔絵)を広げる。
 奉行、しげしげと似顔絵と忠治の顔を見比べる、というやりとりにかぶさって、

 熊倉さんの語り ……半身不髄の忠治と座頭市は互いにいたわりながら奮戦、ドラマはヤマ場を迎えます。

 奉行 国定村長岡忠治郎、八州様の命により召し取る。神妙に、縛(ばく)につけっ!

 捕り方一同 御用だっ!!

 英五郎 このドメクラっ! 誰でもいいからたたっ斬れっ!

 テーマ曲「サタデー・ナイト・フィーバー」
 本番舞台が一転、けい古場での進行場面(於・松が谷福祉会館)へと変わる。
 (普段着姿の)英五郎の子分、捕り方らが包囲し、その中へ市が出て行く。

 そこでまた本番舞台に――

 子分A 行くぞ、やあーっ!

 まず、大前田の子分が斬りかかる。

 子分B わあーっ! 

 市の居合い斬りの前に、たちまち2人が倒れる。

 捕り方 御用だ! 御用!

 六尺棒を差し出す捕り方、それを市が斬り上げ――
 けい古場場面と本番舞台のめまぐるしい交錯。


撮影 芥川 仁

 市が斬る。
 また一人……


撮影 佐藤 光信

 そうして最期に残った浪人も斬る。
 と、目明しの一人は家の中へ――

 目明かし (おカマさんみたく声で)御用!

 忠治 なんだ、おまえは!


撮影 佐藤 光信

 と忠治も斬った〜〜ッ!
 お徳がもどった。
 襖の陰から出てきたお町とハチ合わせ。

 お徳 みんなで逃げよう。

 お町 あいよ! 

 また、けい古場と本番が交錯。お徳が忠治を抱き上げ、大八車に見立てた車イスを押してお町が駆け寄る。
 それに乗せられ、「右だ、いや、もう少し左」と方向を示す忠治――。
 一連の場面にかぶさって……

 本間の声 これはテレビヘの反逆っていうか、マスコミヘの反逆……ま、僕が出している新聞がミニコミ紙ですからねえ。ミニコミで何ができるかっていうことなんですけれど。
 そういう差別語を規制したテレビが何をやっているかというと、要するに大勢に左右されて、たとえば「差別語だ!」って糾弾する団体が出てきたら差別語をやめちゃうと、安楽死がどうのこうのと、「安楽死制度に反対だ!」と言ったら、今度は植物人間を抱えている患者家族から批判されて、今度は安楽死肯定のね、劇映画をアメリカあたりから持ってきて、それを放映するみたいな、そういう、なんかこう安直なやり方をしているわけですよね。
 むしろ本当に障害者の実情を伝えるということでいったら、そういう安楽死制度もおかしい、障害者の実情はこうだというふうに、障害者もおんなじ人間であるという視点に立ってね……

 本間のアップに変わって、

 本間 「同じ命である」といった尊さを訴えてこそ、それが本当のテレビのやるべきことではないか。それをやってない。
 そういったテレビの見せかけの福祉論みたいな、そういったものに反逆したいというつもりでね、こういう劇をやったわけです。ですから理屈がどうのこうのっていうんじゃなくて、肌で、その、体験でね、感覚で知ってもらいたい。同じ人間がそこで芝居を演じている、そういうものをね、皆さんに見ていただきたい、そういうつもりで是非ね、一人でも多くの人に、この芝居を見てもらいたいと思います。

本番舞台 決めゼリフ

 大八車の忠治、市、そしてお徳とお町。
 ここから最期までは画面も当日舞台の映像、音もリアルな当日本番音声で――

 市 ……山を下りやしょう。

 忠治 市っ!

  へいっ!(大八車のカジを取って)久し振りに大暴れができますねえ。見てくれだけのまかり通る世の中なんざ、あっしの仕込みで逆手斬りにしてやりまさあっ(拍手が湧く)

 抜刀する忠治。
 止めるお徳とお町、女2人――
 テーマ曲「サタデー・ナイト・フィーバー(スティン・アライブ)」が流れる中――

 忠治 それじゃ行くぜ。

  へい親分!

 忠治 真っ直ぐ突っ込むぜ!

 お徳 そっちは役人が……

 お町 ダメー!

 忠治 えい、止めてくれるな。ネバー・ギブ・アップ!


撮影 佐藤 光信

 「御用」「御用」の喚声の中――
 大八車を引いて歩き出す市、刀をふるって指揮をとる忠治――。
 その声も、追いすがって叫ぶお徳とお町の声も、観客の拍手と効果音の太鼓でかき消される。
 やがて、「御用、御用」と捕り方の声が渦を巻き、市と忠治は下手に消えて行く。
 あとに残され、叫び続ける女2人。
 そこへゆっくりと緞帳(幕)がおりる――。


●●●次はエンディング&クレジット


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オープニング  開演前写真集

●通常文字バージョン  第一幕  第二幕  第三幕
○色抜文字バージョン
  第一幕  第二幕  第三幕

エンディング

顛末(てんまつ)記__開演前からにぎやかに  記念エッセー__茜の空の座頭市
深刻劇
・忠治意外伝__全台本


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