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拍子木一つ鳴ってタイトル―― ●語る座頭市役者・佐賀君 字幕 佐賀 やっぱりテレビの『座頭市』ですよねえ、勝新太郎の。そういったイメージしかないんだけども。
字幕 電気バリカンで一気に刈り上げられる佐賀君。 佐賀 ……はい、よろしく。 床屋さん(女性) 前の方から? 佐賀 イヤ、どこでもいいです。 床屋さん 前からやります。 佐賀 全部切んなけりゃいいんで……。 ボランティア学生 派手に行きましょー、派手に。 床屋さん 五分五分。 佐賀 五分ですか。 演出の飯田さん 拍手〜。 拍手する仲間たちの面々。 ●けい古場 テーマ曲「サタディー・ナイト・フィーバー(スティン・アライブ)」に乗って―― (ナレーション)熊倉一雄さんの語り ひと昔前なら……あ、いや、もはやふた昔と言うべきでしょうか。 テーマ・ミュージック、オフとなり――
●本番舞台 妾・お町の家 酌をするお町。 お町 こんなので? 忠治 いいんだいいんだ。 と、夜目にも真っ赤な襦袢の忠治、おチョコならぬ湯飲み茶碗で酌を受ける。 お町 イギリスじゃあ、もう何人も試験管ベビーができてるってよ。 忠治 へー、世の中にゃ物好きな学者がいるもんだぜ。 お町 お前さん、あたしも早くあなたの赤ちゃんが欲しいわ。試験管ベビーでも、たとえ人工受精だっていいじゃない。お前さんとあたしの子にして育てましょうよ。 忠治 冗談じゃねえよ! そんな、おめえ、他人のタネでつくったファミリーなんぞ、いつ裏切るかわかりゃぁしねえ。ガキがマサカリ持って、襖のむこうで目ぇ光らせてると思ったら、よ、夜もおちおち眠れるけえ。 お町 だってさあ……だって、そんなこと言ったって、そんなことでもなきゃあ、マスコミは昔の忠治みたいに注目してくれはしないよ。それを足がかりにして、また名前を売りゃあいいじゃないか。 忠治 だからってごめんだぜ、そんなのは。
一転お町、ふて腐れ顔。 お町 それじゃ、あたしはいつまでたっても日陰の花じゃないの。少しは男を売って、忠治の第一夫人と誇れるぐらいにしてよン。 忠治 お、そうよ。 と、やおら思い出し、刀を取って、 忠治 男を売る絶好の機会があるんだぜ。 お町 なによ。 忠治 今、新町村で百姓と役人がやり合ってんだろ。それの仲裁に入って男を上げるんだ。 お町 ちょいとお前さん。 忠治、刀を取り戻されてズッコケル。 お町 誰の前に出るって行ったの? 忠治 そりゃあお前、(精一杯のミエを切って、腕組みなどして)百姓と八州の、役人の前にへえるのよ。 お町 バカだねえ。 お町、思いあまって立ち上がる。 忠治 (お町を見上げつつ)どうして。 お町 (ふりをつけながら)それじゃ捕まりに行くようなもんじゃないの。 忠治 あーあ、2人しかいないんだったなあ。 お町、ふたたび座って忠治と向かい合う。 お町 いいよいいよ。あんたが有名になる機会がくるまで(ポンと胸をたたき)あたしが守ってあげるから。 そう言って肩に手をかけ、色っぽく笑いかける。 忠治 すまねえなあ、お町。 お町 なに言ってんのよ。 お町 なによ。 忠治 それじゃ、やるか。 お町 待ってよお、まだ早いわよ。 忠治 待てねえんだよ。 お町 ウーン(困った顔)。 忠治 これをこうして(布団をめくって誘いかけ)、さあ。 お町 物事には順序ってものが…… 忠治 そんなのはねえ、ヒマ人に言ってくれよ(と迫る)。 お町 イヤン、バカだねえ〜。 と、突然―― 忠治 うっ、あっ、あっ、ああーっ!! 卒倒する。 お町 ちょいとお前さん、どうしたのさ。ちょいと様子がおかしいよ…… 忠治 (苦悶して)はあっ、は…… お町 キャアアアーーーーッ!! びっくりして立ち上がり、 清五郎 お町さん、どうしたい! 飛び込む清五郎――
●語る忠治役者・本間 字幕 本間 もう、カッコ悪い芝居なんですねえ。忠治の晩年の、もう中風になって身体障害の身になったというところの話で…… ●本番舞台 再びお町の家 忠治を診察する医者。 清五郎(横の安造に) おい、親分はもう終わりなんじゃねえかなあ。 突然伸び上がり、 医者 中風じゃあっ! 思わず立ち上がる安造。 安造 中風?……中風って、なんでやんすか? 医者 中気(ちゅうき)じゃよ、。そんなことも知らんのか。 安造 ハア、中風と中気は、おなじなんでやんすか。 医者 三月は安静にせんとな。 お町 三月!!?? 医者 寝たきりにしておくのじゃ…… 子分と医者とお町とのやりとり音声、小さくなった上にかぶさり、 熊倉さんの語り 弱り目にたたり目。落ち目の日々のヤケ酒が身の仇となり、中風の発作に倒れる忠治、医者は“3か月の絶対安静”をお町に命じます。 忠治の横でヒステリーをおこすお町。 お町 そんな、迷惑だわっ! 医者 しかしのー、このご病人は半身どころか、左の肩から手先までと、胸から下が全くイカンのじゃよ。 か細い忠治の足つまみ上げ、股引をめくってガイコツの足をしごき出し、 医者 ほれ! わずらったばかりでこんなに細くなっておるだろうが……。
清五郎 やれやれ。 お町 そんなこと言わずに何とかしてよ。でなきゃ、あたし困るわ。 医者 かと言って、わしに言っても困るわの。 医者にすがるお町、医者がクソの役にもならないと知るや立ち上がり、 お町 ウンチとオシッコの後始末から、ご飯の世話までしなきゃならないなんて、そんなのみじめよ。 医者 おお。それじゃ、福祉事務所に相談なさい。 お町 そんな世間体の悪いことできますか。 効果音声で、 忠治の声 国定村、長岡忠治郎、長岡忠治郎をよろしく。 拍手、喚声――。 お町 あたしはその忠治の第一夫人としておさまるの。 効果音声 お町 (豹変、逆鱗!)それがどうしたことよ! 寝たきり病人の世話をして一生を送らなければならないなんて……そんなのみじめだわ! そんなのあんまりだわ、あんまり残酷ヨ! 忠治 三月すれば回復するかも知れんのじゃ。医学も進歩しておることだし。 お町 そんなにガマンできないわ。治る保証だってないんでしょ? 医者 ない!
医者 ちょいと手を洗いたいがのぉー…… お町 じゃ、こちらへ! と面倒そうにして案内するが、途中思い出したように、トイレに立つ医者を追いかける。 お町 ね、じゃ施設に入れたら? 最近は設備も立派で、ボランティアの慰問もあるって言うわよ! 医者 ほうほうほう……。 熊倉さんの語り 倒れた忠治の枕元で福祉施設へ預けようという相談が、医者とお町の間で進みます。 |