−工房の目指す純粋手工−





製作法について

工法

出来上がったギターはどれを見てもほとんど同じように見えるが、ギターの製作法には様々な工法がある。近代『職人』はきめられた時間内に仕事をこなすものだとされ、ギター製作も効率的な工法で時間短縮、高い生産性を追求された。それは日本、米国などで顕著である。
 効率的な製作スタイルでは、一人の職人で一ヶ月、約10台製作することもできる。しかし伝統的なスペインスタイルの製作法だと一ヶ月1台ぐらいしか出来ない。1/10という能率の悪さだ。スペインスタイルの製作法は、基本的に能率よりも音響を考慮しているからだ。
 私自身、修行時代に能率的な日本の工法で数多くの楽器を作った。手が早く数多く製作出来る事は職人としての誇りであると思い続けていたが、グラナダの職人は『製作本数』ではなく『陶冶の行程』を誇りとしていた。大量にギター生産される時代が終わり、森林資源も枯渇しつつある現在、再び『音響』にこだわったスペイン工法でこそギターは作られるべきだ。(具体的なスペインスタイルは『Antonio de Torres への道』を御参照下さい。)



3種類のネックジョイント形式。
 上がワンピースネック。木材を『への字』に切ったもの。フォークギター、エレキギターに良く見られる物だが加工は容易なものの衝撃に弱く楽器の転倒時にヘッドから折れやすい。安価なクラシックギターに採用されている。
 中はクラシックギターのオーソドックスな継ぎ方法。強度的に問題は無く手工品の大部分はこの方法で作られている。
 下はVジョイントと呼ばれる方式。ネック側を凸に、ヘッド側を凹にし三角部分にテーパーをつけ接着する。組み合わせてあるので強度的に優れているが加工調整に時間の要する方式。ハウザ−、ロマニリョスらにより使われ続けている。


表面板と側板を貼り合わせている写真。
『単体ブロック』と呼ばれる三角形の小さなブロック(スペイン語ではぺオネス。)を使い接着する。
長いライニング(糊付けようの部材)に鋸目を入れた物を棒のまま曲げて接着使用する方式の方が効率的だが、内部応力が残り振動を妨げる。
接着の確実さと物理的な音響効果を考えると『単体ブロック』形式がよい。
少しずつ膠で接着していくので時間がかかる。



装飾

原則的に、弦巻以外のものは製作者自身が作るものだと考えている。
純粋手工で重要なのは皮肉にも音響にはあまり関係しない装飾かもしれない。と言うのは現在サウンドホール周囲のロセッタ、その他の装飾部品を自作する製作者は減りつつあるからだ。
 木工の象眼細工はとても時間を要する作業だ。量産化の分業で木工象眼を専門とするメーカーが出現し、格安のコストでオリジナルデザインのものを受注できるようになった。精度も高く個人製作家のものより凝った物が出来る。
 しかし、装飾はギターの顔である。いかに手間がかかろうが製作家自身が自ら作り上げてこそ手工品だと考える。バイオリンのF穴を他人に彫らせるバイオリン製作者がいるだろうか?ギター製作者がこの技術を失わない為にも自作は必要だ。


ロセッタの製作。
このデザインはアルハンブラ宮殿内の彫刻パターンをモチーフにした。ローズウッド、シナ、カエデのつき板を組み合わせ接着し、薄く挽きそれぞれを合わせて柄にする。
横はバナ−状に挽いたもの。
斜下はバナ−を組み合わせた写真。
下は完成し表面板に接着した写真。


 オリジナルデザインはコルドバの名工 Miguel.Rodriguez(1888-1975)のもの。優雅で洗練されたデザインに感銘を受けコピー。メスキータを残したイスラム文化を感じる。黒檀、メイプル、パドック、シナ、白蝶貝等を使用し組み上げる寄木細工。

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使用工具

手工と書けばすべてを手道具のみで製作しているように思われるが、木材の切断、加工には最低限度の電気機械工具を使っている。
 ただし、音響に関係する作業には電気工具は使ってはならない。研磨作業にサンダ−マシンを使う等もってのほかである。ギター組み立ての段階では古来からの道具を使うようにする。例えば接着作業時クランプと呼ばれるギア式の締め具をなるべく使わず、手加減の効きやすいヒモを使い接着し無理な力をギターに残さない。スペインでいまだにロープが使われ続けているのには訳がある。
技術の進歩により工具類も進化するかも知れないが、家具ではなく『楽器』を製作している事を念頭に使用工具を選びたい。


ヒモも工具の一部です。
縁巻きと縁巻き飾りを接着する作業はヒモで巻ながら行う。このほかにも裏板の接着時などにもヒモを使う。
ヒモは圧着する部位を定めやすく、かける力もコントロールできる。
『はたがね』『クランプ』が使われるようになる以前は木工の接着技術として広く使われていた。
古い技術だが楽器作りには欠かせない技術だ。




職人

工房で働いているのは現在私一人である。徒弟制度は技術を伝えてゆく為に必要だが、往々にして過ちも起こりやすい制度だ。実際、ギターのラベルに書かれた製作者名が実は監修者名であったりするものが多い。
 効率を考え作業の分担化(部材作り、組み立て、塗装、仕上げ等)をする工房もあるが、楽器の目指すものが見えにくい。製作作業の始めから終わりまで一人の職人が責任を持ち、自らの手で行うのが理想的。



製作期間について

製作者は基本的に納期を定められにくいものだと考えている。様々なインスピレーションが製作中に浮かび製作法を考えるからだ。私は4本を3〜4ヶ月の行程で仕上げている。



奏者と製作家の距離

工場で生産される楽器は業界の流通経路を経てユーザーの手に渡る。奏者と製作する現場に距離があり奏者が楽器に求める音楽が製作する側にほとんど届かない。工房と言えども量産体制で作り上げている場合小回りが効かないので微細な注文は受け入れられないだろう。
 楽器を製作する上で大事な事は『音楽』であることは言うまでもないが、演奏家が望む音楽をほぼ理解している製作者はほぼ皆無である。『音楽』のとらえ方は個人差がある。製作家の意図と演奏家のそれはディスカッション無しに合致する事はありえない。両者にとって互いに理解しあうのは骨の折れる作業だが重要だ。せめぎ合いの結果製作のヒントに結びつくものが発見できる。演奏者と製作者の距離は無い方がいい。
 敏感に作られた手工ギターは華奢である。使用される状況や、長い年月のうちになんらかのトラブルはどんな楽器にも発生しうる。製作工房とつながりがあれば製作者本人と相談が出来るだろう。


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